「片瀬那奈が毎週テレビに出る。」そんな「当たり前な世界」が失われて、初めてぼくらは「喪失感」を味わった。其れは当然あるべき日常であり、どんなことがあっても崩れない世界だと思っていた。例え歌手になろうとも「テレビの中に」片瀬那奈は存在しているはずだと勝手に決めていた。
だけど彼女は消えた。勿論、歌手として司会者としてCMタレントとして「片瀬那奈」は依然として「テレビの中に」いたし、何より現実に目の前で何度も「片瀬那奈」を目撃し体感した季節があった。それでもぼくらは「喪失感」から解放されなかった。何故なら、かつてぼくらが観ていた彼女は「毎週ドラマで役を演じている姿」だったからだ。其れが遠い存在でもかまわない、いや「遠い存在」だからこそ、ぼくらは「片瀬那奈」を求めていた。
「やぁ!みんな、今日も来てくれたんだ」と満面の笑顔で話しかけてくれる彼女に「嬉しい」反面、「貴方はそうじゃなく、もっと高い処に居るべきひとなんじゃないの?」と複雑な気持ちになってしまったのは、ぼくだけなんだろうか?かつて其の役柄を通してすら感じられた彼女の素の部分が、確かにぼくらにとっての「甘い季節」は「真実」だと教えてくれた。もっと多くのひとに知って欲しいって気持ちと、ぼくらの「那奈ちゃん」で居て欲しい気持ちが行き来する、贅沢な時間だった。
今日も「テレビの中に」いる「片瀬那奈」は、いよいよ「遠く」へ行ってしまいそうだ。でもそれでいい、ふたたび逢える「ドラマの中の彼女」に、ぼくらは大いに魅了されるはずだ。何故なら、もうぼくらは知ってしまったから。ぼくらが愛する「片瀬那奈」は「あまりにも無垢で真摯なひと」だと。
そして今度彼女に会ったら、ぼくらは知るだろう。「片瀬那奈」は成長しているけれど、あの「那奈ちゃん」は変わってないんだなぁってね。ぼくは「片瀬那奈」のファンです。それ以上でもそれ以下でもなく、単純に「片瀬那奈」を愛するただの「やろこ」です。
初出「COPY CONTROL」 (姫川未亜/小島藺子)