
ビートルズは英国オリジナルで、1964年3月20日にシングル「CAN'T BUY ME LOVE / YOU CAN'T DO THAT」を、6月19日にEP「LONG TALL SALLY」4曲(「LONG TALL SALLY」、「I CALL YOUR NAME」、「SLOW DOWN」、「MATCHBOX」)入りを、7月10日にシングル「A HARD DAY'S NIGHT / THINGS WE SAID TODAY」と3作目のアルバム「A HARD DAY'S NIGHT」全13曲(「A HARD DAY'S NIGHT」、「I SHOULD HAVE KNOWN BETTER」、「IF I FELL」、「I'M HAPPY JUST TO DANCE WITH YOU」、「AND I LOVE HER」、「TELL ME WHY」、「CAN'T BUY ME LOVE」、「ANY TIME AT ALL」、「I'LL CRY INSTEAD」、「THINGS WE SAID TODAY」、「WHEN I GET HOME」、「YOU CAN'T DO THAT」、「I'LL BE BACK」)入りを、それぞれ英国パーロフォンからサー・ジョージ・マーティンのプロデュースでリリースしました。この1964年の前半だけで、新曲を17曲もリリースしています。そして、アルバム「A HARD DAY'S NIGHT」をリリースした1か月後の1964年8月11日から、早くも次のアルバムのレコーディング・セッションを開始しています。しかし、8月14日にレコーディングを行った後には、大規模なアメリカ・ツアーが行われたので、アルバムのレコーディング・セッションを再開出来たのは9月29日からで、9月30日、10月6日、10月8日、10月18日、10月26日と、他の仕事の合間に曲を書いてはレコーディングをしていて、クリスマス商戦に間に合わすにはギリギリのスケジュールとなっていました。それで、アルバムをリリースする前の1964年11月27日には、シングル「I FEEL FINE / SHE'S A WOMAN」と云う強力な2曲を英国パーロフォンからリリースするわけですけれど、例によってこの2曲は英国ではオリジナル・アルバムには未収録です。「I FEEL FINE」はジョン・レノンが主導で書いたレノン=マッカートニー作で、イントロがフィードバックで始まる斬新な曲で、B面の「SHE'S A WOMAN」は、ポール・マッカートニーが主導で書いたレノン=マッカートニー作で、どちらもライヴでも頻繁に披露されていきます。
その新曲2曲がシングルに回された為に、アルバムには新曲が14曲必要となりました。それで、1964年12月4日に何とか英国パーロフォンからリリース出来たのが、ビートルズの4作目の英国オリジナル・アルバム「BEATLES FOR SALE」です。タイトルは「ビートルズ売り出し中」と云う、身も蓋もないもので、流石のレノン=マッカートニーもそんなにホイホイとオリジナル曲を書けるわけではなかったので、オリジナルが8曲でカバーが6曲と云う、デビュー・アルバム「PLEASE PLEASE ME with Love Me Do and 12 other songs」と2作目のアルバム「WITH THE BEATLES」と同じ構成となっております。内容は、A面が、1「NO REPLY」、2「I'M A LOSER」、3「BABY'S IN BLACK」、4「ROCK AND ROLL MUSIC」、5「I'LL FOLLOW THE SUN」、6「MR. MOONLIGHT」、7「KANSAS CITY / HEY-HEY-HEY-HEY!」で、B面が、1「EIGHT DAYS A WEEK」、2「WORDS OF LOVE」、3「HONEY DON'T」、4「EVERY LITTLE THING」、5「I DON'T WANT TO SPOIL THE PARTY」、6「WHAT YOU'RE DOING」、7「EVERYBODY'S TRYING TO BE MY BABY」の、全14曲入りです。