
1966年のビートルズは、大きく変化しました。まず、1964年の初主演映画「A HARD DAY'S NIGHT」と、1965年の2作目の主演映画「HELP!」につづく3作目の主演映画を、マネジャーであるブライアン・エプスタインは当然の如く企画していたのにも関わらず、中止しています。そして、BBCラジオへの出演も止めていて、テレビ出演もプロモーション・フィルムを制作する事で止めています。更に、1966年8月29日のサンフランシスコのキャンドル・スティック・パーク公演を最後に、ライヴ活動も止めてしまいました。1966年6月から7月にかけての初来日公演は、そう考えればギリギリ間に合ったわけです。そうした流れで、ビートルズは新たにスタジオ・レコーディングに特化したバンドに生まれ変わるのです。1966年6月10日には、シングル「PAPERBACK WRITER / RAIN」を英国パーロフォンからリリースしていて、A面の「PAPERBACK WRITER」は、ポール・マッカートニーが主導で書いたレノン=マッカートニー作でポールが歌っていてイントロのギターもポールで、B面の「RAIN」は、ジョン・レノンが主導で書いたレノン=マッカートニー作でジョンが歌っています。2曲共に、ポールによるベースと、リンゴ・スターによるドラムスが強烈ですが、リンゴ自身が自画自賛したジョン作の「RAIN」では、演奏を速いスピードで弾いて通常のスピードに戻したり、テープの逆回転を使っています。つまり、このシングルの段階で、既にライヴでの再現は不可能な領域に入っていますし、このシングルから、エンジニアがノーマン・スミスからジェフ・エメリックに代わっています。1966年8月5日には、7作目のアルバム「REVOLVER」全14曲入りと、アルバムからの両A面シングル「ELEANOR RIGBY / YELLOW SUBMARINE」を英国パーロフォンから同時にリリースしていて、シングル2作は全英首位!となり、アルバム「REVOLVER」は全英7週連続首位!となっています。ビートルズやローリング・ストーンズ以外にも沢山のバンドが活動していたので、アルバム「REVOLVER」は以前の様に長期間の首位!とはなっていませんし、そのサウンドの変化から取っ付き難い内容となっていたのかもしれません。
アルバム「REVOLVER」の内容は、A面が、1「TAXMAN」、2「ELEANOR RIGBY」、3「I'M ONLY SLEEPING」、4「LOVE YOU TO」、5「HERE, THERE AND EVERYWHERE」、6「YELLOW SUBMARINE」、7「SHE SAID SHE SAID」で、B面が、1「GOOD DAY SUNSHINE」、2「AND YOUR BIRD CAN SING」、3「FOR NO ONE」、4「DOCTOR ROBERT」、5「I WANT TO TELL YOU」、6「GOT TO GET YOU INTO MY LIFE」、7「TOMORROW NEVER KNOWS」の、全14曲入りです。1966年の新作レコードはアルバム「REVOLVER」までなので、新曲は16曲と大幅に減っています。1966年8月8日には米国キャピトル盤がリリースされていますが、米国キャピトルは1966年6月20日に編集盤「YESTERDAY AND TODAY」に3曲(「I'M ONLY SLEEPING」、「AND YOUR BIRD CAN SING」、「DOCTOR ROBERT」)とジョンが主導の3曲を先出しさせたので、米国キャピトル編集アルバムとなった「REVOLVER」は、英国オリジナル・アルバム「REVOLVER」から3曲抜いた全11曲のスカスカ盤と化してしまったのです。英国オリジナル・アルバム「REVOLVER」は、レノン=マッカートニー作が11曲(ジョン主導が5曲、ポール主導が5曲、合作が1曲)で、ジョージ・ハリスン作が3曲の、全曲オリジナルです。リード・ヴォーカルは、ジョンが5曲、ポールが5曲、ジョージが3曲、リンゴが1曲となっていて、ここに来て遂にポールが量質共にジョンと並びました。そして、ジョージが3曲とレノン=マッカートニーの後ろからダーク・ホースも追い上げて来ています。何より、A面の1曲目がカウントで始まるジョージ作の「TAXMAN」なのです。ソレは、1963年リリースのデビュー・アルバム「PLEASE PLEASE ME with Love Me Do and 12 other songs」の最初が「I SAW HER STANDING THERE」でカウントから始まっていたのを想起させて、正にこのアルバム「REVOLVER」から新たなビートルズが誕生する様な演出となっています。
