
レイ・デイヴィスが率いるキンクスは、1976年にRCAからアリスタへ移籍して、パイ時代の後期からRCA時代の全てを賭けたコンセプト・アルバムを止めました。その結果、1977年リリースのアリスタ移籍第1弾で通算15作目のオリジナル・スタジオ・アルバム「SLEEPWALKER」は全米21位とヒットし、1978年リリースの移籍第2弾で通算16作目のオリジナル・スタジオ・アルバム「MISFITS」は全米40位止まりだったものの、シングル・カットした「A ROCK'N'ROLL FANTASY」が全米30位とヒットして、1979年リリースの移籍第3弾で通算17作目のオリジナル・スタジオ・アルバム「LOW BUDGET」は全米11位まで上がる大ヒット作となりました。シングル・カットしたディスコ調の「(WISH I COULD FLY LIKE)SUPERMAN」も、全米41位まで上がっています。キンクスがディスコ?と思われるでしょうけれど、1970年代後半には、ローリング・ストーンズも「MISS YOU」(全米首位!・全英3位)をやったし、サー・ポール・マッカートニーのウイングスも「GOODNIGHT TONIGHT」(全米5位・全英5位)をやったし、元々はキンクスに憧れてパンク・バンドとしてデビューしたブロンディも、ディスコに走って「HEART OF GLASS」(全米首位!・全英首位!)となっています。ところで、乃木坂46の新曲「是非に及ばず」って、キンクスの「(WISH I COULD FLY LIKE)SUPERMAN」に似ていると思います。それはそれとして、キンクスは地道なライヴ活動もつづけていて、アルバム「LOW BUDGET」を引っ提げたライヴ音源から、1980年にライヴ・アルバム「ONE FOR THE ROAD」をLP2枚組でリリースして、全米14位とヒットさせています。ライヴ・アルバムからシングル・カットした「LOLA」(B面は「CELLULOID HEROES」)も、全米81位まで上がっています。
勢いに乗ったキンクスは、1981年8月15日(米国)・1982年2月15日(英国)に、アリスタ移籍第4弾で通算18作目のオリジナル・スタジオ・アルバム「GIVE THE PEOPLE WHAT THEY WANT」をリリースしました。内容は、A面が、1「AROUND THE DIAL」、2「GIVE THE PEOPLE WHAT THEY WANT」、3「KILLER'S EYE」、4「PREDICABLE」、5「ADD IT UP」で、B面が、6「DESTROYER」、7「YO-YO」、8「BACK TO FRONT」、9「ART LOVER」、10「A LITTLE BIT OF ABUSE」、11「BETTER THINGS」の、全11曲入りです。アルバムは全米15位のヒット作となり、先行シングルだった「BETTER THINGS」は全英46位・全米92位と、英国では1972年の「SUPERSONIC ROCKET SHIP」(全英16位)以来のヒット曲となっています。シングル・カットした「DESTROYER」も、全米85位まで上がっているのですが、この「DESTROYER」と云う曲は、キンクスの1964年の大ヒット曲「ALL DAY AND ALL OF THE NIGHT」(全英2位・全米7位)をパクったと云われている、1968年のドアーズの大ヒット曲「HELLO, I LOVE YOU」(全米首位!・全英15位)をパクり返した楽曲です。レイ・デイヴィスはドアーズを盗作だなんて淋しい云い方はせずに、逆に新たな楽曲にしてやり返したわけですなあ。全曲がレイ・デイヴィス作で、プロデュースもレイ・デイヴィスことレイモンド・ダグラス・デイヴィスです。このアルバム「GIVE THE PEOPLE WHAT THEY WANT」でのキンクスは、レイ・デイヴィス(ヴォーカル、ギター、キーボード)、デイヴ・デイヴィス(ギター、ヴォーカル)、ミック・エイヴォリー(ドラムス)、ジム・ロッドフォード(ベース)、イアン・ギボンズ(キーボード)の5人組で、ライヴ活動で鍛えた絶妙なバンド・サウンドを聴かせてくれます。
そして、ノン・クレジットながら、プリテンダーズのクリッシー・ハインドが4曲(「PREDICABLE」、「ADD IT UP」、「ART LOVER」、「A LITTLE BIT OF ABUSE」)にヴォーカルで参加しています。プリテンダーズは「STOP YOUR SOBBING」(全英34位)と「I GO TO SLEEP」(全英7位)の2曲のレイ・デイヴィス作品をカバーしてヒットさせていたので、その関係性からレコーディングに参加したのかと云うと、まあ、キッカケはそうだったのでしょうけれど、当時レイ・デイヴィスとクリッシー・ハインドは恋愛関係で、二人の間には娘も誕生しているのです。1982年にキンクスは初来日公演を行っているのですが、それも同時期にプリテンダーズの来日公演が先に決まっていて、クリッシー・ハインドと離れ離れになるのがイヤだったレイ・デイヴィスが、強引にキンクスの来日公演を決めたとまで云われています。理由はどうあれ、そうして1982年に日本のファンは初めてキンクスのライヴを観る事が出来たのです。個人的には、当時は田舎の子どもだったので、1982年の初来日公演には行っていないのですけれど、やっぱり行くべきだったと、かなり後悔しました。それで、1993年と1995年の来日公演は行きましたよ。それにしても、タイトルが「GIVE THE PEOPLE WHAT THEY WANT」なんですから、パイ時代の後期からRCA時代のコンセプト・アルバムばかり出していた頃のレイ・デイヴィスとは、方向性が真逆になっています。プリテンダーズにそっくりな「BETTER THINGS」(まあ、プリテンダーズがキンクスのマネをしたわけですが)の楽観的な歌詞なんて、幸せだったんだろうなあ、と思わされます。精力的なライヴ活動や、ライヴを念頭に置いたこうしたコマーシャルなアルバムは、新たなファンを開拓する一方で、オールド・ファンからは「キンクスらしくない」とか「レイ・デイヴィスが日和った」とか云われていました。まあ、ファンなんて勝手なもんですよ。
(小島イコ)
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