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2025年12月08日

「ポールの道」#935「THE BEATLES BLACK VOX」
#244「TUG OF WAR & MORE」

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1980年5月16日(英国・パーロフォン)・同年5月21日(米国・コロムビア)に、ポール・マッカートニーは2作目(ポール&リンダやウイングスを含めると10作目)のソロ・アルバム「McCARTNEY U」をリリースしました。シングル「COMING UP」の大ヒット(英国2位・米国首位!但し米国で首位!となったのはウイングスによるライヴ・ヴァージョン)もあって、アルバム「McCARTNEY U」も全英首位!・全米3位と大ヒットしてしまったのですけれど、ポールとしては演奏も歌もひとりで遊び半分で制作したアルバム「McCARTNEY U」が、第7期ウイングスばかりかロケストラまで導入して莫大な制作費を投じた1979年6月8日(英国)・同年5月24日(米国)リリースの前作アルバム「BACK TO THE EGG」(全英6位・全米8位)よりも売れてしまった事には、些か困ったちゃんになってしまったのでしょう。アルバム「BACK TO THE EGG」は、シングル「GOODNIGHT TONIGHT」も足した全8曲もミュージック・ビデオを制作していたし、ロケストラは別に特番にしていたのですから、プロモーションもバッチリだったのに、思ったよりも売れなかったのです。1980年1月の来日公演がポールの大麻所持の現行犯で逮捕拘留によってキャンセルとなった事件から、ウイングスは活動停止状態となっていたのですけれど、同1980年8月にはポールとデニー・レインで新作のデモを制作して、同1980年10月には第7期ウイングスのメンバーでリハーサルを行っています。そして、同1980年10月にポールは、久しぶりにサー・ジョージ・マーティンのプロデュースで「WE ALL STAND TOGETHER」をレコーディング(リリースは1984年)して、好感触を得たポールは、サー・ジョージ・マーティンに新作アルバムのプロデュースも依頼しました。ところが、サー・ジョージ・マーティンは「ポールのソロならば受けるが、ウイングスだったなら断る」とか「何でポールはいつも自分よりも下手な連中とばかりレコードを作っているんだ」とか、みんなが思っていても云えなかった核心に触れた事実を云い放ったのです。それは、デニー・レインの耳にも入っていたでしょう。

それで、ポールはソロ・アルバムを制作する事となったのですけれど、アルバムの初期段階ではデニー・レインも関わっていました。そんな時に1980年12月8日がやってきて、ジョンを失ったポールはショックのあまり自宅に引きこもってしまいます。しかし、再起をかけて苦しみの中から立ち上がり、アルバムを制作したのです。サー・ジョージ・マーティンのズバッと発言もあって、デニー・レインはポールと喧嘩して、1981年4月27日にウイングスからの脱退宣言をして、ウイングスは解散しました。デニー・レインが降りてくれたお陰で、レコーディングは長期(1980年12月、1981年2月〜1981年12月)に渡って、ポールは2枚組でリリースする事を構想しましたが、例によってバカなレコード会社から反対されて、先ずは1982年3月29日(英国)・同年4月2日(米国)に、先行シングル「EBONY AND IVORY / RAINCLOUDS」と12インチ・シングル「EBONY AND IVORY / RAINCLOUDS / EBONY AND IVOLY(SOLO VOCAL)」をリリースしました。ポールがスティーヴィー・ワンダーと共演した「EBONY AND IVOLY」は、全英首位!・全米首位!の特大ヒットとなり、つづいて、1982年4月26日にはポールとしては3作目(ポール&リンダやウイングスを含めれば11作目)のオリジナル・アルバム「TUG OF WAR」をリリースしました。内容は、A面が、1「TUG OF WAR」、2「TAKE IT AWAY」、3「SOMEBODY WHO CARES」、4「WHAT'S THAT YOU'RE DOING」、5「HERE TODAY」で、B面が、1「BALLROOM DANCING」、2「THE POUND IS SINKING」、3「WANDERLUST」、4「GET IT」、5「BE WHAT YOU SEE(LINK)」、6「DRESS ME UP AS A ROBBER」、7「EBONY AND IVOLY」の、全12曲入りです。この中で、「WHAT'S THAT YOU'RE DOING」はポールとスティーヴィー・ワンダーの共作で、他の11曲はポールの単独作となっています。「EBONY AND IVOLY」はポールの単独作となっていますが、元々スティーヴィー・ワンダーに当て書きしていて、二人だけでレコーディングされています。

