
1963年3月22日に英国でのデビュー・アルバム「PLEASE PLEASE ME with Love Me Do and 12 other songs」をリリースしたビートルズですが、それは既発シングル4曲(「LOVE ME DO / P.S. I LOVE YOU」と「PLEASE PLEASE ME / ASK ME WHY」)以外の10曲を1963年2月11日にたったの1日でレコーディングしてしまった、やっつけ仕事でした。それでもハンブルクで箱バンをやっていたビートルズの演奏能力は高く、スタジオ・ライヴに近い作品となっていて、全英チャートで30週連続首位!となっています。ビートルズは1963年3月5日には、早くも3作目のシングル「FROM ME TO YOU / THANK YOU GIRL」をレコーディングしていて、1963年4月11日には英国パーロフォンからリリースして、文句なしの全英首位!となります。そして、1963年7月1日には4作目のシングル「SHE LOVES YOU / I'LL GET YOU」をレコーディングして、1963年8月23日には英国パーロフォンからリリースして、全英首位!どころか英国のシングル売り上げの新記録を打ち立てました。そして、1963年11月22日には2作目のアルバム「WITH THE BEATLES」を英国パーロフォンからリリースして、30週もずっと首位!に居座っていたビートルズのデビュー・アルバム「PLEASE PLEASE ME with Love Me Do and 12 other songs」を自ら蹴落として首位!となり、21週連続で首位!となりました。アルバム「WITH THE BEATLES」をリリースしたばかりの1963年11月29日(レコーディングは1963年10月17日)には、5作目のシングル「I WANT TO HOLD YOUR HAND / THIS BOY」を英国パーロフォンからリリースして、当然の如く全英首位!を獲得して、この「I WANT TO HOLD YOUR HAND」は翌1964年に全米首位!となり、ビートルズは全米制覇を成し遂げるのですけれど、それはつまり、全世界制覇を成し遂げた事となります。
驚くべきなのは1963年の英国でのリリース状況で、シングル4作とアルバム2作も1年でリリースしているのです。しかも、2作目のシングル「PLEASE PLEASE ME / ASK ME WHY」はデビュー・アルバム「PLEASE PLEASE ME with Love Me Do and 12 other songs」にも収録したのですが、3作目のシングル「FROM ME TO YOU / THANK YOU GIRL」と、4作目のシングル「SHE LOVES YOU / I'LL GET YOU」と、5作目のシングル「I WANT TO HOLD YOUR HAND / THIS BOY」の6曲は、アルバム未収録なのです。つまり、1963年だけで英国でのビートルズは32曲も新曲を発表していたわけですよ。レコード会社の契約でそうなっていたのでしょうけれど、1年でシングル4作とアルバム2作なんて、現在の日本では坂道シリーズみたいなハイペースです。いや、例えば「櫻坂46」を例にすると、今年(2025年)は新曲7曲入りのシングルが3作に、アルバムが1作で、アルバムでの新曲は「Addiction」だけ(他はリミックス音源などの既発曲)で新曲は22曲なので、1963年のビートルズの恐ろしさがお分かり頂けるでしょうか。坂道シリーズにはガッツリと制作スタッフが居るわけですけれど、ビートルズの場合は作詞・作曲・編曲も歌も演奏も全てが自力なのです。いやいや、坂道シリーズはライヴの円盤もあるだろうと思われるでしょうけれど、1963年のビートルズはツアーもガンガンやっていて、もしもその時代にBDやDVDがあったならば、それこそ鬼の様にライヴの円盤もリリースしていたでしょう。と云うわけで、1963年11月22日にビートルズは2作目のアルバム「WITH THE BEATLES」を英国パーロフォンからリリースしたわけです。内容は、A面が、1「IT WON'T BE LONG」、2「ALL I'VE GOT TO DO」、3「ALL MY LOVING」、4「DON'T BOTHER ME」、5「LITTLE CHILD」、6「TILL THERE WAS YOU」、7「PLEASE MISTER POSTMAN」で、B面が、1「ROLL OVER BEETHOVEN」、2「HOLD ME TIGHT」、3「YOU REALLY GOT A HOLD ON ME」、4「I WANNA BE YOUR MAN」、5「DEVIL IN HER HEART」、6「NOT A SECOND TIME」、7「MONEY(THAT'S WHAT I WANT)」の、全14曲入りです。
