
1967年2月17日にロック史上最強の両A面シングル「STRAWBERRY FIELDS FOREVER / PENNY LANE」を英国パーロフォンからリリースしたビートルズは、同1967年5月26日にはビートルズの最高傑作と云われていた英国オリジナルでは8作目のアルバム「SGT. PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND」を英国パーロフォンからリリースしました。ポール・マッカートニー色が強いそのアルバムは、ポール・マッカートニーと、プロデューサーのサー・ジョージ・マーティンと、エンジニアのジェフ・エメリックによるアルバムだとも云えます。まあ、でもアルバム「SGT. PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND」でのポールの曲は、量は多いけれど相変わらずアタリハズレがあります。米国キャピトル盤のアルバム「SGT. PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND」も、初めて英国オリジナルと同じ内容(但し、最後の意味不明なお喋りはカット)となり、有無を云わせぬ大仰なジャケットで、裏ジャケットには全曲の歌詞が印刷されています。そして、ポールはアルバムがほとんど完成したので、当時の恋人だったジェーン・・アッシャーのお誕生日(4月5日)をサプライズでお祝いする為に渡米して、ついでにブライアン・ウィルソン(ビーチ・ボーイズ)にも逢って、新作アルバム「SMiLE」を1967年の夏に間に合う様に早く完成しろ、とプレッシャーをかけています。そして帰国する飛行機の中で、ポールは新たな企画を思い付いてしまうのです。それが、1967年12月26日にBBCで初放送されるテレビ映画「MAGICAL MYSTERY TOUR」です。帰国したポールは、直ぐにテーマ曲「MAGICAL MYSTERY TOUR」を書いて、1967年4月25日から困惑するジョン・レノンとジョージ・ハリスンとリンゴ・スターを強引に誘い、「MAGICAL MYSTERY TOUR」のレコーディング・セッションを開始してしまったのです。ジョンとジョージとリンゴが困惑したのも当然で、ビートルズはまだアルバム「SGT. PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND」を1967年4月20日に完成させたばかりでリリースもしておらず、それなのに早くも次の企画を持って来たポールに対して疑問を抱く様になりました。
英国での1967年のビートルズは、前述の1967年2月17日のシングル「STRAWBERRY FIELDS FOREVER / PENNY LANE」を、1967年5月26日にアルバム「SGT. PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND」と、つづいて英国パーロフォンからリリースして、1967年7月7日には同年6月25日に世界衛星中継された「OUR WORLD」で披露した「ALL YOU NEED IS LOVE」(B面はアニメ用だった「BABY YOU'RE A RICH MAN」)をリリースして、1967年11月24日にはシングル「HELLO GOODBYE / I AM THE WALRUS」をリリースしています。その間の1967年8月27日には、マネジャーであるブライアン・エプスタインが32歳の若さで亡くなると云う、ビートルズの存続を揺るがした大事件も起きています。ポールは舵取り役のブライアン・エプスタインが亡くなったので、自分が代わりにビートルズをまとめようとするのですけれど、他の3人にとっては「何でポールが仕切っているんだ?」と不満を持つ事となってゆくのでした。そして、ポールが発案したテレビ映画「MAGICAL MYSTERY TOUR」が撮影されて、英国ではBBCで1967年12月26日にモノクロ映像で初放送されて、その意味不明な内容から「ビートルズ初めての大失敗作」と貶されたのでした。余りの悪評に、米国では放送中止になっています。そもそも脚本もなく行き当たりばったりで撮影されたテレビ映画「MAGICAL MYSTERY TOUR」には意味などなく、ビートルズによるミュージック・ビデオの前後に意味不明な映像が挟まっている様な作品です。ビートルズたちがバス・ツアーをやって、何かハプニングが起こるだろうと思ったら、何も起こらなかったので、4人が魔法使いになったり、楽曲を演奏したりする場面を加えて完成させています。現在では「MTVの元祖」などと云われて傑作映画とされていますけれど、それなりにディープなビートルズのファンであるあたくしの目から見ても、昔も今も訳が分からない映画で、変な云い方ですが、その訳が分からないところが素晴らしいのかなあ、としか云えない、正に摩訶不思議な映像作品です。しかし、ビッグ・ジョージ・マーティンがプロデュースしたビートルズの音楽は絶賛されました。
ビートルズは、そのテレビ映画「MAGICAL MYSTERY TOUR」用に書いた新たな6曲を、EP2枚組で1967年12月8日に英国パーロフォンからリリースしました。内容は、A面が、1「MAGICAL MYSTERY TOUR」、2「YOUR MOTHER SHOULD KNOW」で、B面が、1「I AM THE WALRUS」で、C面が、1「THE FOOL ON THE HILL」、2「FLYING」で、D面が「BLUE JAY WAY」の、全6曲入りで、ステレオとモノラルでのリリースでした。ところが、米国キャピトルは何度もレコードをひっくり返すEPでは米国では受け入れられないと考えて、A面にEP「MAGICAL MYSTERY TOUR」の全6曲を入れて、B面には英国ではシングルのみでアルバム未収録だった5曲を入れて、全11曲入りの編集アルバム「MAGICAL MYSTERY TOUR」として、1967年11月27日にリリースしてしまったのです。新たな試みとして敢えてEP2枚組にしたビートルズの意図など、米国キャピトルにとってはどうでも良かったのです。編集アルバム「MAGICAL MYSTERY TOUR」の内容は、A面が、1「MAGICAL MYSTERY TOUR」、2「THE FOOL ON THE HILL」、3「FLYING」、4「BLUE JAY WAY」、5「YOUR MOTHER SHOULD KNOW」、6「I AM THE WALRUS」で、B面が、1「HELLO GOODBYE」、2「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」、3「PENNY LANE」、4「BABY YOU'RE A RICH MAN」、5「ALL YOU NEED IS LOVE」の、全11曲入りです。A面の曲順もオリジナルのEPとは違っているし、大傑作であるシングル「STRAWBERRY FIELDS FOREVER / PENNY LANE」を、単なるB面の2曲目と3曲目にしてしまったのは、いただけませんなあ。A面の、1「MAGICAL MYSTERY TOUR」は、ポールが主導で書いたレノン=マッカートニー作でポールが歌っていて、ジョンの声も目立っているテレビ映画の主題歌です。2「THE FOOL ON THE HILL」は、ポールが主導で書いたレノン=マッカートニー作で、ポールが歌っています。3「FLYING」はビートルズ4人の合作になっているインストゥルメンタル曲ですが、主旋律を書いたのはポールでしょう。4「BLUE JAY WAY」は、ジョージ作でジョージが歌う幻想的な曲です。
