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2025年10月31日

「ポールの道」#897「THE BEATLES BLACK VOX」
#206「A HARD DAY'S NIGHT」

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1963年3月22日に英国パーロフォンからリリースしたデビュー・アルバム「PLEASE PLEASE ME with Love Me Do and 12 other songs」が30週連続全英首位!となり、それを蹴落とした1963年11月22日に英国パーロフォンからリリースしたセカンド・アルバム「WITH THE BEATLES」が21週連続全英首位!となり、合わせて51週連続全英首位!となっていたビートルズですが、それを打ち破ったのはローリング・ストーンズが1964年4月12日にデッカからリリースしたデビュー・アルバム「THE ROLLING STONES」でした。そして、ローリング・ストーンズのデビュー・アルバムは12週連続全英首位!となり、それを蹴落として全英首位!となったのが、1964年7月10日に英国パーロフォンからリリースされたビートルズの3作目のアルバム「A HARD DAY'S NIGHT」です。アルバム「A HARD DAY'S NIGHT」は21週連続全英首位!となり、それを蹴落として全英首位!となるのが、1964年12月4日に英国パーロフォンからリリースされるビートルズの4作目のアルバム「BEATLES FOR SALE」です。ビートルズのアルバム「WITH THE BEATLES」と「A HARD DAY'S NIGHT」の間にローリング・ストーンズのデビュー・アルバムが割り込んでいるので、英国ではこの辺からローリング・ストーンズがビートルズのライバルとされているのですけれど、以前から書いている通り、ローリング・ストーンズをデッカに紹介したのはビートルズの最年少メンバーであるジョージ・ハリスンです。ローリング・ストーンズの初代マネジャーのアンドリュー・オールダムは、元々はビートルズのマネジャーであるブライアン・エプスタインの下で働いていて、自分もブライアン・エプスタインの様にマネジャーになりたかったのです。それで、ジョン・レノンとポール・マッカートニーを連れて来て、ローリング・ストーンズのメンバーの目の前でジョンとポールが「I WANNA BE YOUR MAN」をスラスラと書いて、ミック・ジャガーとキース・リチャーズにも自作曲を作る様に仕向けたわけですなあ。

2作目のアルバム「WITH THE BEATLES」のレコーディング・セッションの最終段階で、ビートルズはそれまでの2トラックではなく、4トラックでレコーディングする事となりました。しかし4トラックを導入してレコーディングしたのは1963年10月17日の「YOU REALLY GOT A HOLD ON ME」とシングル「I WANT TO HOLD YOUR HAND / THIS BOY」のみなので、アルバム「WITH THE BEATLES」のステレオ盤は「MONEY(THAT'S WHAT I WANT)」以外は左右泣き別れステレオ・ミックスになっています。1964年3月20日にはシングル「CAN'T BUY ME LOVE / YOU CAN'T DO THAT」を英国パーロフォンからリリースして、1964年6月19日には4曲入り(「LONG TALL SALLY」、「I CALL YOUR NAME」、「SLOW DOWN」、「MATCHBOX」)のEP「LONG TALL SALLY」を英国パーロフォンからリリースして、1964年7月10日にはシングル「A HARD DAY'S NIGHT / THINGS WE SAID TODAY」と3作目のアルバム「A HARD DAY'S NIGHT」を英国パーロフォンからリリースしました。アルバム「A HARD DAY'S NIGHT」の内容は、A面が、1「A HARD DAY'S NIGHT」、2「I SHOULD HAVE KNOWN BETTER」、3「IF I FELL」、4「I'M HAPPY JUST TO DANCE WITH YOU」、5「AND I LOVE HER」、6「TELL ME WHY」、7「CAN'T BUY ME LOVE」で、B面が、1「ANY TIME AT ALL」、2「I'LL CRY INSTEAD」、3「THINGS WE SAID TODAY」、4「WHEN I GET HOME」、5「YOU CAN'T DO THAT」、6「I'LL BE BACK」の、全13曲入りです。このアルバムに加えて、前述のEP「LONG TALL SALLY」の4曲と、ドイツ語版の「KOMM, GIB MIR DEINE HAND(I WANT TO HOLD YOUR HAND)」と「SIE LIEBT DICH(SHE LOVES YOU)」の2曲と、合わせて19曲が「A HARD DAY'S NIGHT」のレコーディング・セッション音源です。これらは、1964年2月25日、27日、3月1日と、同年6月1日、2日と、やはり多忙な中、僅か5日間でレコーディングされました。

