
1964年のビートルズは、全米制覇を成し遂げて、3作目のアルバム「A HARD DAY'S NIGHT」が全英21週連続首位!で、4作目のアルバム「BEATLES FOR SALE」が全英21週連続首位!と合わせて全英42週連続首位!となっていました。1963年にはデビュー・アルバム「PLEASE PLEASE ME with Love Me Do and 12 other songs」が全英30週連続首位!で、2作目のアルバム「WITH THE BEATLES」が全英21週連続首位!で、合わせて全英51週連続首位!だったのですけれど、アルバム「WITH THE BEATLES」とアルバム「A HARD DAY'S NIGHT」の間には、ローリング・ストーンズのデビュー・アルバム「THE ROLLING STONES」が割り込んでいて、全英12週連続首位!となっていました。それで、ビートルズは1965年8月6日に5作目のアルバム「HELP!」を英国パーロフォンからリリースして全英11週連続首位!となるのですけれど、アルバム「BEATLES FOR SALE」とアルバム「HELP!」の間にも、ローリング・ストーンズの2作目のアルバム「THE ROLLING STONES NO.2」が合わせて10週首位!となっています。つまり、後発のローリング・ストーンズがビートルズのライバルとしてのし上がって来たのですけれど、実際のところは、ローリング・ストーンズはビートルズの友達バンドみたいな存在でした。メンバー同士の仲も良くて、お互いのレコードに客演してもいます。何しろ、デッカにローリング・ストーンズを紹介したのはジョージ・ハリスンだし、ローリング・ストーンズのマネジャーのアンドリュー・オールダムは、ビートルズのマネジャーであるブライアン・エプスタインの部下でした。アンドリュー・オールダムは野心家で、ブライアン・エプスタインがビートルズにメジャー・デビュー前の革ジャンに革のパンツでリーゼントと云う不良スタイルだったのを、お揃いのスーツ・スタイルに変えたのを、全く逆にしてローリング・ストーンズはボサボサの髪に服装もてんでバラバラの薄汚い恰好にさせて、ビートルズの逆のそのまた逆の不良スタイルにしたのです。
アンドリュー・オールダムは、単にマネジャーをやるだけではなく、R&Bのカバーばかり演奏していたローリング・ストーンズのミック・ジャガーとキース・リチャーズにレノン=マッカートニーの様に曲を書かせて、プロデュースもビートルズが音楽のプロであるサー・ジョージ・マーティンに任せたのとは違って、自分でやっています。アンドリュー・オールダムは、実際にローリング・ストーンズのレコーディング・セッションにも参加しているフィル・スペクターに憧れていて、バンドのマネジャーではなく、音楽プロデューサーになりたかったのです。さて、1965年のビートルズですけれど、世界規模になったツアーに加えて、1964年同様に映画の撮影をやっています。1965年4月9日にはシングル「TICKET TO RIDE / YES IT IS」をアルバムからの先行シングルと云うカタチで英国パーロフォンからリリースして、1965年7月23日にはシングル「HELP! / I'M DOWN」を、やはりアルバムからの先行シングルで英国パーロフォンからリリースしています。A面の「TICKET TO RIDE(涙の乗車券)」と「HELP!」はアルバムにも収録されますが、B面の「YES IT IS」と「I'M DOWN」はアルバム未収録曲です。「YES IT IS」はジョン・レノンが主導で書いたレノン=マッカートニー作品でジョンが歌っていますが、ジョン、ポール、ジョージによる3声コーラスが美しい楽曲です。「I'M DOWN」はポール・マッカートニーが主導で書いたレノン=マッカートニー作でポールが歌っていますが、リトル・リチャードのカバーでライヴの最後に演奏していた「LONG TALL SALLY」に代わるオリジナル曲を作ろうとポールが書いたのですけれど、些か「LONG TALL SALLY」に似過ぎではないでしょうか。少なくとも、後にジョンが主導で書いたレノン=マッカートニー作で、チャック・ベリーの「YOU CAN'T CATCH ME」の盗作だと云われた「COME TOGETHER」よりは、ずっと似ています。あくどい版権保持者だったなら、盗作で訴えられているレベルです。
英国オリジナル・アルバム「HELP!」の内容は、A面が、1「HELP!」、2「THE NIGHT BEFORE」、3「YOU'VE GOT TO HIDE YOUR LOVE AWAY」、4「I NEED YOU」、5「ANOTHER GIRL」、6「YOU'RE GOING TO LOSE THAT GIRL」、7「TICKET TO RIDE」で、B面が、1「ACT NATURALLY」、2「IT'S ONLY LOVE」、3「YOU LIKE ME TOO MUCH」、4「TELL ME WHAT YOU SEE」、5「I'VE JUST SEEN A FACE」、6「YESTERDAY」、7「DIZZY MISS LIZZY」の、全14曲です。