A面の、1「TAXMAN」は、ジョージ作でジョージが歌っていますが、強烈なリード・ギターはポールが弾いています。2「ELEANOR RIGBY」は、ポール主導で書いたレノン=マッカートニー作でポールが歌っていますが、ポールのリード・ヴォーカルと、ジョンとジョージのコーラス以外は弦楽八重奏だけで、ビートルズは演奏していません。3「I'M ONLY SLEEPING」は、ジョンが主導で書いたレノン=マッカートニー作でジョンが歌っていますが、間奏はギターの逆回転です。4「LOVE YOU TO」は、ジョージ作でジョージが歌っていて、シタールを中心にしたインド音楽風の曲になっています。5「HERE, THERE AND EVERYWHERE」は、ポールが主導で書いたレノン=マッカートニー作でポールが歌う美しい傑作で、ポール自身も、ジョンもお気に入りの曲です。ポールは、ビーチ・ボーイズのアルバム「PET SOUNDS」から影響されたと云っています。6「YELLOW SUBMARINE」は、レノン=マッカートニーの合作で、リンゴが歌っていて、リンゴの代表曲となりました。7「SHE SAID SHE SAID」は、ジョンが主導で書いたレノン=マッカートニー作でジョンが歌っていて、この曲が個人的にはアルバム「REVOLVER」で最も好きなジョンの曲(ポールの曲で一番好きなのは「HERE, THERE AND EVERYWHERE」)です。ひっくり返してB面の、1「GOOD DAY SUNSHINE」は、ポールが主導で書いたレノン=マッカートニー作でポールが歌っていますが、コレはですね、ポール自身がラヴィン・スプーンフルの「DAYDREAM」を参考にしたと云っています。2「AND YOUR BIRD CAN SING」は、ジョンが主導で書いたレノン=マッカートニー作でジョンが歌っていて、この曲は初期ビートルズを感じさせる佳曲で、ジョンの声も以前と変わっていません。3「FOR NO ONE」は、ポールが主導で書いたレノン=マッカートニー作で、これも名曲ですなあ。4「DOCTOR ROBERT」は、ジョンが主導で書いたレノン=マッカートニー作で、ミドル部分はポールが手伝っている感じです。5「I WANT TO TELL YOU」は、ジョージ作でジョージが歌っていて、1991年の来日公演では驚きの1曲目でした。
6「GOT TO GET YOU INTO MY LIFE」は、ポールが主導で書いたレノン=マッカートニー作で、ポールが歌っていて、ブラス・ロックの先駆けです。そして、最後の、7「TOMORROW NEVER KNOWS」は、2025年の現在でも「衝撃作」であり続ける「問題作」で、ジョンが主導で書いたレノン=マッカートニー作で、ジョンが歌っています。アルバム「REVOLVER」のレコーディング・セッションは、この「TOMORROW NEVER KNOWS」から始まっているので、もう最初からライヴで再現する事など考えていなかったのでしょう。この曲は、英国オリジナル初回モノラル盤では別ミックスです。収録された捨て曲なしの全14曲は、1曲もビートルズとしてはライヴで披露しておらず、同時期のシングル「PAPERBACK WRITER」を披露しただけです。ポールはソロになって「ELEANOR RIGBY」、「HERE, THERE AND EVERYWHERE」、「GOOD DAY SUNSHINE」、「FOR NO ONE」、「GOT TO GET YOU INTO MY LIFE」と、自分が主導で書いた5曲を披露しているし、ジョージも「TAXMAN」と「I WANT TO TELL YOU」を披露してくれたし、リンゴは延々と「YELLOW SUBMARINE」をタコ踊りしながら歌いつづけていますけれど、1966年当時にはライヴ演奏は困難でした。