このアルバム「A HARD DAY'S NIGHT」は、1964年公開のビートルズ初主演映画「A HARD DAY'S NIGHT」のサントラ盤ともなっていて、英国盤ではA面が映画で使われた楽曲で、B面が映画用以外の楽曲と、ザックリと云えば分かれています。米国では映画を配給したユナイテッド・アーティスツから純然たるサントラ盤(ビートルズが8曲に、サー・ジョージ・マーティンによるインストゥルメンタル4曲)として出ていて、全米12週連続首位!となっています。ちなみに、同時期の1964年5月30日にロンドンからリリースされたローリング・ストーンズの米国でのデビュー・アルバム「ENGLAND'S NEWEST HIT MAKERS THE ROLLING STONES」は全米最高11位です。アルバム「A HARD DAY'S NIGHT」は、ビートルズのアルバムで唯一の全13曲が「レノン=マッカートニー作」のオリジナルで固められていて、既発シングル4曲(「CAN'T BUY ME LOVE / YOU CAN'T DO THAT」、「A HARD DAY'S NIGHT / THINGS WE SAID TODAY」)も収録されていますが、ソレは映画のサントラの主題歌と挿入歌なので外せなかったのでしょう。EP「LONG TALL SALLY」の4曲はアルバム未収録なので、ソレをアルバムに回せば全てが新曲でもいけたのです。そうはせずに、全てを「レノン=マッカートニー作」にしたのは、全曲オリジナルにしようとした固い意志が感じられます。その全13曲なのですけれど、ジョンが主導で書いたレノン=マッカートニー作が10曲で、ポールが主導で書いたレノン=マッカートニー作が3曲と云う、アンバランスな事になっています。A面だと、ジョンとポールがハモっているジョン作の「IF I FELL」と、ポールが歌う「AND I LOVE HER」や「CAN'T BUY ME LOVE」があるし、ジョン作でジョージが歌う「I'M HAPPY JUST TO DANCE WITH YOU」もあるのでバランスが取れていますけれど、B面の6曲は「THINGS WE SAID TODAY」以外の5曲がジョン作でジョンが歌っていて、独壇場となっています。EP「LONG TALL SALLY」の4曲では、リンゴ・スターへの1曲が回されているので、このアルバムにはリンゴの寝ぼけた歌がないので、流れが止まりません。

