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2025年12月06日

「ポールの道」#933「THE BEATLES BLACK VOX」
#242「BACK TO THE EGG & MORE」

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1978年3月31日に、EMI(英国)・キャピトル(米国)からリリースした、ウイングスとしては6作目(ポールとしては8作目)のオリジナル・アルバム「LONDON TOWN」では、レコーディングの途中でリード・ギタリストのジミー・マカロックがウイングスから追放されて、ドラマーで米国人であるジョー・イングリッシュはホームシックで脱退して、「第5期ウイングス」は崩壊して、再びポール&リンダ・マッカートニーとデニー・レインの3人の「第6期ウイングス」となってしまいました。その上、リンダが産休に入ったので、ポールとデニー・レインの二人でまとめる事となってしまいました。アルバム「LONDON TOWN」の全14曲中5曲(「LONDON TOWN」、「CHILDREN, CHILDREN」、「DELIVER YOUR CHILDREN」、「DON'T LET IT BRING YOU DOWN」、「MORSE MOOSE AND THE GREY GOOSE」)と、オリジナル・アルバム未収録でシングルA面の特大ヒット曲「MULL OF KINTYRE」は、ポールとデニー・レインの共作となっていますが、ポールとしてはデニー・レインにまで脱退されたならばウイングス自体が崩壊するとの危機感があって、当時の悪妻・ジョジョに尻を叩かれたデニー・レインを前に出したのでしょう。ジミー・マカロックのリード・ギターが冴える、アルバム未収録シングルB面の「GIRL'S SCHOOL」や、アルバムからの第2弾シングル「I'VE HAD ENOUGH」などを聴くと、ウイングスで最高のギタリストはジミーだったな、と思わされます。「WITH A LITTLE LUCK」の間延びした間奏も、ジミーにリード・ギターを任せる心算だったのかもしれません。アルバム「LONDON TOWN」は、全英4位・全米2位とヒットして、先行シングルだった「WITH A LITTLE LUCK」は全英5位・全米首位!となったものの、つづく第2弾シングル「I'VE HAD ENOUGH」は全英42位・全米25位で、第3弾シングル「LONDON TOWN」は全英60位・全米39位と振るわず、ポールは米国ではキャピトルからコロムビアに移籍しています。それで、1978年12月1日(英国)・同年11月22日(米国)には、ビートルズ脱退後で初めてのベスト・アルバム「WINGS GREATEST」をリリースしています。

内容は、A面が、1「ANOTHER DAY」、2「SILLY LOVE SONGS」、3「LIVE AND LET DIE」、4「JUNIOR'S FARM」、5「WITH A LITTLE LUCK」、6「BAND ON THE RUN」で、B面が、1「UNCLE ALBERT / ADMIRAL HALSEY」、2「HI, HI, HI」、3「LET ’EM IN」、4「MY LOVE」、5「JET」、6「MULL OF KINTYRE」の、全12曲入りです。このアルバムは、ポールとしては単なるベスト・アルバムではなく、未発表曲を収録したレコード2枚組の「HOT HITZ - KOLD KUTZ」としてリリースしたかったものの、バカなレコード会社から反対されてベスト・アルバムだけとなっています。ウイングス名義ではない「ANOTHER DAY」と「UNCLE ALBERT / ADMIRAL HALSEY」が入っているのは、その名残りなのでしょう。レコード1枚に12曲で60分程を収録していて、リリース当時にはアルバム未収録だった「ANOTHER DAY」、「LIVE AND LET DIE」、「JUNIOR'S FARM」、「HI, HI, HI」、「MULL OF KINTYRE」の5曲が収録されているのも売りでしたが、全英5位・全米29位と、米国での売り上げが伸び悩んでいます。その間、ポールはウイングスの立て直しに挑んでいて、1978年2月にはドラマーのスティーヴ・ホリーを、同1978年5月にはリード・ギタリストのローレンス・ジュバーを雇って、5人組の「第7期ウイングス」が誕生しました。そして、1978年6月29日から翌1979年2月まで、断続的にレコーディング・セッションが行われたのです。その中から、1979年3月にアルバム未収録シングル「GOODNIGHT TONIGHT / DAYTIME NIGHTTIME SUFFERING」をリリースしました。12インチ・シングル盤もリリースされた「GOODNIGHT TONIGHT」は、ロング・ヴァージョンもあるディスコ・サウンドですが、イントロや間奏にはフラメンコ・ギター風の味付けがされていて、相変わらずポールのベースが唸りを上げる、ひとことで云えば無茶苦茶な曲ですが、全英5位・全米5位と結果も出している、ポールならではの楽曲です。シングルB面の「DAYTIME NIGHTTIME SUFFRING」も、ポールがお気に入りの佳曲です。先行シングルなので、アルバムもこの路線でゆくのかと思わせました。