大雑把に云えば、A面が映画「HELP!」用の7曲で、B面が映画には使われていない7曲です。ソレにシングルB面2曲と同セッションでレコーディングされて後にリリースされた「BAD BOY」を加えた全17曲中、レノン=マッカートニー作が12曲で、ジョン主導が6曲、ポール主導が6曲、ジョージ作が2曲、カバーが3曲です。リード・ヴォーカルは、ジョンが8曲、ポールが6曲、ジョージが2曲、リンゴが1曲です。ここに来て、遂にポールがジョンと肩を並べた感じがしますし、ジョージが2曲も書いているのにも注目ではありますけれど、内容はなかなか数と同じにはなっていません。ジョンの曲やカバーに関しては文句はありませんし、ジョージもまだ習作にすぎないのですけれど、兎に角「ポール・マッカートニーは二人居る説」を証明する様なアタリハズレの多さが目立つし、出しゃばりポールの面目躍如のレコーディングでもあるのです。1「HELP!」は同名映画の主題歌で、ジョンが主導で書いたレノン=マッカートニー作でジョンが歌っていて、ポールとジョージの後追いコーラス入りの、文句なしの名曲で名唱です。米国サントラ盤では、イントロに「なんちゃってジェイムズ・ボンドのテーマ」入りです。2「THE NIGHT BEFORE」はダメな方のポールが主導で書いたレノン=マッカートニー作で、ポールが歌って、ジョンとジョージがコーラスを入れています。3「YOU'VE GOT TO HIDE YOUR LOVE AWAY(悲しみはぶっとばせ)」は、ジョンが主導で書いたレノン=マッカートニー作で、ジョンが歌っているボブ・ディランの影響が強い曲です。4「I NEED YOU」は、ジョージ作でジョージが歌う可愛い曲です。
そして、5「ANOTHER GIRL」なんですけれど、ダメな方のポールが主導で書いたレノン=マッカートニー作でポールが歌って、ジョンとジョージがコーラスをしているのは良いとしても、オーバーダビングしたリード・ギターもポールで、わざわざソレを裏ジャケットにクレジットしているのです。6「YOU'RE GOING TO LOSE THAT GIRL(恋のアドバイス)」は、ジョンが主導で書いたレノン=マッカートニー作で、ジョンが歌ってポールとジョージが後追いコーラスをする初期のビートルズの完成形の様な名曲です。7「TICKET TO RIDE」は、ジョンが主導で書いたレノン=マッカートニー作で、ジョンが歌ってポールがハモっている傑作ですけれど、これもまた、わざわざリード・ギターもポールだとクレジットされていて、しかもドラムスのアレンジもポールで、リンゴ・スターにポールが教えて叩かせているのです。後の「ポール独裁レコーディング」が、既に始まっていたのでした。1967年にレコーディングに特化したバンドになったアルバム「SGT. PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND」の頃から、ポールはリンゴが帰った後に勝手にドラムスを追加で自ら叩いていて、リンゴはソレを知っていたので、随分と落ち込んだそうです。B面は、そのリンゴが歌う、1「ACT NATURALLY」からで、バック・オーウェンスのカバーです。この曲は、米国や日本では独自にシングル・カットされていて、A面がこの「ACT NATURALLY」で、B面が「YESTERDAY」でした。2「IT'S ONLY LOVE」は、ジョンが主導で書いたレノン=マッカートニー作で、ジョンが歌っています。良い曲なのですけれど、作者のジョンは「クズ曲」と云っていました。3「YOU LIKE ME TOO MUCH」は、ジョージ作でジョージが歌っていて、アルバムにジョージ作が2曲収録されたのはコレが最初です。この曲を中心にして、アルバム「HELP!」にはアコースティックな感じがあって、エレクトリック・ピアノの音が耳に残ります。と云うか、ダメな方のポールが主導で書いたレノン=マッカートニー作でポールが歌った、4「TELL ME WHAT YOU SEE」が「YOU LIKE ME TOO MUCH」と同じ様な曲なんですよ。
5「I'VE JUST SEEN A FACE(夢の人)」は、絶好調な方のポールが主導で書いたレノン=マッカートニー作で、ポールが歌っていて、6「YESTERDAY」は云わずと知れた絶好調な方のポールが主導で書いたレノン=マッカートニー作で、レコーディングもポールと弦楽四重奏だけでの傑作で、この2曲とシングルB面の「I'M DOWN」の合わせて3曲は、全て1965年6月14日にレコーディングされています。つまり、その日にポールは覚醒したのでしょうなあ。そうしてレコーディング記録を追ってみるとですね、ダメな方のポールの「THE NIGHT BEFORE」と「ANOTHER GIRL」と「TELL ME WHAT YOU SEE」は、全てが1965年2月中旬にレコーディングされているのです。故に、2月のダメな方のポールと、6月の絶好調な方のポールは、別人なのです。最後の、7「DIZZY MISS LIZZY」はラリー・ウィリアムズのカバーで、カバーの帝王・ジョン・レノンの絶唱で〆ていて、この「YESTERDAY」で終わらずに、ロックンロールで終わるところが良いわけですなあ。