
1984年11月15日にリリースした、アリスタ移籍第6弾(ライヴ・アルバムを含めれば第7弾)で通算20作目のオリジナル・スタジオ・アルバム「WORD OF MOUTH」は、全米57位までしか上がらず、レイ・デイヴィスが率いるキンクスはアリスタから契約継続を断られてしまい、結果的にはアルバム「WORD OF MOUTH」がアリスタでの最後のオリジナル・スタジオ・アルバムとなってしまいました。アルバム「WORD OF MOUTH」は、デイヴ・デイヴィスの一時的な脱退と、復帰したデイヴ・デイヴィスの意志で、ドラマーがデイヴィス兄弟以外では唯一のオリジナル・メンバーだったミック・エイヴォリーから、元・アージェントのボブ・ヘンリット(当時のベーシストであるジム・ロッドフォードも元・アージェント)へ交代した事もあって、メンバー構成が不安定な時期に制作された上に、肝心なレイ・デイヴィスがクリッシー・ハインドに捨てられて失意のどん底にあったりもして、充分にバンドとしての力を発揮出来なかった時期の作品でした。それでも何とか全米57位まで上がったわけで、コレがRCA時代だったなら即刻クビになるなんて事にはなっていなかったでしょう。しかし、アリスタはその点は厳しくて、1986年6月2日にLP2枚組でのベスト・アルバム「COME DANCING WITH THE KINKS:THE BEST OF KINKS 1977-1986」をリリースして契約枚数を消化して、バッサリとキンクスを斬り捨てたのです。タイトルには「1977-1986」とあるものの、収録されたのは1977年のアルバム「SLEEPWALKER」から1984年のアルバム「WORD OF MOUTH」までの楽曲で、つまりは1985年から1986年までの楽曲は収録されていません。何せ、当時のキンクスは1985年にはアリスタに契約を切られたので、次の移籍先となった「英国ロンドン/米国MCA」と1986年3月に契約するまでの間には、どのレコード会社とも契約していない状態だったのです。
しかも、漸く契約した英国ロンドンは落ちぶれていて、インディー・レーベルに成り下がっていたのでした。それでもキンクスは、1986年11月17日にロンドン/MCA移籍第1弾で通算21作目のオリジナル・スタジオ・アルバム「THINK VISUAL」をリリースしました。レコーディングは1986年1月と、6月から8月に行われているので、キンクスはまだどことも契約を結んでいなかった時期にもレコーディングを敢行していた事になります。アルバム「THINK VISUAL」の内容は、A面が、1「WORKING AT THE FACTORY」、2「LOST AND FOUND」、3「REPETITION」、4「WELCOME TO SLEAZY TOWN」、5「THE VIDEO SHOP」で、B面が、6「ROCK'N'ROLL CITY」、7「HOW ARE YOU」、8「THINK VISUAL」、9「NATURAL GIFT」、10「KILLING TIME」、11「WHEN YOU WERE A CHILD」の、全11曲入りです。「ROCK'N'ROLL CITY」と「WHEN YOU WERE A CHILD」の2曲がデイヴ・デイヴィス作で、他の9曲はレイ・デイヴィス作で、プロデュースもレイ・デイヴィスことレイモンド・ダグラス・デイヴィスです。この時のキンクスは、レイ・デイヴィス(ヴォーカル、リズム・ギター、キーボード、ハーモニカ)、デイヴ・デイヴィス(リード・ギター、キーボード、バッキング・ヴォーカル、「ROCK'N'ROLL CITY」と「WHEN YOU WERE A CHILD」のリード・ヴォーカル)、イアン・ギボンズ(キーボード、バッキング・ヴォーカル)、ジム・ロッドフォード(ベース、バッキング・ヴォーカル)、ボブ・ヘンリット(ドラムス、パーカッション)の5人なのですが、「ROCK'N'ROLL CITY」のドラムスはミック・エイヴォリーが叩いています。以前のストックかもしれませんが、よりによってデイヴ・デイヴィスの曲だと云うのが憶測を呼びます。他には「THINK VISUAL」で、女優のキム・グッディーがバッキング・ヴォーカルで参加しています。
キム・グッディーの参加もデイヴ・デイヴィス絡みで、元々は1983年リリースのデイヴ・デイヴィスのソロ・アルバム「CHOSEN PEOPLE」にバッキング・ヴォーカルで参加していて、その流れでこの1986年のキンクスのアルバム「THINK VISUAL」にも参加しています。レコードだとB面の1曲目の「ROCK'N'ROLL CITY」と、アルバムの最後の「WHEN YOU WERE A CHILD」が、デイヴ・デイヴィス作で歌っていて、プロデュースもレイ・デイヴィスと共同で行っていると思われるので、随分とデイヴ・デイヴィスを前に出しています。しかしながら、キンクスはレイ・デイヴィスのバンドであって、一蓮托生なので、やはり印象に残るのはレイ・デイヴィスなのです。前作アルバム「WORD OF MOUTH」同様に、もはや空元気とも云えるロックンロール路線でグイグイと引っ張ってはいるものの、未だにクリッシー・ハインドに捨てられたショックを引きずってもいて、名曲「LOST AND FOUND」や、語り掛ける様な「HOW ARE YOU」と云った曲では、女々しすぎるレイ・デイヴィスをさらけ出しています。一方、「WORKING AT THE FACTORY」や「WELCOME TO SLEAZY TOWN」や「THE VIDEO SHOP」や「THINK VISUAL」などでは、お得意の社会風刺が全開です。ところで、このアルバム「THINK VISUAL」は移籍第1弾なのですけれど、リリース当時にはそんな事は全く意識していませんでした。1984年の前作アルバム「WORD OF MOUTH」も、1986年のベスト・アルバム「COME DANCING WITH THE KINKS:THE BEST OF THE KINKS 1977-1986」も、この1986年のアルバム「THINK VISUAL」も、全てリアルタイムでレコードを買ったのですけれど、移籍がどうしたなんて話題は記憶にありません。それなのに、レイ・デイヴィスとクリッシー・ハインドの色恋沙汰はとっても有名だったのですから、今も昔もその辺のマスコミの下世話なところは変わっていませんなあ。移籍第1弾のアルバム「THINK VISUAL」は、なかなかの良作ながら、全米81位と落ちてゆくのでした。
(小島イコ)
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