ざっと曲目を見て頂いてもお分かりの通り、何と、この2作目のアルバムには、同時期の既発シングル6曲は収録されていません。それはどう云う事なのかと云うと、「FROM ME TO YOU」も「SHE LOVES YOU」も「I WANT TO HOLD YOUR HAND」も、シングルは全英首位!の大ヒット曲なのに、アルバムには未収録なのです。こんな芸当は、流石の乃木坂46でもやっていません。デビュー・アルバム「PLEASE PLEASE ME with Love Me Do and 12 other songs」は既発シングル4曲を入れていたし、他の10曲はたったの1日でレコーディングされていましたが、売れると分かったので2作目のアルバム「WITH THE BEATLES」では、1963年7月から10月にかけてレコーディングが行われています。しかしながら、当時のビートルズは売れっ子で、ツアーやラジオやテレビに引っ張りだこだったので、実際には7日しか本格的なレコーディングは行われていません。オリジナルが8曲でカバーが6曲と云う構成も、レコーディングにそれ程には時間を掛けられなかった事を感じさせます。オリジナル8曲中1曲がジョージ・ハリスンの処女作「DON'T BOTHER ME」であるのも、新たな挑戦ではありますが、やはり大ヒット曲を入れる事もなく「SHE LOVES YOU with From Me To You and 12 other songs」なんて云う事になっていないのが良いのです。A面の、1「IT WON'T BE LONG」は、ジョンが主導で書いたレノン=マッカートニー作品でジョンが歌っていますが、レコード盤に針を落としたらイントロなしでこの曲が始まるので掴みはオッケーです。2「ALL I'VE GOT TO DO」も、ジョンが主導で書いたレノン=マッカートニー作品でジョンが歌っていて、この哀愁がある歌いっぷりは本当にレコーディング当時は若干22歳だった歌い手によるものなのでしょうか。3「ALL MY LOVING」は、良い方のポールが主導で書いて歌ったレノン=マッカートニー作品の文句の付け所がない傑作で、コレもイントロなしで、ジョンの三連ギターもスゴ技ではありますけれど、ポールの下降進行ベースを弾きながら歌う荒技もスゴイのです。
個人的にはベースで最初にコピーしたのが「ALL MY LOVING」だったのですけれど、ベースは弾ける様になったものの、弾きながら歌えないんですよ。ウイングスの「SILLY LOVE SONGS」も同様で、ベースは弾ける様になったのですけれど、弾きながら歌えないんですよ。ソレを軽々と弾きながら歌うポールは凄いんだなあ、と子ども心に思ったものです。4「DON'T BOTHER ME」は、曲を書いたジョージ自身が黒歴史化している駄作です。5「LITTLE CHILD」は、リンゴ・スター用にレノン=マッカートニーが共作した駄曲ですけれど、リンゴには別の曲が決まったのでジョンが歌っています。6「TILL THERE WAS YOU」は、ミュージカル・ナンバーのカバーで、ポールが歌っていますが、参考にしたのが女性歌手のペギー・リーが歌ったヴァージョンです。ビートルズはガールズ・グループのカバーだけではなく、女性歌手のカバーまでやっていたのです。この曲の美しいけれど複雑なコード進行を簡単にすると、1968年11月22日にリリースされるアルバム「THE BEATLES」に収録された「I WILL」になります。7「PLEASE MISTER POSTMAN」は、1961年のガールズ・グループのマーヴェレッツ(全米首位!)のカバーで、後に1974年にはカーペンターズもカバー(全米首位!)しているものの、このジョンが歌うヴァージョンも傑作カバーのひとつです。これまたガールズ・グループのカバーですけれど、1995年にはスタジオ・ライヴ・アルバム「LIVE AT BBC」からのシングル・カットでビートルズ盤がリリースされています。日本では独自に1964年にシングル・カットされていて、洋楽チャート7位まで上がっているのでビートルズ盤も有名です。ひっくり返してB面の1「ROLL OVER BEETHOVEN」は、チャック・ベリーのカバーで、元々はジョンが歌っていたのですが、レコードではジョージに譲っています。ジョージは1991年12月の来日公演で、この曲をアンコールの最後に披露しています。2「HOLD ME TIGHT」は、ポールが主導で書いたレノン=マッカートニー作品でポールが歌っていて、コレはダメな方のポールが書いた駄作ですけれど、後にフィル・スペクターを経過して大瀧師匠が「白い港」と云う傑作にしています。
