1975年5月にリリースしたウイングスとしては4作目(ポールとしては6作目)のアルバム「VENUS AND MARS」を大ヒットさせた、ポール・マッカートニーが率いる「第5期ウイングス」(ポール&リンダ・マッカートニー、デニー・レイン、ジミー・マカロック、ジョー・イングリッシュ)の5人は、1976年3月リリースのウイングスとしては5作目(ポールとしては7作目)のアルバム「WINGS AT THE SPEED OF SOUND」もリリースしました。ポールは「第5期ウイングス」の5人に、ホーン・セクション4人(トニー・ドーシー、ハウイー・ケーシー、スティーヴ・ハワード、タデアス・リチャード)を加えた「第5.5期ウイングス」で、1975年9月から翌1976年10月までのワールド・ツアーを行い、1976年12月10日にはその成果であるライヴ・アルバム「WINGS OVER AMERICA」をキャピトルからリリースしました。このライヴ・アルバム「WINGS OVER AMERICA」は、LP3枚組(CD2枚組)であるにも関わらず、全英8位・全米首位!を獲得しました。1977年2月にはライヴ・アルバム「WINGS OVER AMERICA」からシングル・カットした「MAYBE I'M AMAZED / SOILY」が、全英28位・全米10位となっています。この「MAYBE I'M AMAZED」は、1970年4月17日リリースのポールの初ソロ・アルバムからの曲で、その時の邦題は「恋することのもどかしさ」で、ライヴ・アルバム「WINGS OVER AMERICA」では「メイビー・アイム・アメイズド」で、シングル・カットでは「ハートのささやき」となっていますが、三つとも同じ曲です。正に絶頂期を迎えていた「第5期ウイングス」ですが、ポールは1977年にもアルバムを制作して、ワールド・ツアーを行う予定で、1977年2月には新作アルバムのレコーディングをアビイ・ロード・スタジオで開始しました。ところが、また天然バカボンのポールは、ヴァージン諸島の高級ヨットに機材を乗せてレコーディングする事を思い付いてしまい、同1977年5月1日から5月31日まで船上レコーディングを実行してしまいました。故に、次作アルバムの仮題は「WATER WINGS」でした。
ポールとしてはバカンス半分で船上レコーディング半分の予定が、ワーカホリックなポールが故に、結局はずっとレコーディングしてしまったのです。その後、ロンドンのアビイ・ロード・スタジオで同1977年10月から12月まで、エアー・スタジオで同1977年12月に、翌1978年1月にアビイ・ロード・スタジオでと、長期に渡ってレコーディングしています。そのレコーディングの最中に、1977年11月11日(英国)・同年11月14日(米国)にシングル「MULL OF KINTYRE(夢の旅人) / GIRL'S SCHOOL」をリリースしていて、このシングルは米国では33位でしたが、全英首位!となったばかりか、それまでビートルズの「SHE LOVES YOU」が持っていた記録を塗り替える特大ヒット曲となりました。1978年3月23日(英国)・同年3月20日(米国)には、アルバムからの先行シングルとして「WITH A LITTLE LUCK (しあわせの予感) / BACKWARDS TRAVELLER - CUFF LINK(なつかしの昔よ〜カフェ・リンクをはずして)」をリリースして、全英5位・全米首位!と大ヒットさせています。「WITH A LITTLE LUCK」は、ファラ・フォーセット主演映画「SUNBURN」のエンディング・テーマ(主題歌は10ccのグレアム・グールドマン、1979年公開)に使われています。そして、1978年3月31日に、ウイングスとしては6作目(ポールとしては8作目)のオリジナル・アルバム「LONDON TOWN」をEMIとキャピトルからリリースしました。内容は、A面が、1「LONDON TOWN(たそがれのロンドン・タウン)」、2「CAFE ON THE LEFT BANK(セーヌのカフェ・テラス)」、3「I'M CARRYING」、4「BACKWARDS TRAVELLER(なつかしの昔よ) / CUFF LINK(カフェ・リンクをはずして)」、5「CHILDREN, CHILDREN」、6「GIRLFRIEND」、7「I'VE HAD ENOUGH(別れの時)」で、B面が、1「WITH A LITTLE LUCK(しあわせの予感)」、2「FAMOUS GROUPIES(伝説のグルーピー)」、3「DELIVER YOUR CHILDREN(子供に光を)」、4「NAME AND ADDRESS」、5「DON'T LET IT BRING YOU DOWN(ピンチをぶっ飛ばせ)」、6「MORSE MOOSE AND THE GREY GOOSE(モース・ムースとグレイ・グース)」の、全13曲入り(メドレーを分ければ全14曲入り)です。