スティーヴィー・ワンダー以外にも、「GET IT」ではカール・パーキンスとデュエットしていたり、リンゴ・スターとスティーヴ・ガットがドラムスを叩いていたり、スタンリー・クラークがベースを弾いていたり、クリス・スペディングがギターを弾いていたりと、豪華なゲスト・ミュージシャンが参加していますが、10ccのエリック・スチュワートも参加していて、エリック・スチュワートはこれから4作連続でポールの相棒となります。更に、「WANDERLUST」にジョージ・ハリスンにも参加を要請して了承されていましたが、実現していません。楽曲としては、第2弾シングルになった「TAKE IT AWAY」(全英15位・全米10位)が素晴らしく、ポールらしいメロディーにエリック・スチュワートの10ccコーラスが被るところなんて、双方のファンにとっては堪りませんなあ。この「TAKE IT AWAY」は、そもそもリンゴに提供する予定でしたが、勿体ないと思ったのか、ポールが自分で歌う事になったのです。そして、このアルバムにはジョンを追悼した「HERE TODAY」も収録されていて、ポールは2025年の現在でもライヴのセットリストに入れていて、泣きながら歌っています。サー・ジョージ・マーティンがプロデュースして、ジェフ・エメリックがエンジニアを務めて、リンゴも参加して、ポールが演奏して歌い「ビートリー」と云われたアルバム「TUG OF WAR」は、全英首位!・全米首位!・日本でも首位!と、特大ヒットを記録しました。この時だけは、ポールは大傑作アルバムを出さなければ亡くなったジョンにも顔向け出来ない状況でしたから、プレッシャーは相当なものだったでしょう。2015年10月2日には、アルバム「TUG OF WAR」のアーカイヴ・コレクションが3CD+1DVDでリリースされました。CD3枚には全35曲が収録されていますが、CD1は2015年リミックス音源全12曲で、CD2がオリジナル・ミックス全12曲で、CD3がデモ音源やアルバム未収録シングル・カップリング曲などのレア音源全11曲となっています。DVDはミュージック・ビデオ集ですが、価格は税込み1万8千7百円と、やはりお高くなっていました。そこで、毎度お馴染みの「MOONCHILD RECORDS」から2022年にリリースされた、CD2枚組で税込み千円のパイレート盤「TUG OF WAR & MORE」を紹介します。

