
前回に紹介したビートルズ人気に便乗した楽曲を集めたコンピレーション・アルバム「BETTER THAN THE BEATLES」は、1曲目に収録されているブラッド・バーウィックの「I'M BETTER THAN THE BEATLES」から取られています。しかしながら、「BETTER THAN THE BEATLES」と云うアルバムは他にも出ていて、それは「シャッグス」と云うバンドへのトリビュート・アルバムなのです。シャッグスを知っている方々は、フランク・ザッパ先生がシャッグスを「BETTER THAN THE BEATLES」と語った逸話をご存知かと思います。シャッグスのコンピレーション・アルバムと云うか全曲集であるCD「THE SHAGGS」の裏ジャケットにも、フランク・ザッパ先生のコメントとして「THE SHAGGS. BETTER THAN THE BEATLES - EVEN TODAY.」と云うコメントが掲載されているのですけれど、実はこのコメントはフランク・ザッパ先生が発言したものではありません。1969年にデビュー・アルバム「PHILOSOPHY OF THE WORLD(世界哲学)」をリリースしたシャッグスを、フランク・ザッパ先生が1970年にいち早くラジオ番組で言及していて、それが「BETTER THAN THE BEATLES」と発言したと云う伝説になってしまっただけで、実際には1981年に「ザ・ニューヨーカー」誌上で評論家のレスター・バングズが書いた記事からの引用です。それが、デビューしたばかりのシャッグスを話題にしたフランク・ザッパ先生が云った事になってしまったのです。それは、あのビートルズのアルバム「SGT. PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND」をコケにしたアルバム「WE'RE ONLY IN IT FOR THE MONEY」を制作したフランク・ザッパ先生なら云いそうだな、と思われたからでしょう。当のフランク・ザッパ先生は、ライヴでジョン・レノンと共演していたりします。
シャッグスは、ドロシー・ドット・ウィギン・センプリーニ(リード・ギター 、ヴォーカル)、ベティ・ウィギン・ポーター(リズム・ギター)、ヘレン・ウィギン(ドラムス)の、ウィギン3姉妹によるバンドで、3姉妹は米国の裕福で厳格な家庭に生まれて、寵愛する父親の方針で学校を中退させられていて、ポピュラー音楽の知識など全くなかったのです。いや、音楽以前に他人とのコミュニケーション方法すら知らなかったのでしょう。ところが、父親でシャッグスのプロデューサーであるオースティン・ウィギン・ジュニアが母親の預言である「3姉妹を音楽で売り出せば世界的なスターになる」に従って、3姉妹に強引にシャッグスと云うバンドを1965年に結成させて、自費でレコーディングして1969年にアルバム「PHILOSOPHY OF THE WORLD」でデビューさせてしまったのです。内容は、A面が、1「PHILOSOPHY OF THE WORLD」、2「THAT LITTLE SPORTS CAR」、3「WHO ARE PARENTS」、4「MY PAL FOOT FOOT」、5「MY COMPANION」、6「I'M SO HAPPY WHEN YOU'RE NEAR」で、B面が、1「THINGS I WONDER」、2「SWEET THING」、3「IT'S HALLOWEEN」、4「WHY DO I FEEL?」、5「WHAT SHOULD I DO?」、6「WE HAVE A SAVIOR」の、全12曲入りです。全曲をヴォーカルも担当しているドロシーが書いていて、演奏はシャッグスの3人によるもので、一発録音でオーバーダビングなどは一切行っていない様です。音楽性は、何とも云い難く、ガレージ・ロックとか、プロト・パンクとか、アウトサイダー・ミュージックとか云われていますけれど、そもそもコレは、そうしたジャンル分けが出来るのかすらよく分からない、摩訶不思議なアルバムです。
何と説明したら良いのか難しいのですけれど、このシャッグスによる音楽を聴くと「脳みそがとろける」様な感じにはなります。シャッグスの3姉妹は前述の通り音楽知識が全くなかったのに、無理矢理に父親に命令されて音楽活動を始めたので、曲作りは勿論のこと、ギターやドラムスも触った事すらなく、つまりは全くのド素人だったのです。箱入り娘だったので、おそらくビートルズすら聴いた事もなかったのでしょう。それをですね、独学でギターやドラムスを手探り状態で学んで、楽曲もそれまでには誰も書いた事もないと云うか、通常の曲作りからは考え付かない様な独創的過ぎるものを生み出してしまったのです。曲は単調で、ヴォーカルは抑揚がなく、ギターは片方がチューニングが安定しない単純なコードを怠そうに鳴らして、もう片方は単音をつま弾いて、ドラムスは鼓笛隊の太鼓(写真で分かる通り通常のドラムス・セットではない)みたいで、そのギター2本とドラムスのアンサンブルが合っていないと云うか、絶妙にズレていて、普通の感覚だと、聴いていて気持ち悪くなる様な音楽です。スラックキーギターはハワイに流れ着いたギターの調弦方法が分からず、オープン・チューニングにして生まれたとも云われていますが、このアルバムもそれと似た発明です。繰り返しますが、シャッグスは父親の命令で3姉妹が10代だった1965年に無理矢理結成させられて、それまでには触った事もなかったギターやドラムスを一日中練習させられ、作詞作曲法など知らないのに曲を書かされ、ライヴにも無理矢理出演させられ笑い者にされて、演奏技術もないのに、このデビュー・アルバム「PHILOSOPHY OF THE WORLD」をリリースさせられてしまったのです。それは、ウィギン家が裕福だったから出来た事で、だったら他にやり方があるだろう、と云う話です。そんな父親のエゴに振り回されたシャッグスは、奇跡の様な他の誰にもマネが出来ない音楽を作り出してしまったのですから、何がどうなるかは分からないものです。
(小島イコ)
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