
テレビ映画「MAGICAL MYSTERY TOUR」の大不評で幕を閉じた1967年のビートルズですが、レコードは相変わらず絶賛されて売れていました。ポール・マッカートニー主導体制が目立った1967年が終わり、1968年2月に次のシングル用のレコーディング・セッションが行われます。候補曲として、ポール・マッカートニーが主導で書いたレノン=マッカートニー作でポールが歌う「LADY MADONNA」と、ジョン・レノンが主導で書いたレノン=マッカートニー作でジョンが歌う「ACROSS THE UNIVERSE」と、ジョージ・ハリスン作でジョージが歌う「THE INNER LIGHT」が取り上げられ、A面はポール作の「LADY MADONNA」に決定したので、ジョンは自作の「ACROSS THE UNIVERSE」を自らボツにして、ジョージ作の「THE INNER LIGHT」をB面に推しました。更に、A面の「LADY MADONNA」のプロモーション・フィルムを撮影するのですが、ポールの意見で時間が勿体ないから新曲を演奏する事となり、ジョンが主導で書いたレノン=マッカートニー作でジョンが歌う「HEY BULLDOG」をレコーディングして完成させています。ジョンは、この時点で「ACROSS THE UNIVERSE」と「HEY BULLDOG」をボツにしたのです。そうして、1968年3月15日に、シングル「LADY MADONNA / THE INNER LIGHT」が英国パーロフォンからリリースされました。ジョージの曲がシングルになったのは、コレが最初です。しかし、そのシングルがリリースされた頃には、ビートルズはインドにいました。ビートルズは、マハリシの瞑想キャンプに参加していたのです。リンゴ・スターは食が合わず10日足らずで帰国しましたが、ポールは1か月程、ジョンとジョージは2か月弱、インドにいました。ところが、瞑想以外には何もやる事がなかったので、ジョンとポールとジョージは一説には合わせて40曲以上もの曲をアコースティック・ギターで書いたのです。マハリシのセクハラ疑惑に怒ったジョンとジョージが帰国して、1968年5月下旬にはジョージ宅に4人で合宿して、ビートルズとしては初めてのプリプロダクションを行っています。
その通称「イーシャー・デモ」では27曲がレコーディングされていて、それを叩き台として新作アルバムのレコーディング・セッションが、1968年5月30日から同年11月14日まで約5か月をかけて行われました。そのレコーディング・セッションから、まずは1968年8月30日にはシングル「HEY JUDE / REVOLUTION」が、ビートルズが新たに設立したアップルからの第1弾としてリリースされました。米国では1968年8月26日にアップルからリリースされたA面の「HEY JUDE」は、ポールが主導で書いたレノン=マッカートニー作でポールが歌っていて、B面の「REVOLUTION」はジョンが主導で書いたレノン=マッカートニー作でジョンが歌っています。A面の「HEY JUDE」は、全英3週連続首位!・全米9週連続首位!となり、ビートルズで最も売れたシングルと云われています。B面の「REVOLUTION」は、シングル用にリメイクしていますが、元々はアルバムのレコーディング・セッションではスローテンポな「REVOLUTION」が最初にレコーディングされていて、10分以上もある曲で、ジョンはシングル化を熱望したものの、他の3人に反対されてアップテンポにしたのです。長期間に及んだアップルからの最初の新作アルバムはLP2枚組全30曲入りとなって、1968年11月22日に英国オリジナルでは9作目のオリジナル・アルバムとしてアップルからリリースされます。タイトルはズバリ「THE BEATLES」で、ジャケットが真っ白なので、通称「ホワイト・アルバム」と呼ばれています。サー・ジョージ・マーティンは1枚にする事を望んだものの、ビートルズは2枚組に拘って押し通してしまいました。イーシャー・デモの全27曲中、アルバム「THE BEATLES」に収録されたのは19曲で、つまり、シングル「HEY JUDE / REVOLUTION」も加えた全32曲中、13曲はイーシャー・デモでは登場していません。「REVOLUTION」のバリエーションを抜いても、ビートルズは39曲も新曲を用意していたので、2枚組となったのは自然な流れでした。
