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2025年10月13日

「ポールの道」#879「THE BEATLES BLACK VOX」
#188「AFTER THE BEATLES ANTHOLOGY GEORGE HARRISON」AGAIN

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ビートルズが解散状態になった1970年から1973年にかけて、ジョージ・ハリスンは「ビートルズが解散して最も得をした男」と称されていました。それは、いきなり3枚組のアルバム「ALL THINGS MUST PASS」を1970年11月にリリースして、全英首位!・全米首位!となり、シングル・カットした「MY SWEET LORD」も全英首位!・全米首位!となり、翌1971年8月1日には「バングラデシュ・コンサート」を主宰して、同年12月にリリースしたライヴ・アルバムも全英首位!・全米2位となり、グラミー賞を獲得して、1973年5月にはアルバム「LIVING IN THE MATERIAL WORLD」をリリースして全英2位・全米首位!となり、シングル・カットした「GIVE ME LOVE(GIVE ME PEACE ON EARTH)」も全英8位・全米首位!と大ヒットさせたからです。しかしながら、その後は失速して、ファン以外には「あの人は今」状態になっていた1987年11月リリースのアルバム「CLOUD NINE」が全英10位・全米8位となり、シングル・カットした「GOT MY MIND SET ON YOU」が全英2位・全米首位!となり大復活したのです。アルバム「ALL THINGS MUST PASS」は、ビートルズ時代に書いていながらレノン=マッカートニー作品に阻まれてビートルズとしては採用してもらえなかった楽曲を中心にしている(ジョージが「THE ART OF DYING」は1966年リリースのアルバム「REVOLVER」の頃に書いたと云っている)ので、5年分位のストックがありました。大復活したアルバム「CLOUD NINE」も、その前作で1982年10月にリリースしたアルバム「GONE TROPPO」から5年も間を開けて制作されているのです。つまり、ジョージはそれだけのストックがあれば、万人が認めるアルバムを作る事が出来るわけです。さて、事実上はビートルズ解散後の4人のレア・トラックを集めた「SUPERSTOCK」から2021年にリリースされた「AFTER THE BEATLES ANTHOLOGY」の、今回はジョージ・ハリスン編です。

内容は、CD1が、1「MY SWEET LORD」、2「WHAT IS LIFE」、3「LET IT ROLL(BALLAD OF SIR FRANKIE CRISP)」、4「APPLE SCRUFFS」、5「AWAITING ON YOU ALL」、6「THE ART OF DYING」、7「IT DON'T COME EASY」、8「NOWHERE TO GO」、9「GET BACK」、10「YOU」、11「IF NOT FOR YOU」、12「COME ON IN MY KITCHEN」、13「BANGLADESH」、14「DEEP BLUE」、15「MISS O'DELL」、16「GIVE ME LOVE(GIVE ME PEACE ON EARTH)」、17「DARK HORSE」、18「I DON'T CARE ANYMORE」、19「DING DONG, DING DONG」、20「HARI'S ON TOUR」、21「FOR YOU BLUE」、22「THIS GUITAR(CAN'T KEEP FROM CRYING)」の、全22曲入りです。1「MY SWEET LORD」〜6「THE ART OF DYING」の6曲は、1970年11月リリースの「ロックの金字塔」であるアルバム「ALL THINGS MUST PASS」からの楽曲で、1「MY SWEET LORD」はスライド・ギターなどが入っていない初期ミックスで、2「WHAT IS LIFE」はステレオ・リミックスで、4「APPLE SCRUFFS」はアコースティック・ギターとハーモニカのボブ・ディラン・スタイルでのデモ音源で、3「LET IT ROLL(BALLAD OF SIR FRANKIE CRISP)」と、5「AWAITING ON YOU ALL」と、6「THE ART OF DYING」の3曲はアウトテイクです。7「IT DON'T COME EASY」は1971年4月にリリースされたリンゴ・スターのソロ・シングルですが、コレはジョージが歌っているヴァージョンで、女性コーラスが「ハリ・クリシュナ!」と歌っています。この動かぬ証拠が出たからなのか、リンゴは単独作だとクレジットしているものの、後にジョージとの共作だと白状しています。

