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2025年11月09日

「ポールの道」#906「THE BEATLES BLACK VOX」
#215「ABBEY ROAD」

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1969年1月2日から同年1月31日までビートルズが行った「THE GET BACK SESSIONS」は、ひとことで云えば大失敗でした。1か月もかけたのに、成果はシングル1作のみで、それは1969年4月11日にアップルからリリースされたシングル「GET BACK / DON'T LET ME DOWN」です。このシングルは演奏者が「THE BEATLES with Billy Preston」となっていて、ビートルズにキーボード奏者のビリー・プレストンを加えています。ビートルズはそれまでも、1968年のシングル「REVOLUTION」でニッキー・ホプキンスを、1968年のアルバム「THE BEATLES」に収録されたジョージ・ハリスンの傑作「WHILE MY GUITAR GENTLY WEEPS」でエリック・クラプトンを参加させていましたが、その名をビートルズと共にクレジットされたのは、このシングル「GET BACK / DON'T LET ME DOWN」だけです。ビートルズは「THE GET BACK SESSIONS」を1969年1月いっぱいで終了させて、その膨大な音源をエンジニアのグリン・ジョンズに丸投げしました。それで、1969年5月28日にはアルバム「GET BACK with Don't Let Me Down and 12 other songs」をグリン・ジョンズが完成させるものの、ビートルズによって却下されました。そのアルバム「GET BACK with Don't Let Me Down and 12 other songs」第1案は、2021年10月15日にアップルからリリースされた箱「LET IT BE」で、完成から52年の時を経て、ようやく公式リリースされています。グリン・ジョンズはエンジニアとしてはローリング・ストーンズやレッド・ツェッペリンなどの名作を手掛けていますが、ビートルズのプロデューサーとしては失格だったのでしょう。ビートルズは、1969年2月22日にはジョン・レノンが主導で書いたレノン=マッカートニー作の「I WANT YOU(SHE'S SO HEAVY)」のレコーディング・セッションを始めていて、ビートルズの4人にビリー・プレストンを加えた「THE GET BACK SESSIONS」と編成は同じですが、ノーオーバーダビングだった「THE GET BACK SESSIONS」とは真逆のオーバーダビングを駆使したレコーディングに変更しています。

シングルA面の「GET BACK」は、ポール・マッカートニーが主導で書いたレノン=マッカートニー作で、B面の「DON'T LET ME DOWN」は、ジョン・レノンが主導で書いたレノン=マッカートニー作ですが、コレは両A面でも良かったと思えます。シングル「GET BACK / DON'T LET ME DOWN」がリリースされた頃には、ポールはリンダと、ジョンはヨーコさんと、それぞれ1969年3月に結婚しています。ジョンは結婚の顛末を曲にして「THE BALLAD OF JOHN AND YOKO」を書いて、直ぐにレコーディングしようと、ポールに声を掛けました。それで「THE BALLAD OF JOHN AND YOKO」は、ジョンとポールの二人だけでオーバーダビングを繰り返して1969年4月14日に完成させて、1969年5月30日にシングル「THE BALLAD OF JOHN AND YOKO / OLD BROWN SHOE」をアップルからリリースしました。B面の「OLD BROWN SHOE」は、ジョージ・ハリスン作で渋い曲ですけれど、1991年の来日公演では2曲目に披露してくれました。ジョンとポールが二人だけでレコーディングした「THE BALLAD OF JOHN AND YOKO」で、おそらくポールは手ごたえを感じて、ジョンのやる気がある内にと、新作アルバムを作る決心をしたのでしょう。ポールは、サー・ジョージ・マーティンとジェフ・エメリックにアタマを下げて、新たなアルバムを制作したいとお願いしました。サー・ジョージ・マーティンは、アルバム「THE BEATLES」や未完だった「THE GET BACK SESSIONS」の二の舞になるのは御免だと「本当の意味でプロデュースさせてくれるのならば受けよう」と承諾して、エンジニアのジェフ・エメリックも、ビートルズの不和が原因で辞めた会社(EMI)に外部エンジニアとして参加する事となったのです。そうしてレコーディングされて、1969年9月26日にアップルからリリースされたのが、英国オリジナルでは11作目のアルバム「ABBEY ROAD」です。この後に、1970年5月8日にアップルからリリースされるアルバム「LET IT BE」がありますけれど、そちらのレコーディング素材はほとんどが1969年1月の「THE GET BACK SESSIONS」音源なので、実質的なビートルズのラスト・アルバムは「ABBEY ROAD」だとも云われています。