シングル「MULL OF KINTYRE / GIRL'S SCHOOL」は未収録ですが、アルバムは全英4位・全米2位とヒットしています。それだけならば、めでたしめでたしなのですけれど、このアルバムは「第5期ウイングス」でレコーディングを開始して、船上レコーディングまでは5人居たのですけれど、ロンドンに戻ってから、リード・ギタリストのジミー・マカロックと、ドラマーのジョー・イングリッシュが相次いで脱退して、ポール&リンダ・マッカートニーとデニー・レインの3人だけの「第6期ウイングス」となり、その上リンダが妊娠したので産休に入り、最終的にはポールとデニー・レインの二人だけで完成させているのです。ジミー・マカロックは重度のアルコール依存症で、シングル「MULL OF KINTYRE」のレコーディング・セッション中に酔っ払って暴れて、リンダが飼っていた鶏の卵を割ってしまったので、ポールがバンドから追い出してしまったと云われています。ジミー・マカロックは、その後にスモール・フェイセズやデュークスで活躍したものの、1979年9月27日にアルコールとドラッグによるオーバードーズで26歳の若さで亡くなっています。ジョー・イングリッシュは米国人なので、英国でのレコーディングでホーム・シックになってウイングスを脱退して、米国でドラマーとして活動しています。そんなアルバム「LONDON TOWN」ですけれど、2025年12月の現在、まだアーカイヴ・コレクションがリリースされていません。次作アルバム「BACK TO THE EGG」もまだなのですけれど、今年(2025年)11月7日にリリースされたウイングスのベスト・アルバム「WINGS」に収録されたアルバム「LONDON TOWN」とアルバム「BACK TO THE EGG」からの楽曲の何曲かは「2022年リマスター」となっているので、ポールとしては2022年にその二つのアルバムのアーカイヴ・コレクションをリリースする予定だったのかもしれません。と云うわけで、未だアーカイヴ・コレクションがリリースされていないアルバム「LONDON TOWN」でも、毎度お馴染みの「MOONCHILD RECORDS」からのパイレート盤「LONDON TOWN & MORE」が、2022年にCD2枚組で新品が税込み千円でリリースされています。
内容は、CD1が、1「LONDON TOWN」、2「CAFE ON THE LEFT BANK」、3「I'M CARRYING」、4「BACKWARDS TRAVELLER」、5「CUFF LINK」、6「CHILDREN, CHILDREN」、7「GIRLFRIEND」、8「I'VE HAD ENOUGH」、9「WITH A LITTLE LUCK」、10「FAMOUS GROUPIES」、11「DELIVER YOUR CHILDREN」、12「NAME AND ADDRESS」、13「DON'T LET IT BRING YOU DOWN」、14「MORSE MOOSE AND THE GREY GOOSE」、15「MULL OF KINTYRE」、16「GIRL'S SCHOOL」、17「WATERSPOUT」、18「DID WE MEET SOMEWHERE BEFORE?」、19「SUGARTIME」、20「MR. SANDMAN」、21「B-SIDE TO SEASIDE」、22「MULL OF KINTYRE」の、全22曲入りです。1「LONDON TOWN」〜14「MORSE MOOSE AND THE GREY GOOSE」の14曲は、アルバム「LONDON TOWN」全14曲の最新リマスター音源です。「LONDON TOWN」、「CHILDREN, CHILDREN」、「DELIVER YOUR CHILDREN」、「DON'T LET IT BRING YOU DOWN」、「MORSE MOOSE AND THE GREY GOOSE」の5曲がポールとデニー・レインの共作になっているものの、おそらくデニー・レインが深く関わっているのは、リード・ヴォーカルを担当している「CHILDREN, CHILDREN」と「DELIVER YOUR CHILDREN」の2曲でしょう。シングル「MULL OF KINTYRE」もポールとデニー・レインの共作になっていますけれど、1974年のポールによるピアノ・デモ音源で既に楽曲としては完成していたので、デニー・レインの貢献度には疑問があります。他のアルバム9曲(「CAFE ON THE LEFT BANK」、「I'M CARRYING」、「BACKWARDS TRAVELLER」、「CUFF LINK」、「GIRLFRIEND」、「I'VE HAD ENOUGH」、「WITH A LITTLE LUCK」、「FAMOUS GROUPIES」、「NAME AND ADDRESS」)とシングル「GIRL'S SCHOOL」の10曲は、ポールが単独で書いています。ジミー・マカロックとジョー・イングリッシュが参加しているのは6曲(「LONDON TOWN」、「CAFE ON THE LEFT BANK」、「I'VE HAD ENOUGH」、「FAMOUS GROUPIES」、「NAME AND ADDRESS」、「MORSE MOOSE AND THE GREY GOOSE」)とシングル「GIRL'S SCHOOL」の7曲で、ジョー・イングリッシュは他に4曲(「CHILDREN, CHILDREN」、「WITH A LITTLE LUCK」、「DELIVER YOUR CHILDREN」、「DON'T LET IT BRING YOU DOWN」)に参加しています。