ところが、1979年6月8日(英国・EMI)・同年5月24日(米国・コロムビア)にリリースされた、ウイングスとしては7作目(ポールとしては9作目)で結果的にはウイングスの最後のアルバムとなった「BACK TO THE EGG」は、滅茶苦茶なアルバムとなってしまったのです。内容は、A面が、1「RECEPTION」、2「GETTING CLOSER」、3「WE'RE OPEN TONIGHT(今宵楽しく)」、4「SPIN IT ON」、5「AGAIN AND AGAIN AND AGAIN」、6「OLD SIAM, SIR」、7「ARROW THROUGH ME」で、B面が、1「ROCKESTRA THEME(ロケストラのテーマ)」、2「TO YOU(君のために)」、3「AFTER THE BALL / MILLION MILES」、4「WINTER ROSE / LOVE AWAKE(冬のバラ〜ラヴ・アウェイク)」、5「THE BROADCAST」、6「SO GLAD TO SEE YOU HERE」、7「BABY'S REQUEST」の、全14曲入りです。プロデュースは、ポールとクリス・トーマスの共同となっていますが、幾ら当時は売れっ子プロデューサーになっていたクリス・トーマスとは云え、サー・ジョージ・マーティンの押しかけ弟子で、キャリアのスタートが1968年11月リリースのビートルズのアルバム「THE BEATLES(ホワイト・アルバム)」だったクリス・トーマスに、ポールの暴走を止める事など不可能でした。このアルバムは、ウイングスのアルバムなのに、話題になったのは「ROCKESTRA THEME」と「SO GLAD TO SEE YOU HERE」の2曲を演奏している「ロケストラ」でした。ロケストラとは、第7期ウイングスの5人に加えて、プリテンダーズのジェームズ・ホニーマン・スコット、シャドウズのハンク・マーヴィン、フーのピート・タウンゼントとケニー・ジョーンズ、ピンク・フロイドのデヴィッド・ギルモア、レッド・ツェッペリンのジョン・ポール・ジョーンズとジョン・ボーナム、アトラクションズのブルース・トーマス、「5.5期ウイングス」のホーン・セクション4人(ハウィー・ケイシー、トニー・ドーシー、サディアス・リチャード、スティーブ・ハワード)が参加していて、キース・ムーンも参加予定が直前に亡くなり、ジェフ・ベックとエリック・クラプトンも参加予定だった、ロック版オーケストラです。当時、ポールはロックじゃない、などと云う方々は、レッド・ツェッペリンなどのハード・ロック・ファン、もしくは、ピンク・フロイドなどのプログレッシヴ・ロック・ファンだったのですけれど、ロケストラでポールの力を思い知ったでしょう。