CD1は、1「TUG OF WAR」、2「TAKE IT AWAY」、3「SOMEBODY WHO CARES」、4「WHAT'S THAT YOU'RE DOING」、5「HERE TODAY」、6「BALLROOM DANCING」、7「THE POUND IS SINKING」、8「WANDERLUST」、9「GET IT」、10「BE WHAT YOU SEE(LINK)」、11「DRESS ME UP AS A ROBBER」、12「EBONY AND IVOLY」、13「RAINCLOUDS」、14「I'LL GIVE YOU A RING」、15「MY OLD FRIEND」、16「EBONY AND IVOLY(SOLO VOCAL)」、17「STOP, YOU DON'T KNOW WHERE SHE CAME FROM」、18「BALLROOM DANCING」、19「TAKE IT AWAY」、20「DRESS ME UP AS A ROBBER / ROBBER RIFF」、21「THE POUND IS SINKING」、22「SOMETHING THAT DIDN'T HAPPEN」、23「WANDERLUST」、24「EBONY AND IVOLY」、25「MY OLD FRIEND」、26「JUGGLER」の、全26曲入りです。1「TUG OF WAR」〜12「EBONY AND IVOLY」の12曲は、アルバム「TUG OF WAR」全12曲のオリジナル・ミックスのリマスター音源です。13「RAINCLOUDS」はシングル「EBONY AND IVOLY」の、14「I'LL GIVE YOU A RING」はシングル「TAKE IT AWAY」の、それぞれカップリングでアルバム未収録曲で、15&25「MY OLD FRIEND」は1996年リリースのカール・パーキンスのアルバム「GO CAT GO」に収録された曲で、ポールとカール・パーキンスの共作でポールがギター、ベース、ピアノ、ドラムスを担当して、ポールとサー・ジョージ・マーティンが共同プロデュースしていて、アルバム「TUG OF WAR」の時のレコーディングです。16「EBONY AND IVOLY」は、12インチ・シングル「EBONY AND IVOLY」にカップリングされた、ポールがソロで歌っているヴァージョンです。17「STOP, YOU DON'T KNOW WHERE SHE CAME FROM」〜24「EBONY AND IVOLY」の8曲はデモ音源で、最後の26「JUGGLER」は短いインストゥルメンタル曲のヴァージョン1です。このパイレート盤では、裏ジャケットでの「23〜26」の曲目表示が間違って「19〜22」と同じになっています。

CD2は、1「TUG OF WAR」、2「TAKE IT AWAY」、3「SOMEBODY WHO CARES」、4「WHAT'S THAT YOU'RE DOING」、5「HERE TODAY」、6「BALLROOM DANCING」、7「THE POUND IS SINKING」、8「WANDERLUST」、9「GET IT」、10「BE WHAT YOU SEE(LINK)」、11「DRESS ME UP AS A ROBBER」、12「EBONY AND IVOLY」、13「TUG OF WAR」、14「TAKE IT AWAY」、15「NO VALUES」、16「BALLROOM DANCING」、17「RAINCLOUDS」、18「I'M GONNA LOVE YOU TOO」、19「AVERAGE PERSON」、20「FABULOUS / TEDDY BEAR」、21「LEND ME YOUR COMB」、22「KEEP UNDER COVER」、23「EBONY AND IVOLY」、24「JUGGLER」の、全24曲入りで、合計50曲入りです。アーカイヴ・コレクションの3CDは全35曲入りなので、2CDに詰め込んで15曲も増えていて、税込み千円は安いですなあ。1「TUG OF WAR」〜12「EBONY AND IVOLY」の12曲は、アルバム「TUG OF WAR」全12曲の2015年リミックス音源です。13「TUG OF WAR」と、14「TAKE IT AWAY」は、シングル・ヴァージョンで、15「NO VALUES」〜23「EBONY AND IVOLY」の9曲はリハーサル音源で、最後の「JUGGLER」は未発表インストゥルメンタル曲のヴァージョン2です。CD1のポールとデニー・レインによるデモ音源は、デモ音源なのでこんなもんだろう、で済みますけれど、CD2の第7期ウイングスによるリハーサル音源はへなちょこで、これを聴いたであろうサー・ジョージ・マーティンが「ウイングスじゃあ、ダメだこりゃあ」となったのもうなずけるヘッポコ音源となっています。既に「NO VALUES」、「AVERAGE PERSON」、「KEEP UNDER COVER」と云った後のアルバムに収録される楽曲が出来ている点は興味深いものの、やっぱり、ウイングスじゃアカンわなあ、と思わせるリハーサル音源となっております。サー・ジョージ・マーティンにとっては、悪夢の「THE GET BACK SESSIONS」再びと思えたでしょうなあ。それから、このアルバム「TUG OF WAR」から始まったエリック・スチュワートの起用は、もっともっと高く評価されるべきだと思います。

(小島イコ)

posted by 栗 at 23:00| FAB4 | 更新情報をチェックする