故に、ポール&リンダとデニー・レインの3人になった「第6期ウイングス」は、4曲(「I'M CARRYING」、「BACKWARDS TRAVELLER」、「CUFF LINK」、「GIRLFRIEND」)とシングル「MULL OF KINTYRE」の計5曲で、例によってポールが、リード・ヴォーカル、ギター、ベース、キーボード、ドラムス、パーカッション、バイオリン、フラジョレット、リコーダー、ギズモトロン、など、八面六臂の大活躍をしています。「I'M CARRYING」で聴けるオーケストラの様な音は「10cc」のロル・クレームとケヴィン・ゴドレイが開発したギター・アタッチメント「ギズモトロン(通称・ギズモ)」でのポールによる演奏で、10ccが分裂後にロル・クレームとケヴィン・ゴドレイがギズモを全面的に使用したLP3枚組の大作「CONSEQUENCE」がリリースされたのは1977年10月17日ですから、直ぐにギズモを取り入れています。ポールは、10ccのエリック・スチュワートとグレアム・グールドマンのストロベリー・スタジオで、1974年に実弟であるマイク・マクギアのアルバム「McGEAR」をプロデュースして全面的にサポートしていて、その時に同時進行で10ccが2作目のアルバム「SHEET MUSIC」をレコーディングしていたので、その頃からの仲でいち早くギズモを入手していたのでしょう。「BACKWARDS TRAVELLER」、「CUFF LINK」、「GIRLFRIEND」では、ポールがドラムスも叩いていて、「CHILDREN, CHILDREN」と「MORSE MOOSE AND THE GREY GOOSE」では、ポールがバイオリンまで弾いています。15「MULL OF KINTYRE」と、16「GIRL'S SCHOOL」の2曲はシングルで、17「WATERSPOUT」と、18「DID WE MEET SOMEWHERE BEFORE?」はアウトテイクですが、ブートレグでは定番の未発表アルバム「COLD CUTS」に収録予定だった曲なので、完成度は高いです。19「SUGARTIME」〜21「B-SIDE TO SEASIDE」の3曲は、リンダ・マッカートニーがリード・ヴォーカルを担当していて、「B-SIDE TO SEASIDE」は1977年にシングルB面になり、3曲共に1998年のリンダの遺作で唯一のソロ・アルバム「WIDE PRAIRIE」に収録されています。22「MULL OF KINTYRE」は、デモ音源でインストゥルメンタル・ヴァージョンです。
CD2は、1「RUPERT SONG」、2「TIPPI TIPPI TOES(PARENTS THEME)」、3「FLYING HORSES」、4「WHEN THE WIND IS BLOWING」、5「THE PALACE OF THE KING OF THE BIRDS」、6「SUNSHINE SOMETIME」、7「SEA / CORNISH WAFER」、8「STORM」、9「NUTWOOD SCENE」、10「WALKING IN THE MEADOW」、11「SEA MELODY」、12「RUPERT SONG(REPRISE)」、13「AFTER YOU'VE GONE」、14「FIND A WAY SOMEHOW」、15「SUICIDE」、16「REGGAE MOON」、17「BACKWARDS TRAVELLER」、18「S. M. A.」、19「I CAN'T WRITE ANOTHER SONG」、20「I'M CARRYING」、21「MULL OF KINTYRE」、22「GIRL'S SCHOOL」、23「WITH A LITTLE LUCK」、24「LONDON TOWN」、25「SEA MELODY / A FAIRY TALE」の、全25曲入りで、合計47曲入りです。1「RUPERT SONG」〜12「RUPERT SONG(REPRISE)」の12曲は、1978年7月5日の「RUPERT THE BEAR」の為のサウンドトラック音源で、レコードとしては公式リリースされていません。全ての楽曲が、ポールの単独作となっています。13「AFTER YOU'VE GONE」と、14「FIND A WAY SOMEHOW」はアウトテイクで、「AFTER YOU'VE GONE」はポールとデニー・レインが歌っています。「FIND A WAY SOMEHOW」はデニー・レインが歌っていて、1973年11月リリースのデニー・レインのソロ・アルバム「AHH..LAINE!」収録曲の再演ヴァージョンです。15「SUICIDE」は完奏ヴァージョンで、16「REGGAE MOON」と、18「S. M. A.」〜19「I CAN'T WRITE ANOTHER SONG」の3曲はアウトテイクで、17「BACKWARDS TRAVELLER」はデモ音源です。20「I'M CARRYING」〜24「LONDON TOWN」の5曲はプロモ盤編集ヴァージョンで、25「SEA MELODY / FAIRY TALE」は、前述の「RUPERT THE BEAR」の曲を、ポールがピアノを弾いて子どもたちと一緒に歌っています。そもそもクマのルパートの版権をポールが買ったのは、娘たちの為で、何とも豪勢なプレゼントですなあ。先行シングル「WITH A LITTLE LUCK」は大ヒットしたものの、第2弾シングル「I'VE HAD ENOUGH / DELIVER YOUR CHILDREN」(全英42位・全米25位)、第3弾シングル「LONDON TOWN / I'M CARRYING」(全英60位・全米39位)は売れず、アルバムの伸びもなく、絶頂期だった「第5期ウイングス」も崩壊して、再び3人の「第6期ウイングス」となり、前途多難になった1978年のポールでした。
(小島イコ)
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