8「NOWHERE TO GO」は、1968年にボブ・ディランとジョージが共作した曲で、アルバム「ALL THINGS MUST PASS」のアウトテイクです。9「GET BACK」はポール・マッカートニーが主導で書いたレノン=マッカートニー作品で、ジョージが歌っています。コレは1970年か1971年のアウトテイクでしょう。10「YOU」は1971年にロネッツのロニー・スペクター用に書いてボツになり、1975年9月リリースのアルバム「EXTRA TEXTURE(READ ALL ABOUT IT)(ジョージ・ハリスン帝国)」に収録されてシングル・カットもされた曲のアウトテイクで、まだ歌詞が完成していません。11「IF NOT FOR YOU」は、ボブ・ディランが1970年のアルバム「NEW MORNING」に収録して、ジョージも1970年のアルバム「ALL THINGS MUST PASS」に収録した曲で、コレは1971年のジョージとディランによるライヴ・リハーサル音源で、12「COME ON IN MY KITCHEN」(レオン・ラッセル作で歌ってもいる)も、1971年のライヴ・リハーサル音源です。これらは「バングラデシュ・コンサート」のリハーサルでしょう。13「BANGLADESH」と、14「DEEP BLUE」は、1971年7月リリースのシングル両面のシングル・ヴァージョンで、現在ではアルバム「LIVING IN THE MATERIAL WORLD」のボーナス・トラックで聴けますが、両面共にアルバム未収録曲でした。「BANGLADESH」はチャリティー曲で、「DEEP BLUE」は亡くなった母親に捧げた曲です。15「MISS O'DELL」と、16「GIVE ME LOVE(GIVE ME PEACE ON EARTH)」は、1973年のシングルでどちらも別ヴァージョンです。「GIVE ME LOVE(GIVE ME PEACE ON EARTH)」はアルバム「LIVING IN THE MATERIAL WORLD」でも聴けますが、「MISS O'DELL」はやはり現在はボーナス・トラックで聴けるものの、アルバム未収録曲で、公式盤ではジョージが笑いながら歌っていますが、こちらの別テイクでは笑いません。

17「DARK HORSE」と、18「I DON'T CARE ANYMORE」と、19「DING DONG, DING DONG」の3曲は、1974年12月リリースのアルバム「DARK HORSE」からのシングルで、全てがシングル・ヴァージョンです。「I DON'T CARE ANYMORE」はアルバム未収録曲ですし、他の2曲もアルバム・ヴァージョンとは違っていて短く編集しています。20「HARI'S ON TOUR」と、21「FOR YOU BLUE」の2曲は、1974年11月から12月に行われた「北米ツアー」からのライヴ音源で、当時は評論家に叩かれてジョージがライヴ恐怖症となり1991年12月の日本公演まで17年もツアーを止めてしまったのですけれど、北米ツアーを観に行ったジョン・レノンが「云われている程には酷くなかった」と云っているし、ブートレグで聴くと結構良い感じなので、ダニーくんに頑張ってもらってライヴ・アルバムを出して欲しいものですなあ。ここまでは、まだ法的にはビートルズが解散していなかった時期です。22「THIS GUITAR(CAN'T KEEP FROM CRYING)」は、1975年9月リリースのアルバム「EXTRA TEXTURE(READ ALL ABOUT IT)」からの曲で、コレはシングル・ヴァージョンで、ビートルズ時代の「WHILE MY GUITAR GENTLY WEEPS」の続編です。CD2は、1「THIS SONG」、2「LEARNING HOW TO LOVE YOU」、3「HERE COMES THE SUN」、4「HOMEWARD BOUND」、5「BLOW AWAY」、6「LOVE COMES TO EVERYONE」、7「HERE COMES THE MOON」、8「TEARDROPS」、9「SAVE THE WORLD」、10「THAT’S THE WAY IT GOES」、11「I DON'T WANT TO DO IT」、12「GOT MY MIND SET ON YOU」、13「WHEN WE WAS FAB」、14「RIDE RAJBUN」、15「CHEER DOWN」、16「POOR LITTLE GIRL」、17「ANY ROAD」、18「BETWEEN THE DEVIL AND THE DEEP BLUE SEA」、19「HORSE TO THE WATER」、20「ALL THINGS MUST PASS」の、全20曲入りで合計42曲入りです。

1「THIS SONG」と、2「LEARNING HOW TO LOVE YOU」の2曲は、1976年11月リリースのアルバム「THIRTY THREE & 1/3」からの曲で、盗作裁判を茶化した「THIS SONG」はシングル・ヴァージョンで、「LEARNING HOW TO LOVE YOU」は初期ミックスで、この曲はシングル「THIS SONG」のB面にもなっています。3「HERE COMES THE SUN」と、4「HOMEWARD BOUND」の2曲は、1976年のテレビ番組「サタデー・ナイト・ライヴ」でのポール・サイモンとの共演ライヴ音源で、ビートルズの「HERE COMES THE SUN」と、サイモン&ガーファンクルの「HOMEWARD BOUND」をアコースティック・ギター2本で披露しています。5「BLOW AWAY」と、6「LOVE COMES TO EVERYONE」と、7「HERE COMES THE MOON」の3曲は、1979年2月リリースのアルバム「GEORGE HARRISON(慈愛の輝き)」からの曲で、「BLOW AWAY」はデモ音源で、「LOVE COMES TO EVERYONE」はシングル・ヴァージョンで、「HERE COMES THE MOON」はフェイドアウトが早いヴァージョンで、「HERE COMES THE MOON」は「HERE COMES THE SUN」のセルフ・パロディです。ジョージは1978年に、ラトルズのテレビ番組にも出演しています。8「TEARDROPS」と、9「SAVE THE WORLD」の2曲は、1981年5月リリースのアルバム「SOMEWHERE IN ENGLAND」からの曲で、「TEARDROPS」はシングル・ヴァージョンで、「SAVE THE WORLD」はリミックス音源です。10「THAT’S THE WAY IT GOES」は1982年10月リリースのアルバム「GONE TROPPO」からの曲のリミックス音源で、11「I DON'T WANT TO DO IT」は1985年の映画「ポーキーズ・リヴェンジ」のサントラ盤に収録されたボブ・ディランが書いた曲で、コレはアルバムとはミックス違いのシングル・ヴァージョンです。