5「YOUR MOTHER SHOULD KNOW」は、ポールが主導で書いたレノン=マッカートニー作でポールが歌っていて、6「I AM THE WALRUS」は、ジョンが主導で書いたレノン=マッカートニー作でジョンが歌っている大傑作ですが、ビートルズ風の曲を後の世に書く方々は、何故かこの「YOUR MOTHER SHOULD KNOW」もしくは「I AM THE WALRUS」を参考にしています。これらの6曲は、映像版も込みでの評価となりますけれど、やはりビートルズが白いタキシード姿で階段を降りてくるだけの「YOUR MOTHER SHOULD KNOW」と、着ぐるみ姿で演奏する「I AM THE WALRUS」が強烈な印象を与えてくれます。ひっくり返してB面の、1「HELLO GOODBYE」は、ポールが主導で書いたレノン=マッカートニー作でポールが歌う能天気な歌で、ジョンは自画自賛している「I AM THE WALRUS」がシングルのB面になったので怒っていました。2「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」はジョン主導で、3「PENNY LANE」はポール主導でのレノン=マッカートニーによる「ロック史上最強両A面シングル」なのに、扱いが雑です。4「BABY YOU'RE A RICH MAN」は、レノン=マッカートニーの合作でジョンが歌い、クラヴィオラインを弾いていて、ミック・ジャガーがコーラスで参加しています。5「ALL YOU NEED IS LOVE」は、ジョンが主導で書いたレノン=マッカートニー作でジョンが歌っていて、ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、マリアンヌ・フェイスフル、キース・ムーンが参加していて、何だみんな仲良しじゃないか、となったのです。英国では全てがアルバム未収録曲だったので、米国キャピトルの輸入盤が売れて、1976年に英国盤がコッソリとリリースされています。アルバムだと、レノン=マッカートニーが9曲(ジョン主導が3曲、ポール主導が5曲、合作が1曲)、ジョージ作が1曲、4人の合作が1曲、となっていますけれど、A面のEPでの6曲は、ポール主導が3曲、ジョン主導が1曲、ジョージ作が1曲、4人の合作が1曲と、やはりポールが圧倒しています。1967年のビートルズは、ポール・マッカートニーでした。ポールはこの編集アルバムから、ソロで「MAGICAL MYSTERY TOUR」、「THE FOOL ON THE HILL」、「YOUR MOTHER SHOULD KNOW」、「HELLO GOODBYE」、「PENNY LANE」は勿論、ジョン主導の「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」と「ALL YOU NEED IS LOVE」までライヴで披露しています。
ビートルズが初CD化された際に、この米国キャピトル編集アルバム「MAGICAL MYSTERY TOUR」は、オリジナル・アルバムの仲間入りをしました。全11曲中「ALL YOU NEED IS LOVE」以外の10曲が英国オリジナル・アルバムには未収録だったので、1987年9月21日に米国キャピトル編集アルバム「MAGICAL MYSTERY TOUR」の1971年リリースの西ドイツ盤(アルバムB面の何曲かが真正ステレオ・ミックスで初収録された)を元にした、ステレオ・ミックスでのCD化で、全世界統一規格化されました。1992年6月15日にリリースされた「THE BEATLES COMPACT DISC EP COLLECTION」には、英国オリジナルEP「MAGICAL MYSTERY TOUR」全6曲がステレオ・ミックスとモノラル・ミックスで収録されています。そして、時は流れて2009年9月9日に、編集アルバム「MAGICAL MYSTERY TOUR」は、ステレオ・ミックス(箱とバラ売り)と、モノラル・ミックス(箱)でリマスターされアップルからリリースされました。それで、めだたしめでたし、となったのですけれど、2023年11月10日にベスト・アルバム「THE BEATLES 1967-1970(青盤)」の拡張盤がアップルからリリースされたのです。元々「青盤」には、この編集アルバムからは、「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」、「PENNY LANE」、「ALL YOU NEED IS LOVE」、「I AM THE WALRUS」、「HELLO GOODBYE」、「THE FOOL ON THE HILL」、「MAGICAL MYSTERY TOUR」の7曲が収録されていて、2023年盤への追加収録曲はなかったのですけれど、既にステレオ・リミックスしていた「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」と「ALL YOU NEED IS LOVE」と「HELLO GOODBYE」の3曲が2015年ステレオ・リミックスで、「PENNY LANE」が2017年ステレオ・リミックスで、収録されています。問題は、「I AM THE WALRUS」と「THE FOOL ON THE HILL」と「MAGICAL MYSTERY TOUR」の3曲で、ソレが「2023年ステレオ・リミックス」での初収録となったのです。特に「I AM THE WALRUS」は、これまでとは大きく印象が異なるステレオ・リミックスになっています。
(小島イコ)
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