
1980年代になって、ビートルズの歴史を振り返ろう、と云う企画が持ち上がりました。その為にEMIのエンジニアのジョン・バレットが1982年頃からビートルズが遺した音源を整理していて、1983年にはアビイ・ロード・スタジオで視聴会が行われて、それには、カラオケ状態の「HELP!」や、初期のアコースティックなアレンジだった「WHILE MY GUITAR GENTLY WEEPS」と云った未発表音源も含まれていました。それはアナログ盤のブートレグにもなっていて、あたくしは当時に買って聴いて、衝撃を受けました。EMIとしては、それらの未発表音源をまとめたアルバム「SESSIONS」をリリースして、ビートルズの歴史を辿った映像作品「THE LONG AND WINDING ROAD」も制作する予定でしたが、アルバムはジャケットまで決まっていたのに、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スター、既に亡くなっていたジョン・レノンの代理人であるヨーコさんの合意を得られずに、発売中止になっています。映像作品「THE LONG AND WINDING ROAD」の方は、ジョージの「ポールの曲名だから、僕は嫌だ!」のひとことで中止されています。それらのプロジェクトは、1995年から1996年にかけて「ANTHOLOGY」として蘇るのですけれど、1990年代中頃にポール、ジョージ、リンゴが揃ったのは、その「絵」だけで感動させられたものです。リンゴに関しては、解散後にもジョン、ポール、ジョージとよく共演していたのですけれど、ポールとジョージが並ぶ姿は本当に久しぶりだったのです。その3人の様子を観ると、そう云う回顧的な路線をジョージが乗り気ではなくて、逆にポールは積極的だった様で、アノ天下のポールが、ジョージに随分と気を遣っています。
さて、今回は1985年にリリース直前まで行ったアルバム「SESSIONS」を取り上げます。このアルバムは、本当にリリースされるはずだったので、高音質なブートレグが沢山出ています。その中から「JPGR」からリリースされた1CDのブートレグ「ANOTHER SESSIONS...plus」を紹介します。内容は、1「COME AND GET IT」、2「LEAVE MY KITTEN ALONE」、3「NOT GUILTY」、4「I'M LOOKING THROUGH YOU」、5「WHAT'S THE NEW MARY JANE」、6「HOW DO YOU DO IT」、7「BESAME MUCHO」、8「ONE AFTER 909」、9「IF YOU GOT TROUBLES」、10「THAT MEANS A LOT」、11「WHILE MY GUITAR GENTLY WEEPS」、12「MAILMAN, BRING ME NO MORE BLUES」、13「CHRISTMAS TIME(IS HERE AGAIN)」、14「OB-LA-DI, OB-LA-DA」、15「A HARD DAY'S NIGHT」、16「SHE'S A WOMAN」、17「12-BAR ORIGINAL」、18「NORWEGIAN WOOD(THIS BIRD HAS FLOWN)」、19「I'M LOOKING THROUGH YOU」の、全19曲入りです。この内、オリジナルのアルバム「SESSIONS」に収録予定だった曲は、1「COME AND GET IT」〜13「CHRISTMAS TIME(IS HERE AGAIN)」の全13曲で、2「LEAVE MY KITTEN ALONE」をシングル・カットして、そのB面に、14「OB-LA-DI, OB-LA-DA」を入れる予定でした。そして、15「A HARD DAY'S NIGHT」〜19「I'M LOOKING THROUGH YOU」は、ボーナス・トラックです。アルバム「SESSIONS」に収録予定だった曲は、ほとんど全てが1995年から1996年にかけての公式盤「ANTHOLOGY」シリーズに収録されているので、今更「SESSIONS」でもないだろう、と云う話になりますが、コレは、近年に出たブートレグなので、工夫してあります。
タイトルからして「ANOTHER SESSIONS...plus」となっている事からお分かりでしょうけれど、コレはですね、幻のアルバム「SESSIONS」の、更にまた斜め上を行く「ブートレグの別ミックス集」なのです。前述の通り、アルバム「SESSIONS」は高音質なブートレグも多いし、ほとんどの曲が公式盤「ANTHOLOGY」シリーズでも聴けます。故に、今度リリースされる公式盤の箱「ANTHOLOGY」にも、ジャイルズ・マーティンが新たにリマスターした音源で収録されています。ハッキリ云って、1985年にリリース予定だったアルバム「SESSIONS」は、完全なる「ボツ音源集」であってですね、こう云う類のものはブートレグにお任せして、ビートルズの公式盤を汚さないで欲しいのです。あたくしは、だから「ANTHOLOGY」シリーズも好きではありませんけれど、公式盤でリリースされるのならば、それはファンの義務として買っているだけです。そんなにブートレグを沢山買って聴いている奴が、どの口で云う?と思われるでしょうけれど、だからね、公式盤とブートレグは違うんですよ。ビートルズには公式213曲の輝かしい1960年代の遺産があるのですから、公式盤はそれだけで良いのです。