しかしながら、そんなもんをアルバムに入れたら、折角のコンセプト・アルバムが根底から覆されるに決まっているのに、クリス・トーマスではポールに意見など出来ず、アルバム「BACK TO THE EGG」はポールの幕の内弁当の様な作品となってしまいました。デニー・レイン作の「AGAIN AND AGAIN AND AGAIN」を除いたポール作の13曲は粒ぞろいで、楽曲としては悪くはありませんし、パンクを意識した「SPIN IT ON」があるかと思えば、カッコイイロックンロールの「GETTING CLOSER」や、ハード・ロックの「OLD SIAM, SIR」や、一転してソウルフルな名曲「ARROW THROUGH ME」や、心にしみるバラードの「WINTER ROSE / LOVE AWAKE」や、ジャジーな「BABY'S REQUEST」と、捨て曲なしの内容(デニー・レイン作の「AGAIN AND AGAIN AND AGAIN」は明らかに捨て曲)だし、ポールがお得意のメドレーやリプライズも駆使されていて、アルバム「RAM」をもっと派手にした様な出来栄えにはなっています。そうして実際に聴いてみるとですね、ロケストラによる2曲は話題先行で大した事はなくて、デニー・レイン作の「AGAIN AND AGAIN AND AGAIN」をカットして、ロケストラの2曲をウイングスだけで演奏していたならば、味わい深い名盤になっていたでしょう。シングル・カットは何曲も(「OLD SIAM, SIR」、「GETTING CLOSER」、「ARROW THROUGH ME」)されていますが、全てがアルバム・ヴァージョンと同じです。さて、このアルバム「BACK TO THE EGG」は、2025年12月現在でも、前作アルバム「LONDON TOWN」と共にアーカイヴ・コレクションがリリースされていません。先頃、2025年11月7日にリリースされたウイングスのベスト・アルバム「WINGS」には、アルバム「LONDON TOWN」から3曲(「I'VE HAD ENOUGH」、「LONDON TOWN」、「DELIVER YOUR CHILDREN」)と、アルバム「BACK TO THE EGG」から1曲(「GETTING CLOSER」)が「2022年リマスター音源」で収録されているので、アーカイヴ・コレクションを予定していたのかもしれませんが、2022年にはビートルズのドキュメンタリー映画「GET BACK」がソフト化されたり、ビートルズのアルバム「REVOLVER」の箱が出たり、2023年にはビートルズ最後の新曲「NOW AND THEN」を含むベスト・アルバム「赤盤」と「青盤」の拡張盤がリリースされたり、2024年にはウイングスのアルバム「BAND ON THE RUN」50周年記念盤と「ONE HAND CLAPPING」をリリースしたりと、アーカイヴ・コレクションを出す暇がなかったのでしょう。

さて、そう云うわけで、アルバム「BACK TO THE EGG」は未だにアーカイヴ・コレクションがリリースされていないので、公式盤の最新CDは1993年リリースの「ザ・ポール・マッカートニー・コレクション」と云う事になります。それも、中古でそれなりの金額でしか買えません。そこで、例によって「MOONCHILD RECORDS」から2022年にリリースされた1CDの「BACK TO THE EGG & MORE」が税込み千円で出ております。感覚が狂わされていて1CDで千円は高い!と思われるかもしれませんが、公式盤は中古でも税込み千円では買えません。アルバム「BACK TO THE EGG」はレア音源も少なくて、第7期ウイングスやロケストラのライヴ音源は以前に紹介した「WINGS LAST FLIGHT」にたっぷりと収録されているので、1CDとなっております。内容は、1「RECEPTION」、2「GETTING CLOSER」、3「WE'RE OPEN TONIGHT」、4「SPIN IT ON」、5「AGAIN AND AGAIN AND AGAIN」、6「OLD SIAM, SIR」、7「ARROW THROUGH ME」、8「ROCKESTRA THEME」、9「TO YOU」、10「AFTER THE BALL / MILLION MILES」、11「WINTER ROSE / LOVE AWAKE」、12「THE BROADCAST」、13「SO GLAD TO SEE YOU HERE」、14「BABY'S REQUEST」、15「RECEPTION」、16「CAGE」、17「GOODNIGHT TONIGHT」、18「DAYTIME NIGHTTIME SUFFRING」、19「WEEP FOR LOVE」、20「ROBBER'S BALL」、21「MAISIE」、22「SAME TIME NEXT YEAR」、23「GOODNIGHT TONIGHT」、24「SAME TIME NEXT YEAR」の、全24曲入りです。1「RECEPTION」〜14「BABY'S REQUEST」の14曲は、アルバム「BACK TO THE EGG」全14曲の最新リマスター音源です。15「RECEPTION」はロング・ヴァージョンで、16「CAGE」は「COLD CUTS」ヴァージョンで、17「GOODNIGHT TONIGHT」はロング・ヴァージョンで、18「DAYTIME NIGHTTIME SUFFRING」はシングル・ヴァージョンで、19「WEEP FOR LOVE」はデニー・レインの曲で1980年のソロ・アルバム「JAPANESE TEARS」収録曲で、20「ROBBER'S BALL」はアウトテイクで、21「MAISIE」はローレンス・ジュバーの1982年のソロ・アルバム「STANDARD TIME」からで、23「GOODNIGHT TONIGHT」はシングル・ヴァージョンで、名曲22&24「SAME TIME NEXT YEAR」は、1990年のシングル「PUT IT THERE」まで寝かせたヴァージョンと「COLD CUTS」ヴァージョンです。これはですね、税込み千円でも安い買い物ですよ。

(小島イコ)

posted by 栗 at 23:00| FAB4 | 更新情報をチェックする