アルバム「THE BEATLES」の内容は、A面が、1「BACK IN THE U.S.S.R.」、2「DEAR PRUDENCE」、3「GLASS ONION」、4「OB-LA-DI, OB-LA-DA」、5「WILD HONEY PIE」、6「THE CONTINUING STORY OF BUNGALOW BILL」、7「WHILE MY GUITAR GENTLY WEEPS」、8「HAPPINESS IS A WARM GUN」で、B面が、1「MARTHA MY DEAR」、2「I'M SO TIRED」、3「BLACKBIRD」、4「PIGGIES」、5「ROCKY RACCOON」、6「DON'T PASS ME BY」、7「WHY DON'T WE DO IT IN THE ROAD?」、8「I WILL」、9「JULIA」で、C面が、1「BIRTHDAY」、2「YER BLUES」、3「MOTHER NATURE'S SUN」、4「EVERYBODY’S GOT SOMETHING TO HIDE EXCEPT ME AND MY MONKEY」、5「SEXY SADIE」、6「HELTER SKELTER」、7「LONG, LONG, LONG」で、D面が、1「REVOLUTION 1」、2「HONEY PIE」、3「SAVOY TRUFFLE」、4「CRY BABY CRY」、5「REVOLUTION 9」、6「GOOD NIGHT」の、全30曲入りです。レノン=マッカートニー作が25曲(ジョン作が13曲、ポール作が12曲)、ジョージ作が4曲、リンゴ作が1曲で、リード・ヴォーカルは、ジョンが12曲、ポールが12曲、ジョージが4曲、リンゴが2曲となっていて、前年である1967年の「ポール独裁体制」を覆しています。ソレは何故なのかと云うとですね、ジョンの曲が再び増えていて、量質共にポールと均衡しているからです。要するに、ジョンがやる気を出したわけですが、理由はやっぱりヨーコさんなのでしょう。A面の、1「BACK IN THE U.S.S.R.」は、ポール作のロックンロールで、ビーチ・ボーイズを意識していますけれど、リンゴが脱退中(この曲が原因)だったので、ドラムスはポールです。2「DEAR PRUDENCE」は、ジョン作で、この曲のドラムスもポールです。3「GLASS ONION」は、イントロのドラムスだけでリンゴだと分かる曲で、ジョンが過去のビートルズ・ナンバーを歌い込んでいます。4「OB-LA-DI, OB-LA-DA」は、ポール作で、この曲のレコーディング・セッション中にアドバイスしたサー・ジョージ・マーティンにポールが「だったらアンタが歌え」と暴言を吐いたので、サー・ジョージ・マーティンを尊敬しているエンジニアのジェフ・エメリックが辞めています。
暴言を吐かれたサー・ジョージ・マーティンも、困ったもんだと、レコーディング・セッション中に休暇を取って、後釜を弟子のクリス・トーマスに丸投げしています。クリス・トーマスは後に名プロデューサーになりますが、この当時はサー・ジョージ・マーティンに弟子入りしたばかりの若造でした。5「WILD HONEY PIE」は、ポール作で完全なおふざけのソロですが、ジョージ夫人だったパティが気に入ったので収録しています。6「THE CONTINUING STORY OF BUNGALOW BILL」は、ジョン作で、一節だけヨーコさんに歌わせていて顰蹙を買いました。7「WHILE MY GUITAR GENTLY WEEPS」は、ジョージ作の名曲で、リード・ギターはエリック・クラプトンです。8「HAPPINESS IS A WARM GUN」は、ジョン作の傑作で、ポールは、この曲が入っているだけでアルバム「THE BEATLES」は価値がある、と云っています。B面の、1「MARTHA MY DEAR」は、愛犬を歌ったポールのソロです。2「I'M SO TIRED」は、ジョン作の「疲れた」ソングで、ビートルズらしい演奏です。3「BLACKBIRD」は、ポールのソロでアコースティックな名曲です。4「PIGGIES」は、ジョージ作の風刺が効いた曲で、1991年の来日公演で披露してくれた時には驚きました。5「ROCKY RACCOON」は、これまたポールのソロ風ですが、ジョンのハーモニカと、サー・ジョージ・マーティンのピアノが良い感じです。6「DON'T PASS ME BY」は、リンゴが初めて単独で書いた曲ですが、リンゴは1963年にこの曲を書いていると云っているので、完成するのに5年もかかったカントリー調の曲です。7「WHY DON'T WE DO IT IN THE ROAD?」は、ポールのソロに限りなく近い曲で、ローリング・ストーンズの「STREET FIGHTING MAN」へのアンサー・ソングと云われていまが、インドで道端で猿が交尾しているのを見て書いたとも云われています。8「I WILL」は、ポール作のこれまたソロに近い名曲で、ポールの口ベースも聴けます。9「JULIA」は、ジョン作で、インドでドノヴァンに習った3フィンガーでの弾き語りで、ビートルズ時代に唯一ジョンがソロ・レコーディングした美しい曲です。しかし、スタジオのコントロール・ルームにはポールがいて、会話しながらレコーディングされています。