ビートルズのアルバムの中でも地味なアルバムとなっておりますけれど、日本ではアルバム全14曲中、なんと5枚10曲(「NO REPLY / EIGHT DAYS A WEEK」、「ROCK AND ROLL MUSIC / EVERY LITTLE THING」、「MR. MOONLIGHT / WHAT YOU'RE DOING」、「KANSAS CITY / HEY-HEY-HEY-HEY! / I'LL FOLLOW THE SUN」、「I DON'T WANT TO SPOIL THE PARTY / EVERYBODY'S TRYING TO BE MY BABY」)もシングル・カットされていて、人気があったのでしょう。1966年の来日公演のテレビ特番でパトカーに先導されてビートルズが乗った車が首都高を走る映像で流れた「MR. MOONLIGHT」や、来日公演の1曲目だった「ROCK AND ROLL MUSIC」の印象が強かったと、リアルタイム世代のファンの方々は云っていますけれど、このアルバムが日本で発売されたのは1965年3月15日で、1966年6月と7月の来日公演とはタイムラグがあります。それは兎も角として、1964年にビートルズは、英国オリジナルで33曲も新曲をリリースしていたわけです。
A面の、1「NO REPLY」は、トミー・クイックリーへの提供曲としてジョンが主導で書いたレノン=マッカートニー作でジョンが歌っていますが、時間がなくて自分たちのアルバムに入れたのでしょう。しかし、楽曲の出来栄えは良くて、イントロなしでA面1曲目が始まると云う、アルバム「WITH THE BEATLES」の「IT WON'T BE LONG」と同じ手法を使っています。2「I'M A LOSER」もジョンが主導で書いたレノン=マッカートニー作で、コレはジョンが初めて内省的になって心の内を吐露した重要な楽曲と云われています。1964年と云えば、ビートルズが全米制覇を成し遂げた年ですから、そのビートルズのリーダーが「僕は負け犬」と歌っているのは衝撃的です。3「BABY'S IN BLACK」は、ジョンとポールの合作で二人で歌っていますが、コレは夭折したビートルズのメンバーだったスチュワート・サトクリフの恋人で、写真家のアストリッド・キルヒヘルを歌った曲だと云われています。4「ROCK AND ROLL MUSIC」はチャック・ベリーのカバーで、ジョンが歌っています。5「I'LL FOLLOW THE SUN」はポールが主導で書いたレノン=マッカートニー作でポールが歌ってサビでジョンがハモっていますが、この曲は書き下ろしではなく、ポールが16歳の頃に書いた曲の蔵出しです。6「MR. MOONLIGHT」はドクター・フィールグッド&インターンズのカバーで、ジョンが歌っています。7「KANSAS CITY / HEY-HEY-HEY-HEY!」は、リトル・ウィリー・リトルフィールドのオリジナル「KANSAS CITY」に、リトル・リチャードが自作の「HEY-HEY-HEY-HEY!」を繋げたヴァージョンのカバーで、ポールが歌って、ジョンとジョージの掛け合いが入っています。ひっくり返してB面の、1「EIGHT DAYS A WEEK」は、レノン=マッカートニーの共作で二人で歌っていますが、イントロがフェイドインして来るアレンジはレコードで聴かないと効果が出ません。2「WORDS OF LOVE」は、バディ・ホリーのカバーで、ジョンとポールが歌っています。3「HONEY DON'T」は、カール・パーキンスのカバーで、リンゴにも1曲の曲ですが、元々はジョンが歌っていて、1994年リリースのスタジオ・ライヴ・アルバム「LIVE AT THE BBC」で聴けます。