アルバム「ABBEY ROAD」の内容は、A面が、1「COME TOGETHER」、2「SOMETHING」、3「MAXWELL'S SILVER HAMMER」、4「OH! DARLING」、5「OCTOPUS'S GARDEN」、6「I WANT YOU(SHE'S SO HEAVY)」で、B面が、1「HERE COMES THE SUN」、2「BECAUSE」、3「YOU NEVER GIVE ME YOUR MONEY」、4「SUN KING」、5「MEAN MR. MUSTARD」、6「POLYTHENE PAM」、7「SHE CAME IN THROUGH THE BATHROOM WINDOW」、8「GOLDEN SLUMBERS」、9「CARRY THAT WEIGHT」、10「THE END」、11「HER MAJESTY」の、全17曲入りです。但し、最初は「HER MAJESTY」はシークレット・トラックでした。レノン=マッカートニー作が14曲(ジョン作が6曲、ポール作が8曲)で、ジョージ・ハリスン作が2曲で、リンゴ・スター作が1曲で、リード・ヴォーカルもそれぞれの作者が担当しています。このレコードは、サー・ジョージ・マーティン曰く「A面はジョン主導で、B面は私とポール主導で制作した」とザックリとした事を云っていますけれど、勿論、全てがビートルズによって制作されています。A面の、1「COME TOGETHER」は、ジョンが主導で書いたレノン=マッカートニー作で、クールなロックンロールで幕が上がります。この曲はジョンがソロになってもライヴで披露していて、ポールもカバーしています。チャック・ベリーの「YOU CAN'T CATCH ME」の盗作だと云われましたが、充分にジョンのオリジナルですし、盗作問題の解決策として1975年2月にリリースしたカバー・アルバム「ROCK'N'ROLL」では、ジョンが「COME TOGETHER」風に「YOU CAN'T CATCH ME」をカバーしています。2「SOMETHING」は、ジョージ・ハリスン一世一代の傑作で、ジョンの「COME TOGETHER」と両A面でシングル・カットされて大ヒットしています。サー・ジョージ・マーティンによる渾身のストリングスに乗せて、ジョージが見事なリード・ギターを弾いています。3「MAXWELL'S SILVER HAMMER」は、ポールが主導で書いたレノン=マッカートニー作で、コレはアルバム「ABBEY ROAD」では捨て曲に限りなく近い凡作です。

4「OH! DARLING」は、ポールが主導で書いたレノン=マッカートニー作で、一転して良い時のポール節が炸裂していますし、ジョンは自分が歌えばもっと良くなったと云っています。5「OCTOPUS'S GARDEN」は、2度目のリンゴ・スター作ですけれど、映画「LET IT BE」を観れば分かる様に、コレはジョージとの合作です。6「I WANT YOU(SHE'S SO HEAVY)」は、ジョンが主導で書いたレノン=マッカートニー作で、途中のラテン風な展開はフリートウッド・マックの「BLACK MAGIC WOMAN」を意識したのでしょう。7分44秒もある曲ながら、歌詞は単純明快で、後のソロ・アルバム「JOHN LENNON / PLASTIC ONO BAND(ジョンの魂)」に直結しています。エンディングのカットアウトは、レコードではA面の最後なので、最初に聴いた時には大いに吃驚したものです。ひっくり返してB面の、1「HERE COMES THE SUN」は、ジョージ作の爽やかな名曲で、日本では「OH! DARLING」とのカップリングでシングル・カットされています。2「BECAUSE」は、ジョンが主導で書いたレノン=マッカートニー作で、ジョンとポールとジョージの3声コーラスが美しい曲です。この曲からB面メドレーは既に始まっている感じもします。そして、3「YOU NEVER GIVE ME YOUR MONEY」から本格的にメドレーが始まります。「YOU NEVER GIVE ME YOUR MONEY」はポールが主導で書いたレノン=マッカートニー作で、ジョン作の「HAPPINESS IS A WARM GUN」のポール版みたいな予測不能な展開の組曲です。4「SUN KING」は、ジョンが主導で書いたレノン=マッカートニー作で、やはりフリートウッド・マックの「ALBATROSS」に似ています。ジョンは、ローリング・ストーンズの特番「ROCK AND ROLL CIRCUS」でも「ダーティー・マック」と名乗っていたので、この時期のピーター・グリーン時代のフリートウッド・マックが気に入っていたのでしょう。5「MEAN MR. MUSTARD」は、ジョンが主導で書いたレノン=マッカートニー作で、既に1968年5月の「イーシャー・デモ」で演奏されていました。「SUN KING」と「MEAN MR. MUSTARD」は、最初からメドレーとしてつづけて演奏されています。