あたくしは「FREE AS A BIRD」も「REAL LOVE」も「NOW AND THEN」も、本物のビートルズではないと思っています。さて、御託はコレくらいにしてですね、曲目の解説をするとですね、1「COME AND GET IT」は耳タコのポールによる「ひとりバッドフィンガー」のデモ音源で、コレは1982年の別ミックスです。2「LEAVE MY KITTEN ALONE」は、1964年のアルバム「BEATLES FOR SALE」のアウトテイクですけれど、何故ボツになったのか分からない「カヴァーの帝王・ジョン・レノン」がここにあり、の名演です。オリジナルは1959年のリトル・ウィリー・ジョンですが、ジョンが参考にしているのは1960年のジョニー・プレストン盤です。つまり、コレもジョンがお得意の「カヴァーのカヴァー」です。
この「LEAVE MY KITTEN ALONE」は、前述の通りアルバム「SESSIONS」からシングル・カットされる事も決まっていて、そのB面が、14「OB-LA-DI, OB-LA-DA」の別テイクでした。3「NOT GUILTY」は、1968年のアルバム「THE BEATLES」でのジョージ作のボツ音源で、後に1979年のジョージのソロ・アルバム「GEORGE HARRISON(慈愛の輝き)」でリアレンジして収録されていて、コレは1968年のボツ音源の1982年のステレオ・ミックスです。4「I'M LOOKING THROUGH YOU」は、1965年のアルバム「RUBBER SOUL」のポールが主導で書いたレノン=マッカートニー作品の初期テイクで、フェイドアウトしない音源です。5「WHAT'S THE NEW MARY JANE」は、1968年のアルバム「THE BEATLES」のジョンがバカになったボツ音源で、一応、作者名は「レノン=マッカートニー」の、別ステレオ・ミックスです。6「HOW DO YOU DO IT」は、1962年のボツ音源で、編集なしのモノラル・ミックスです。7「BESAME MUCHO」は、1962年のボツ音源のオリジナル・モノラル・ミックスです。8「ONE AFTER 909」は、1963年のボツ音源の、1982年のモノラル・ミックスです。9「IF YOU GOT TROUBLES」は、1965年のアルバム「HELP!」のリンゴが歌うレノン=マッカートニー作のボツ音源の、1982年のステレオ・ミックスです。10「THAT MEANS A LOT」も、1965年のアルバム「HELP!」でのポールが主導で書いたレノン=マッカートニー作品の駄作の最高峰の、モノラル・ミックスです。こんなヘッポコ曲が入っていたから、アルバム「SESSIONS」はお蔵入りしたんじゃないでしょうか。11「WHILE MY GUITAR GENTLY WEEPS」は、1968年のアルバム「THE BEATLES」に収録されたジョージの傑作の、初期のアコースティックなアレンジで、1982年のステレオ・ミックスです。名曲は、どんなアレンジでも良いと云う事です。
12「MAILMAN, BRING ME NO MORE BLUES」はバディ・ホリーのカヴァーで、1969年の「THE GET BACK SESSIONS」音源の、1982年のステレオ・ミックスで、フェイドアウトしない音源です。13「CHRISTMAS TIME(IS HERE AGAIN)」は、1967年のクリスマス・レコード用にポールが主導で書いた4人の共作で、コレは1995年のシングル「FREE AS A BIRD」にカップリングされていた編集ヴァージョンです。この曲はリンゴが1999年にリリースしたソロ・クリスマス・アルバム「I WANNA BE SANTA CLAUS」でセルフ・カヴァーしています。14「OB-LA-DI, OB-LA-DA」は、1968年のアルバム「THE BEATLES」でのポールが主導で書いたレノン=マッカートニー作品の別テイクですが、ジョンはポールのコノ手の曲が嫌いで、ソレを何度も繰り返し演奏させられてキレています。ポールが、アドバイスをするサー・ジョージ・マーティンに「だったらアンタが歌え」と暴言を吐いて、サー・ジョージ・マーティンを尊敬しているジェフ・エメリックが、ビートルズとの仕事を辞めてしまいました。こちらは、そんな内情を感じさせないステレオ・ミックスです。ボーナス・トラックは、15「A HARD DAY'S NIGHT」は1964年のアウトテイクを1982年にステレオ・ミックスした音源で、16「SHE'S A WOMAN」は1964年のアウトテイクを1982年にステレオ・ミックスした音源で、17「12-BAR ORIGINAL」は1965年のアルバム「RUBBER SOUL」のアウトテイクのモノラル・ミックスで、18「NORWEGIAN WOOD(THIS BIRD HAS FLOWN)」と、19「I'M LOOKING THROUGH YOU」は、1965年のアルバム「RUBBER SOUL」のアウトテイクの1982年のステレオ・ミックスです。この様に、アウトテイクでもかなり昔からミックスされていたわけで、今度の公式盤の箱「ANTHOLOGY」も、ブートレグ・ファンとしての立場ならば、期待はしています。
(小島イコ)
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