アルバム「REVOLVER」は、ジョンの5曲とポールの5曲が代わる代わる収録されていて、ジョージの3曲と、リンゴが歌うレノン=マッカートニーの合作の1曲を抜いても、レノン=マッカートニーのバランスが取れているわけで、コレが最もまとまりがあるビートルズのアルバムです。そして、重要なのは、ビートルズはライヴを止める前に、このアルバム「REVOLVER」をレコーディングしていた事実なのです。つまり、ビートルズはまだツアーをやっている中で、ライヴでは再現不可能なアルバム「REVOLVER」を制作してしまったのです。それから、スカスカな米国キャピトル編集アルバム「REVOLVER」を聴くと、如何にジョンの3曲が重要であるかが分かります。レノン=マッカートニーが絶妙なバランスを保っていたアルバム「REVOLVER」を改変改悪してしまった米国キャピトルの罪は重いのです。
アルバム「REVOLVER」は、1987年4月30日に初CD化されて、それは英国オリジナル・ステレオ・ミックスでした。米国のファンは、21年もスカスカな全11曲入り「REVOLVER」を聴いていたわけで、全14曲入りのCDを聴いて驚いたでしょうなあ。そして、米国キャピトル編集盤「YESTERDAY AND TODAY」に先出しされた3曲は、全てが疑似ステレオとステレオとモノラルが英国盤とは別ミックスでした。1976年6月にリリースされた編集アルバム「ROCK'N'ROLL MUSIC」の米国盤では、「TAXMAN」と「GOT TO GET YOU INTO MY LIFE」の2曲が左右逆のステレオ・リミックスで収録されて、1977年にリリースされた編集アルバム「LOVE SONGS」には、「HERE, THERE AND EVERYWHERE」と「FOR NO ONE」が英国盤と米国盤では異なるステレオ・リミックスで収録されています。CDは、2009年9月9日にステレオ(箱とバラ売り)とモノラル(箱)がリマスターされています。そして、2022年10月28日に箱の「REVOLVER」がアップルからリリースされました。CD5枚組の内容は、CD1がアルバム「REVOLVER」の2022年ステレオ・リミックスで、CD2とCD3がアウトテイク集で、CD4がアルバム「REVOLVER」のオリジナル・モノ・マスターで、CD5は「PAPERBACK WRITER / RAIN」4曲入りのEP扱いで、些か内容がスカスカでした。2023年11月10日にアップルからリリースされたベスト・アルバム「THE BEATLES 1962-1966(赤盤)」の拡張盤には、同時期のシングル「PAPERBACK WRITER」と、アルバム「REVOLVER」から「ELEANOR RIGBY」、「YELLOW SUBMARINE」、「TAXMAN」、「GOT TO GET YOU INTO MY LIFE」、「I'M ONLY SLEEPING」、「HERE, THERE AND EVERYWHERE」、「TOMORROW NEVER KNOWS」の7曲が2022年ステレオ・リミックスで収録されました。オリジナルの「赤盤」には、アルバム「REVOLVER」から「ELEANOR RIGBY」と「YELLOW SUBMARINE」の2曲しか収録されていなかったので、5曲も追加された事となっていて、ソレは近年にアルバム「REVOLVER」の評価が上がっているからなのでしょう。クラウス・フォアマンによるアルバム・ジャケットも、内容に合った素晴らしい出来栄えです。
(小島イコ)
【関連する記事】
- 「ポールの道」#913「THE BEATLES BLACK VOX」
#222「P.. - 「ポールの道」#912「THE BEATLES BLACK VOX」
#221「S.. - 「ポールの道」#911「THE BEATLES BLACK VOX」
#220「M.. - 「ポールの道」#910「THE BEATLES BLACK VOX」
#219「P.. - 「ポールの道」#909「THE BEATLES BLACK VOX」
#218「P.. - 「ポールの道」#908「THE BEATLES BLACK VOX」
#217「P.. - 「ポールの道」#907「THE BEATLES BLACK VOX」
#216「L..