3「YOU REALLY GOT A HOLD ON ME」は、スモーキー・ロビンソンが書いて歌ったミラクルズのカバーで、スモーキーを敬愛するジョンとジョージがデュエットしています。ジョンとジョージが二人でリード・ヴォーカルを担当したのは、この曲だけです。映画「LET IT BE」では1969年1月のヴァージョンが観れますが、緊張感がないダラダラなリハーサルで名曲が台無しです。4「I WANNA BE YOUR MAN」は、レノン=マッカートニー作でリンゴが歌っているものの、元々はローリング・ストーンズのシングル用にミック・ジャガーやキース・リチャーズたちの目の前でスラスラと書いてしまった曲です。ソレを、リンゴに歌わせたのですから、レノン=マッカートニーは鬼ですわなあ。ローリング・ストーンズのヴァージョンは結構レアで、シングルのみでアルバム未収録曲なので、CD3枚組のベスト・アルバム「SINGLES COLLECTION THE LONDON YEARS」などでしか聴けません。5「DEVIL IN HER HEART」は、ドネイズと云うマイナーなガールズ・グループのシングルB面曲のカバーで、ジョージが歌っていて、ジョンとポールが掛け合いでコーラスをやっているのですけれど、こんな曲までカバーしているビートルズは、かなりマニアックなガールズ・グループのオタクですわなあ。現在の日本で云うならば、有名なバンドが地下アイドルのカップリング曲をカバーしている様なものです。6「NOT A SECOND TIME」は、ジョンが主導で書いたレノン=マッカートニー作品でジョンが歌っていて、コレは文句なしの隠れた名曲です。7「MONEY(THAT'S WHAT I WANT)」は、バレット・ストロングのカバーでジョンが絶唱していて、「PLEASE MISTER POSTMAN」と云い、この曲と云い、ビートルズはかなりモータウンを意識していたと分かります。「MONEY(THAT'S WHAT I WANT)」は、ローリング・ストーンズも同時期にカバーしているのですが、これまたEPのみの収録なので、編集盤や復刻盤でしか聴けないレア音源です。アルバムの構成は、デビュー・アルバム「PLEASE PLEASE ME with Love Me Do and 12 other songs」と同じで、オリジナル8曲にカバーが6曲の全14曲入りですが、ジョン主導で書いたのが3曲、ポール主導で書いたのが2曲、二人の合作が2曲、ジョージが1曲となっています。
リード・ヴォーカルは、ジョンが7曲、ポールが3曲、ジョージが3曲、リンゴが1曲で、相変わらずジョンが圧倒していますが、ポールは必殺の「ALL MY LOVING」と名カバーの「TILL THERE WAS YOU」があるものの、もう1曲が最低な「HOLD ME TIGHT」なので、プラスマイナス1曲みたいな感じです。そこにジョージが処女作「DON'T BOTHER ME」はご愛嬌としても、B面1曲目の「ROLL OVER BEETHOVEN」とマニアックな「DEVIL IN HER HEART」でポールよりも目立っています。このアルバムは、1987年2月26日にモノラル・ミックスで初CD化されて、22年間もそのまんまで、2009年9月9日にステレオ・ミックス(レギュラー盤と箱)とモノラル・ミックス(一応限定の箱)でリマスターされました。「ALL MY LOVING」は例外で、1993年9月20日リリースのベスト・アルバム「THE BEATLES 1962-1966(赤盤)」でステレオ・ミックスが収録されていました。2009年のリマスター盤でレギュラー盤となったステレオ・ミックスは、所謂ひとつの「左右泣き別れミックス」で、基本的に左が演奏で右がヴォーカルです。おそらく、サー・ジョージ・マーティンは、この左右泣き別れステレオ・ミックスが気に入っていなくて、レコーディング当時は2トラック・レコーディングだったから仕方なかったわけですけれど、初CD化の際にモノラル・ミックスにしたのでしょうなあ。1976年6月リリースの編集アルバム「ROCK'N'ROLL MUSIC」の米国盤では、サー・ジョージ・マーティンがステレオ・リミックスしているので、このアルバムからの「I WANNA BE YOUR MAN」と「MONEY(THAT'S WHAT I WANT)」と「ROLL OVER BEETHOVEN」が左右逆で中央寄りになっていました。編集アルバム「ROCK'N'ROLL MUSIC」のサー・ジョージ・マーティンによるステレオ・リミックスは、全28曲が全て公式盤とは違っているので、リマスターしてCD化しても良いと思いますよ。2023年の「赤盤」の拡張盤では、「ALL MY LOVING」と「ROLL OVER BEETHOVEN」と「YOU REALLY GOT A HOLD ON ME」の3曲が「2023年ステレオ・リミックス」で収録されています。
(小島イコ)
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