6「POLYTHENE PAM」は、ジョンが主導で書いたレノン=マッカートニー作で、コレもまた「イーシャー・デモ」の段階で出来ていた曲ですが、痛快なロックンロールです。7「SHE CAME IN THROUGH THE BATHROOM WINDOW」は、ポールが主導で書いたレノン=マッカートニー作で、「POLYTHENE PAM」と「SHE CAME IN THROUGH THE BATHROOM WINDOW」も最初からメドレーとして演奏されていて、この2曲を繋いだ最後の「レノン=マッカートニー作品」は、メドレーのクライマックスです。8「GOLDEN SLUMBERS」から、9「CARRY THAT WEIGHT」を経て、10「THE END」となる3曲は、全てがポールが主導で書いたレノン=マッカートニー作です。「GOLDEN SLUMBERS」と「CARRY THAT WEIGHT」は最初からメドレーとして演奏されていて、「CARRY THAT WEIGHT」では「YOU NEVER GIVE ME YOUR MONEY」が再び出てきます。「THE END」ではリンゴのドラムス・ソロや、ポール、ジョージ、ジョンによるリード・ギターの競演もあります。そして、アルバム「ABBEY ROAD」は終わったと思ったら、いきなり大音響で「HER MAJESTY」がオマケで入っています。コレも、最初に聴いた時には吃驚でした。元々「MEAN MR. MUSTARD」と「POLYTHENE PAM」の間に入っていた「HER MAJESTY」を、ポールが試聴してカットして捨てる様に指示したのに、ビートルズの音源はどんなクズでも捨ててはならないと云う決まりがあったので、最後に繋いで置いたのをポールが気に入ってそのままで発表されたわけですなあ。サー・ジョージ・マーティンは、4人全員が最後のアルバムとなる事を意識していて、争う事もなくレコーディング・セッションを行った、と云っていました。実際に、ビートルズはこの後に解散へと向かうわけですけれど、この傑作アルバム「ABBEY ROAD」は、これで解散するバンドとは思えない完璧な演奏で貫かれています。楽曲としては、ほとんどの曲が既に「THE GET BACK SESSIONS」の段階で出来ていて、このアルバム用の新曲は「COME TOGETHER」と「HERE COMES THE SUN」と「BECAUSE」と「YOU NEVER GIVE ME YOUR MONEY」と「THE END」位しかないのですが、同じ曲なのに演奏は「THE GET BACK SESSIONS」とは雲泥の差があります。

アルバム「ABBEY ROAD」は、1983年に東芝が勝手にCD化して発禁となりますが、世界的には1987年10月19日にステレオ・ミックスで初CD化され、全世界統一規格化されました。とは云え、アルバム「ABBEY ROAD」は、元々ステレオ・ミックスしか制作しておらず、ブートレグになっているモノラル盤は、ステレオ・ミックスをモノラルにしただけのインチキ・ミックスです。その後は、22年間もそのままで、2009年9月9日にステレオ・ミックス(箱とバラ売り)がリマスターされました。更に、2019年9月27日には、50周年記念盤として、3CD+1BDの箱「ABBEY ROAD」がアップルからリリースされました。CD1が、アルバム「ABBEY ROAD」全17曲の2019年ステレオ・リミックスで、CD2とCD3がアウトテイク全23曲入りで、BDは2019年ステレオ・リミックス音源に、シークレット・トラックとして「SOMETHING」のミュージック・ビデオが収録されています。CD2枚組盤も出ていて、そちらのCD2はアウトテイク・ハイライトの全16曲入りとなっています。しかしながら、CD3の「THE LONG ONE」で「YOU NEVER GIVE ME YOUR MONEY」〜「THE END」のラフミックス音源を入れているのは良いとして、「HER MAJESTY」が「MEAN MR. MUSTARD」と「POLYTHENE PAM」の間に入っていたと云う構成に戻していて、公式盤でそう云うブートレグみたいなインチキ・ミックスをするのはどうなんでしょうね。アルバム「ABBEY ROAD」はビートルズが真剣になっていてアウトテイクが少ないからとは云え、最後にサー・ジョージ・マーティンによるインストゥルメンタル状態のオーケストラ音源を入れているのも、何だかなあ、です。2023年11月10日にリリースされたベスト・アルバム「THE BEATLES 1967-1970(青盤)」の拡張盤には、シングル「THE BALLAD OF JOHN AND YOKO」の2015年ステレオ・リミックスと「OLD BROWN SHOE」の2023年ステレオ・リミックスと、アルバム「ABBEY ROAD」からは、「HERE COMES THE SUN」、「COME TOGETHER」、「SOMETHING」、「OCTOPUS'S GARDEN」に加えて、「OH! DARLING」、「I WANT YOU(SHE'S SO HEAVY)」の7曲が、2019年ステレオ・リミックスで収録されていますけれど、このアルバムもオリジナル・アルバムで聴かなきゃアカンでしょう。

(小島イコ)

posted by 栗 at 23:00| FAB4 | 更新情報をチェックする