SUGAR BABEの「SONGS」のCDは、1986年のリミックス盤、1994年のオリジナルマスター盤と来て、1999年には品番変更で1994年盤が再発されました。約10年ごとに再発されていて、2005年12月7日にはナイアガラ30周年記念盤のひとつとして、大瀧詠一師匠がリマスターして、此の時にはソニーからの発売となりました。1986年盤を吉田保さんによるリミックス盤にしたのは、1975年当時にはアマチュアのエンジニアだった笛吹銅次(大瀧師匠の変名)がミックスをしたので、プロのエンジニアだったらどうなっていたかを試したかったのだそうです。しかし、タツローから「アレは味なんだから、オリジナルマスターじゃないと」と云われて、1994年盤となったそうです。そして、此の30周年記念盤では自らリマスターを手掛けて、30年前からの笛吹銅次としての決着を付けようと試みました。ナイアガラの音源がどうなっているのかを、タツローですら分からなかったのですが、1995年にタツローのベスト盤「TREASURES」を出した時にオマケで「パレード」を収録する事になったら、大瀧師匠がリミックスしたので、其の時に初めて「コレはマルチテープがデジタル化されているな」と分かったそうです。事実として、大瀧師匠は1990年代にはスリムケース廉価盤を出しながら、全てのナイアガラ音源をデジタル化していました。
此の30周年記念盤には、本編11曲に加えて1994年盤よりも多い9曲ものボーナストラックが収録されています。其の内の4曲のニッポン放送でのデモ音源「夏の終わりに」「パレード」「SHOW」「指切り」は1994年盤にも収録されていましたが、「夏の終わりに」はマルチテープからのリミックスで、曲の前の様子も入っている別ヴァージョンです。「想い」と「いつも通り」は1974年のライヴで初出音源で、「ためいきばかり」と「SUGAR」も初出の別ミックスです。最後の「DOWN TOWN」の純カラオケ音源も初出なのですが、コレがどう云うわけなのか実際にレコードになったモノとはクラヴィネットのテイクが別になってしまっています。大瀧師匠が意図的に変えたのか、タツローが云う様に「大瀧さんはそういうところはアバウトだから」なのか分かりませんが、レアではあります。其れで40周年記念盤を出す時にタツローがリマスターだけではなくリミックスもしたのは、此の大滝師匠の悪戯もしくは天然で替えられたクラヴィネットを元に戻そうとして、どうせなら全曲のカラオケを作って、其れに歌を乗せたら良くなったからで、ター坊にも聴かせたら「いいね」と云ってくれたからなのでした。つまりは大滝師匠のミスもしくは謎かけがなければ40周年記念盤は存在していなかったかもしれないのです。
そうなるとですね、1994年盤とも30周年記念盤とも違う40周年記念盤のみに収録された15曲ものボーナストラックも商品化されていなかったわけでして、大滝師匠には「よくぞ間違えて下さった」もしくは「よくもわざと違うテイクを使って下さった」と感謝するしかありません。大滝師匠が死して尚残す異常なまでもの音源への拘りが、この様な事態を生んでいるわけです。30周年記念盤の特徴としては、ジャケットや帯も1975年にエレックから最初に発売された時と同じにしていて、ジャケットの紙の質感まで当時と同じにしている点もあげられます。そもそも、日本においては10年おきに記念盤を出し続けるなんて発想自体が稀で、其れを1980年代から2013年に亡くなるまでやり続けた事が前代未聞でした。リマスターをし続けたのは、世界初のCDを出した者としての責任感もあったのでしょうけれど、リマスターと云う考え方がなかった時からリマスターをしていたのですから、恐れ入ります。故に「ロンバケ」と「トライアングル2」には同じ品番で3種類のマスター違いがあるなんて事にもなってしまいました。尚、「SONGS」は2011年に「NIAGARA CD BOOK T」にも収録されましたが、そちらはボーナストラックなしで、新たなリマスターとなっております。
SUGAR BABEは個人的には日本で一番好きなバンドでありましてですね、もう海賊盤みたいな音質の音源ですら有難がって聴く位に好きなのですけれど、1曲選べと云われたならば「SUGAR」です。ナンシー・シナトラの「シュガータウンは恋の町」からコーラス部分を拝借しているのですけれど、何と云っても布谷文夫さんが大暴走するエンディングが凄くて、実にナイアガラっぽい曲になっております。此の曲はライヴでは20分位の長さで披露していて、途中でタツローがバラード風に歌うパートなどもあって、ラジオでは公開した事があります。40周年記念盤に収録されるか楽しみだったのですが、流石に長過ぎるからやめたんでしょうか。それともやはり再来年に「SONGS VOX」でも出して、其れに入れる心算なのでしょうか。個人的にはタツローの歌は若さだけで張り上げていた此の時代の方が圧倒的に好きだし、ター坊も低い地声に近い声だった此の頃が好きです。其の上、あたくしはタツローの曲よりもター坊の曲の方が好きなので、非常に稀なファンでした。其れでター坊のソロ「Grey Skies」を買ったら、SUGAR BABEっぽい曲も多くてハマった口です。其れもそのはずで、SUGAR BABE時代の楽曲をタツローのアレンジでやっていたわけで、当たり前だったんですよね。
(小島イコ)