1「A HARD DAY'S NIGHT」は同名映画の主題歌で、不協和音のイントロから始まるジョンの曲です。ミドル部分が高いのでポールが歌っているので共作とも云われていますけれど、ソレを云ったら「AND I LOVE HER」のミドル部分はジョンが書いたとなるのです。2「I SHOULD HAVE KNOWN BETTER」は「恋する二人」の邦題でもお馴染みのジョン作でジョンが歌っていて、この曲はエヴァリー・ブラザーズの「CATHY'S CLOWN」と最初の部分のコード進行が同じだと、大瀧師匠に教えてもらいました。映画だとジョンとポールが二人で歌っているのに音声はジョンだけと云う不思議な絵になっています。3「IF I FELL(恋に落ちたら)」は全編でジョンとポールが歌っているものの、書いたのはジョンです。4「I'M HAPPY JUST TO DANCE WITH YOU(すてきなダンス)」はジョージが歌っていますが、書いたのはジョンです。5「AND I LOVE HER」は、ポールが主導で書いたレノン=マッカートニー作の傑作でポールが歌っていますが、ミドル部分はジョンが書いたのでしょう。6「TELL ME WHY」はジョンが書いて歌っていて、一説にはコーラスもジョンがひとりで歌っているらしいのです。7「CAN'T BUY ME LOVE」はポール作でポールが歌っていて、名曲ですが、どうしても「東京ビートルズ」の怪演が頭をよぎります。ひっくり返してB面は、前述の通りジョンの一人舞台で、1「ANY TIME AT ALL」の高い部分をポールが一声入れているだけで、他にはポールの出番は、3「THINGS WE SAID TODAY(今日の誓い)」だけです。2「I'LL CRY INSTEAD(僕が泣く)」と、4「WHEN I GET HOME(家に帰れば)」と、5「YOU CAN'T DO THAT」と、6「I'LL BE BACK」の合わせて5曲は、全てジョンが書いて歌っています。その結果、アルバム「A HARD DAY'S NIGHT」では、ジョン作が10曲で、ポール作が3曲で、リード・ヴォーカルは、ジョンが10曲、ポールが4曲、ジョージが1曲となっています。

同時期のEP「LONG TALL SALLY」の4曲は、3曲がカバーで、「I CALL YOUR NAME」はジョン作(ビリー・J・クレイマー・ウィズ・ザ・ダコタスへの提供曲のセルフ・カバー)で、その「A HARD DAY'S NIGHT」絡みの17曲中、ジョン作が11曲、ポール作が3曲、カバーが3曲で、リード・ヴォーカルは、ジョンが12曲、ポールが5曲、ジョージが1曲、リンゴが1曲です。最早「ジョン・レノン&ザ・ビートルズ」状態となっていたのが、1964年のビートルズでした。アルバム「A HARD DAY'S NIGHT」は、1987年2月26日に初CD化されて、その時はモノラル・ミックスでした。2009年9月9日にリマスターされたCDではステレオ・ミックスがレギュラー盤となり、モノラル・ミックスは箱「THE BEATLES IN MONO」に収録されました。例外として、1976年6月7日にリリースされた編集アルバム「ROCK'N'ROLL MUSIC」の米国盤には、「YOU CAN'T DO THAT」と「ANY TIME AT ALL」の2曲(EP「LONG TALL SALLY」からは「I CALL YOUR NAME」と「LONG TALL SALLY」と「SLOW DOWN」と「MATCHBOX」の全4曲)が、サー・ジョージ・マーティンによる左右が逆で中央寄りのステレオ・リミックスで収録されています。このアルバムからは4トラック・レコーディングなので、元々ステレオは左右泣き別れではなく、ヴォーカルが中央になっています。2014年1月21日リリースの箱「THE U.S. ALBUMS」には米国ユナイテッド・アーティスツ盤が初CD化されて収録されましたが、中味は2009年リマスター音源に差し替えられています。2023年11月10日にリリースされたベスト・アルバム「THE BEATLES 1962-1966(「赤盤」)」拡張盤には、「CAN'T BUY ME LOVE」と「YOU CAN'T DO THAT」と「A HARD DAY'S NIGHT」と「AND I LOVE HER」の4曲が2023年ステレオ・リミックスで収録されていて、「YOU CAN'T DO THAT」はオリジナルの「赤盤」には未収録で、この時に追加収録された12曲のひとつです。それにしてもこのアルバム「A HARD DAY'S NIGHT」でのジョン・レノンは、後のソロ・アルバム「JOHN LENNON / PLASTIC ONO BAND(ジョンの魂)」や「WALLS AND BRIDGES」などと比べても遜色がなく、ジョン・レノンの最高傑作と云ってもよろしいでしょう。

(小島イコ)

posted by 栗 at 23:00| FAB4 | 更新情報をチェックする