4「EVERY LITTLE THING」は、ポールが主導で書いたレノン=マッカートニー作で、ジョンとポールが二人で歌っています。日本の同名音楽ユニット「ELT」こと「EVERY LITTLE THING」は、この曲から取られています。英国ではこのアルバムからのシングル・カット曲は1曲もありませんが、前述の通り日本では5枚10曲もシングル・カットされていて、米国キャピトルでも独自にこの「EVERY LITTLE THING」をシングル・カットして全米首位!となったので、ベスト・アルバム「THE BEATLES 1962-1966(赤盤)」や「1」に収録されています。5「I DON'T WANT TO SPOIL THE PARTY(パーティーはそのままに)」は、ジョンが主導で書いたレノン=マッカートニー作で、ジョンが歌っています。このアルバム辺りから、ジョンの歌にはより哀愁が漂っています。6「WHAT YOU'RE DOING」は、ダメな方のポールが主導で書いたレノン=マッカートニー作で、ダメな方のポールが歌っています。こんな駄作の後に入っているので、7「EVERYBODY'S TRYING TO BE MY BABY(みんないい娘)」のジョージが目立っています。「EVERYBODY'S TRYING TO BE MY BABY」は、カール・パーキンスのカバーで、同じアルバムに2曲もカール・パーキンスのカバーが収録されています。オリジナルの8曲は、ジョンが共作も含めて5曲、ポールが共作も含めて5曲で、リード・ヴォーカルは、ジョンが9曲、ポールが8曲、ジョージが1曲、リンゴが1曲です。ジョンとポールが合作したり二人で歌っている曲が多いのも、オリジナルが8曲と少なくなったのも、カバー曲は昔からライヴで披露していた曲をチャッチャと演奏しているのも、多忙で曲作りもレコーディング・セッションもやっている時間がなかったからだと云われています。ジャケット写真の疲れ切った様な4人の顔にもソレは表れていて、ビートルズとしては、とても呑気に「ビートルズ売り出し中」なんて云ってはいられなかったのでしょうなあ。そんなハードなレコーディングだったのに、ジョンが熱唱するカバー曲「LEAVE MY KITTEN ALONE」は平気でボツにしています。
アルバム「BEATLES FOR SALE」は、1987年2月26日に初CD化されていますが、同日発売だったアルバム「PLEASE PLEASE ME with Love Me Do and 12 other songs」と、アルバム「WITH THE BEATLES」と、アルバム「A HARD DAY'S NIGHT」と合わせて4作は、サー・ジョージ・マーティンの意向でモノラル・ミックスでのリリースでした。ソレはいいんですけれど、初期4作がモノラル・ミックスで全世界統一規格化されてしまったのです。それで、22年間も放って置かれたので、ステレオ・ミックスはパイレート盤やブートレグでしか聴けない状態となりました。2009年9月9日にステレオ・ミックスとモノラル・ミックスがリマスターされたのですけれど、その間の2004年と2006年に米国キャピトル水増し編集盤が先にステレオ・ミックスとモノラル・ミックスの「2in1」でCD化されちゃったりもしました。CD化はされていませんが、1976年6月7日にリリースされた編集アルバム「ROCK'N'ROLL MUSIC」の米国盤は、サー・ジョージ・マーティンがステレオ・リミックスしていて、このアルバム「BEATLES FOR SALE」からは「ROCK AND ROLL MUSIC」と「KANSAS CITY / HEY-HEY-HEY-HEY!」と「EVERYBODY'S TRYING TO BE MY BABY」の3曲が左右が逆で中央寄りのステレオ・リミックスで収録されています。この編集アルバム「ROCK'N'ROLL MUSIC」は、ベスト・アルバム「THE BEATLES 1962-1966(赤盤)」と「THE BEATLES 1967-1970(青盤)」のオリジナル仕様全54曲とは全28曲中4曲しかダブリがなく、全曲が別ステレオ・リミックスなので、CD化しても良かったと思いますよ。編集盤「PAST MASTERS」なんかよりも、コンセプトもあって名編集盤なんですよ。2023年の「赤盤」の拡張盤では、このアルバム「BEATLES FOR SALE」からは新たに選曲された曲はありませんが、元々オリジナル仕様盤に入っていた「EIGHT DAYS A WEEK」と、同時期のシングル「I FEEL FINE」は、2023年ステレオ・リミックスで収録されています。
(小島イコ)
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