12「GOT MY MIND SET ON YOU」と、13「WHEN WE WAS FAB」の2曲は、1987年11月リリースのアルバム「CLOUD NINE」からの曲で、全米首位!となった「GOT MY MIND SET ON YOU」は12インチ盤のロング・ヴァージョンで、ビートルズのセルフ・パロディの「FAB」は12インチ盤やシングルCDに収録された「リヴァース・エンド・ヴァージョン」です。14「RIDE RAJBUN」は1992年の子ども向けテレビ番組から派生したアルバム「THE BUNBURY TAILS」に提供したインド風の楽曲で、ラヴィ・シャンカール先生によるシタールに乗せてジョージが息子のダニーくんと歌っています。15「CHEER DOWN」と、16「POOR LITTLE GIRL」の2曲は、1989年10月リリースのベスト・アルバム「BEST OF DARK HORSE 1976-1989」に新曲として収録された曲で、映画「リーサルウェポン2」の主題歌である「CHEER DOWN」は、1989年8月に米国でシングルでリリースされたシングル・ヴァージョンで、「POOR LITTLE GIRL」は1989年11月に英国でリリースされたシングル「CHEER DOWN」にカップリングされたシングル・ヴァージョンです。「CHEER DOWN」は、ジョージの傑作のひとつでしょう。そして、ジョージは2001年11月29日に亡くなりました。17「ANY ROAD」と、18「BETWEEN THE DEVIL AND THE DEEP BLUE SEA」の2曲は、ジョージの死後の2002年11月にリリースされた遺作アルバム「BRAINWASHED」からの曲で、「ANY ROAD」はアコースティック・ヴァージョンで、「BETWEEN THE DEVIL AND THE DEEP BLUE SEA」はオリジナル・ミックスです。19「HORSE TO THE WATER」は、2001年にジョージが生前最後にレコーディングした曲で、テレビ番組「ジュールズ倶楽部」で有名なジュールズ・ホーランドのアルバムに収録された曲のリミックス音源で、最後の20「ALL THINGS MUST PASS」は2020年リミックス音源です。中には怪しい音源もあるものの、レアなシングル・ヴァージョンを多く収録した好編集アルバムになっています。

ちなみに、ジョージ・ハリスンの公式盤でのベスト・アルバムは、3作リリースされています。1作目は1976年11月にアップルからリリースされた「THE BEST OF GEORGE HARRISON」全13曲入りですが、レコードだとA面の7曲がビートルズ時代の曲で、B面の6曲がソロの曲と云う、屈辱的な内容でした。ジョージにはアップル時代に8曲のシングル・ヒット曲があったので、普通はソレに4曲位を足してリリースするところですが、アップルは「ジョージのソロじゃ売れない」と判断したのです。2作目のベスト・アルバムは、1989年10月にダーク・ホースからリリースされた「BEST OF DARK HORSE 1976-1989」で、ダーク・ホース時代の全15曲をジョージ自身で選曲しています。新曲が3曲収録されていて、曲順も年代順ではなくジョージが決めていて、ベスト・アルバムの鑑の様な内容です。3作目は、ジョージの死後になって2009年6月に「ダーク・ホース/パーロフォン/アップル」からリリースされた「LET IT ROLL」です。コレはオリヴィアさんが選曲したと云われているのですが、所謂ひとつの「オールタイム・ベスト・アルバム」で、レーベルを越えた選曲にはなっている全19曲入りです。ソレは良いのですけれど、またしてもビートルズ時代の3曲(「WHILE MY GUITAR GENTLY WEEPS」、「SOMETHING」、「HERE COMES THE SUN」)を「バングラデシュ・コンサート」のライヴ音源で入れていたり、選曲も偏りが多くて、1曲も選ばれていないアルバムが多過ぎます。本当にオリヴィアさんが選曲したの?と疑問に思う様な内容で、今更ビートルズ・ナンバーに頼らなくたってベスト・アルバム位作れるでしょう、と云う話です。公式盤でソレを出来ないから、この「AFTER THE BEATLES ANTHOLOGY」の様なブートレグがやっているわけですよ。

(小島イコ)

posted by 栗 at 23:00| FAB4 | 更新情報をチェックする