この「DIZZY MISS LIZZY」は1965年5月10日のレコーディングですが、同日に同じラリー・ウィリアムズのカバーである「BAD BOY」もレコーディングしています。そちらも当然ジョンが歌っていますが、1965年6月14日にリリースされた米国キャピトル編集アルバム「BEATLES Y」に先出しとなっていて、英国では1966年12月10日リリースのベスト・アルバム「A COLLECTION OF BEATLES OLDIES」まで未発表曲でした。この英国オリジナル・アルバム「HELP!」全14曲は、米国キャピトル編集アルバムではその「BEATLES Y」(「TELL ME WHAT YOU SEE」、「YOU LIKE ME TOO MUCH」、「DIZZY MISS LIZZY」の3曲)と、1965年8月13日リリースのサントラ盤「HELP!」(「HELP!」、「THE NIGHT BEFORE」、「YOU'VE GOT TO HIDE YOUR LOVE AWAY」、「I NEED YOU」、「ANOTHER GIRL」、「TICKET TO RIDE」、「YOU'RE GOING TO LOSE THAT GIRL」の7曲)と、1965年12月6日リリースの編集アルバム「RUBBER SOUL」(「I'VE JUST SEEN A FACE」、「IT'S ONLY LOVE」の2曲)と、1966年6月20日リリースの編集アルバム「YESTERDAY AND TODAY」(「YESTERDAY」、「ACT NATURALLY」の2曲)と、4作のアルバムに分けられて収録されました。普通に考えると、無茶苦茶な事をされていたわけです。
アルバム「HELP!」は、1987年4月30日に初CD化されました。ところが、ソレはサー・ジョージ・マーティンがステレオ・リミックスした新たなる音源だったのです。アルバム「HELP!」のオリジナル・ステレオ・ミックスは、ヴォーカルは中央なのですけれど、演奏が左右泣き別れとなっていて、サー・ジョージ・マーティンはソレが昔から気に入らなかったのです。それで、アナログ盤時代の1976年6月7日にリリースされた編集アルバム「ROCK'N'ROLL MUSIC」の米国キャピトル盤では、全28曲を新たに、一説にはノーギャラでステレオ・リミックスをしていて、このアルバム「HELP!」からも「DIZZY MISS LIZZY」と「THE NIGHT BEFORE」の2曲と、関連の「BAD BOY」と「I'M DOWN」の合計4曲を左右が逆で中央寄りのステレオ・リミックスで収録していました。更に、1977年10月21日にリリースされた編集アルバム「LOVE SONGS」でも、「YESTERDAY」、「I NEED YOU」、「TELL ME WHAT YOU SEE」、「IT'S ONLY LOVE」、「YOU'RE GOING TO LOSE THAT GIRL」、「YOU'VE GOT TO HIDE YOUR LOVE AWAY」の6曲が、英国盤と米国盤ではそれぞれ別のステレオ・リミックスで収録されています。CDはそのままに、22年間も放って置かれて、2006年4月11日には米国キャピトルのサントラ盤「HELP!」が先にリマスターされてステレオとモノラルの「2in1」でリリースされています。2009年9月9日にステレオ・サー・ジョージ・マーティン・リミックスとモノラル・ミックスがリマスターされましたが、モノラル・ミックス盤「HELP!」はオリジナル・ステレオ・ミックスとの「2in1」になっています。2023年11月10日にアップルからリリースされたベスト・アルバム「THE BEATLES 1962-1966(赤盤)」の拡張盤には、「TICKET TO RIDE」、「YESTERDAY」、「HELP!」、「YOU'VE GOT TO HIDE YOUR LOVE AWAY」の4曲が2023年ステレオ・リミックスで収録されました。アルバム「HELP!」のセッションでは、公式盤に収録された全17曲以外に、レノン=マッカートニー作でリンゴが歌う「IF YOU’VE GOT TROUBLE」と、ポール・マッカートニー史上最低最悪なクズ曲「THAT MEANS A LOT」もレコーディングされてボツになっています。ポールは、二人いるんですよ。
(小島イコ)
【関連する記事】
- 「ポールの道」#913「THE BEATLES BLACK VOX」
#222「P.. - 「ポールの道」#912「THE BEATLES BLACK VOX」
#221「S.. - 「ポールの道」#911「THE BEATLES BLACK VOX」
#220「M.. - 「ポールの道」#910「THE BEATLES BLACK VOX」
#219「P.. - 「ポールの道」#909「THE BEATLES BLACK VOX」
#218「P.. - 「ポールの道」#908「THE BEATLES BLACK VOX」
#217「P.. - 「ポールの道」#907「THE BEATLES BLACK VOX」
#216「L..