C面の、1「BIRTHDAY」は、レコーディング・セッション中にポールの家で映画「THE GIRL CAN'T HELP IT(女はそれを我慢できない)」を観て、スタジオに戻ってその場でポールが中心となって書いた曲ですが、思いっ切りパクリじゃないでしょうか。パティとヨーコさんがコーラスで参加していて、ヨーコさんだけではなく、パティもスタジオに居たわけですなあ。2「YER BLUES」は、ジョン作のブルース・ロック・ブームを揶揄した曲で、後に「ダーティー・マック」や「プラスティック・オノ・バンド」でも演奏しています。3「MOTHER NATURE'S SUN」は、やっぱりポールのソロです。4「EVERYBODY’S GOT SOMETHING TO HIDE EXCEPT ME AND MY MONKEY」は、ジョン作の痛快なロックンロールです。5「SEXY SADIE」は、ジョン作の美しい曲で、ビートルズ4人の演奏も良く、個人的にはアルバム「THE BEATLES」のクライマックスだと思います。6「HELTER SKELTER」は、ポール作のヘヴィーメタルの元祖です。7「LONG, LONG, LONG」は、ジョージ作の一寸怖い曲です。D面の、1「REVOLUTION 1」は、ジョン作で最初にレコーディングした「REVOLUTION」(Take 20)の前半を編集した曲です。2「HONEY PIE」は、ポール作でヴォードヴィル調で、ポールのソロに近いものの、ジョンのリード・ギターが良いです。3「SAVOY TRUFFLE」は、ジョージ作のカッコイイ曲で、個人的には「WHILE MY GUITAR GENTLY WEEPS」よりもこっちの路線の方が好きです。4「CRY BABY CRY」は、ジョン作で、広告からヒントを得た曲です。そして、ノンクレジットでポール作の「CAN YOU TAKE ME BACK?」を挟んで、5「REVOLUTION 9」となるのですけれど、この前衛作品は当時も現在でも問題作です。元になったのは最初の「REVOLUTION」(Take 20)の後半部分で、ジョン作ではあるものの、ヨーコさんとジョージ・ハリスンの声も聴こえます。サー・ジョージ・マーティンはアルバムを1枚にまとめた方が良いと云っていて、真っ先にコレを外す気だったのか、と思いきや「アレはジョンと私が作った傑作だ」などと云っていました。最後の、6「GOOD NIGHT」は、ジョン作で、リンゴのソロです。一見バラバラな様なアルバムですが、曲順はジョンとポールがサー・ジョージ・マーティンと共に24時間もかけて決めたそうです。
アルバム「THE BEATLES」は、1987年8月24日に、CD2枚組で初CD化されていて、内容は英国オリジナル・ステレオ・ミックスで全世界統一規格化されました。ビートルズのモノラル・ミックスでは、英国では前作アルバム「SGT. PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND」と、この「THE BEATLES」が特に違いがあるので、その後は22年間もモノラル・ミックスのパイレート盤が商売になりました。1998年11月24日には、30周年記念盤としてアナログ盤を復刻した紙ジャケでアップルからリリースされましたが、中味は1987年盤CDと同じです。そして、2009年9月9日に、ステレオ・ミックス(箱とバラ売り)とモノラル・ミックス(箱)でリマスターされています。2018年11月9日には、6CD+1BDの箱「THE BEATLES」50周年記念盤がアップルからリリースされました。CD1とCD2は、ジャイルズ・マーティンとサム・オケルによる「2018年ステレオ・リミックス」全30曲入りで、CD3は「イーシャー・デモ」全27曲のステレオ・リミックスで、CD4〜CD6は、アウトテイク全46曲とシングル「LADY MADONNA」関連4曲の合計50曲入りで、BDは2018年ステレオ・リミックス3種とモノラル・ミックスの合計4種で全120曲入りです。「イーシャー・デモ」全27曲中、アルバム「THE BEATLES」から漏れた8曲は、ジョン作の「CHILD OF NATURE」と「MEAN MR. MUSTARD」と「POLYTHENE PAM」と「WHAT'S THE NEW MARY JANE」の4曲、ジョージ作の「SOUR MILK SEA」、「CIRCLES」、「NOT GUILTY」の3曲、ポール作の「JUNK」です。2023年11月10日にアップルからリリースされたベスト・アルバム「THE BEATLES 1967-1970(青盤)」の拡張盤には、関連シングルを加えて「LADY MADONNA」と「HEY JUDE」が2015年ステレオ・リミックスで、「REVOLUTION」が2023年ステレオ・リミックスで、「BACK IN THE U.S.S.R.」、「DEAR PRUDENCE」(追加曲)、「WHILE MY GUITAR GENTLY WEEPS」、「OB-LA-DI, OB-LA-DA」、「GLASS ONION」(追加曲)、「BLACKBIRD」(追加曲)の6曲が2018年ステレオ・リミックスで収録されていますが、この「THE BEATLES」はオリジナル・アルバムで聴いてナンボでしょう。
(小島イコ)
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