6組那奈曲の選曲には、それを歌ったアイドルばかりではなく、楽曲を制作したスタッフにも大きな意味があると夢想させてくれるのが、片瀬那奈「Extended(2004)」の魅力のひとつです。
これまでに述べた通り、松田聖子を通して「松本隆プロジェクト」を想起させ(「赤道小町 ドキッ」が外されたのは、同じ松本作詞作品であったこともあるのかもしれません)、工藤静香からは「おニャン子クラブ(秋元康&後藤次利)」へと誘う道が見えていました。
この章で取り上げる 02. 「淋しい熱帯魚」 と 05. 「C-Girl」も、それぞれが「及川眠子/尾関昌也」「森雪之丞/NOBODY」と興味深い布陣による作品です。また、「Extended」のアレンジャーには Shinichiro Hirata、CMJK、Nao Tanaka とクラブシーンで著名なDJを起用していますが、オリジナルのアレンジャーにも目を向けると、この二作はそれぞれ「船山基紀」と「井上鑑」によるものであったことが分ります。
作家陣の豪華さは、「Extended」に選曲された那奈曲中の6曲ものオリジナル作品が、当時オリコン・シングル・チャートで首位を獲得したと言う事実からも説明がつくことです。(たった一曲だけが首位を取っていないのですが、それは「Extended」にどうしても必要な楽曲です。この件は、第5章にて語ります。)当時を知る片なら、誰もが知っている曲ばかりを選びながら、同じ作家によるものは選んではいない理由が、単なる「バランス感覚」では説明不足となるでしょう。
「淋しい熱帯魚」を作詞した及川眠子さんは、「片瀬」と(同時期にカヴァーした懐かしの)「W」による二作を聴いて「アレンジが酷い。船山基紀は偉大だ。」と一刀両断しました。そんなにご立腹されなくとも、オリジナルを凌駕するカヴァーなど在りはしないんですけどね。
WINKをカヴァーしたのは、前述の通りに「片瀬那奈」の意志が大きかったと言われています。そして、「工藤」や「浅香」が例え「集合体」や「三人娘」のアイコンであったとしても、それぞれの楽曲は(その他と同様)ソロであるのに対して、「淋しい熱帯魚」だけはオリジナルが二重唱なのです。それに対して「誰かをゲストに迎える」のではなく「ひとりで二重唱する」方法を選んでいるのがポイントですね。
「Extended」発表時に、多くの那奈ヲタは「那奈色の声」と、その多彩なヴォーカルを讃えました。一方、「モノマネ」した「カラオケ・カヴァー集」と揶揄する声もありました。しかしながら、片瀬がやったのは「大いなる道への招待状」と捉えるなら、見当違いな批判など口に出せないはずなのです。大体「そんなこと言って、誰がハッピーになるんだよ?」
初めて楽曲に出逢った片には「過去の遺産への道」を開き、オリジナルを知る片には「甘酸っぱい記憶」と共に「2004年の音世界」をも魅せてくれるのが「Extended」です。何より、それを歌うのが「片瀬那奈」なのですから、こんな「夢みるアルバム」は唯一無二なんでございます。
なかなか「小美人と三人娘」の噺になりませんナァ。ま、予告通りに「じっくり」イコー☆(つづく)
初出「COPY CONTROL」 (小島藺子/姫川未亜)