nana.812.png

2025年10月12日

「ポールの道」#878「THE BEATLES BLACK VOX」
#187「AFTER THE BEATLES ANTHOLOGY PAUL McCARTNEY」AGAIN

pma.jpg


ポール・マッカートニーは、大体10年位の間を開けてベスト・アルバムをリリースしています。1作目の1978年11月にリリースしたベスト・アルバム「WINGS GREATEST」は全12曲入りで、レコードだと60分位詰め込まれていましたが、まだウイングスを結成する前の「ANOTHER DAY」がA面1曲目で、やはりウイングス以前の「UNCLE ALBERT / ADMIRAL HALSEY」がB面1曲目と云う、天然バカボン全開の選曲でした。実は、このアルバムは「HOT HITZ - KOLD KUTZ」と云う2枚組の構想で、1枚目がベスト・アルバムで、2枚目は未発表音源集だったのですけれど、レコード会社に反対されてベスト・アルバムだけになっています。2作目は1987年11月リリースの「ALL THE BEST!」で、レコードは2枚組で全20曲入りで、CDは1枚で全17曲入りです。コレはCDの選曲が英国盤と日本盤は同じですが、米国盤は違っていて、個人的にはこの米国盤が最も好きなポールのベスト・アルバムです。内容は1970年から1987年までの大ヒット曲を集めている文句なしのベスト・アルバムですし、英国盤と日本盤には新曲「ONCE UPON A LONG AGO」も入っているので、コレは米国盤と両方買うべきでしょう。1989年からは再びワールド・ツアーを開始して、それが2025年の現在まで続いているのも驚嘆すべき事ですけれど、ビートルズ時代も含めたベスト・ヒット・ライヴ・アルバムをリリースする様になったので、3作目のベスト・アルバムは2001年5月にリリースされた「WINGSPAN: HITS AND HISTORY」です。コレはCD2枚組全40曲(日本盤は41曲)入りで、CD1が「HITS」で、CD2が「HISTORY」となっていて、タイトル通りにウイングス時代の曲が中心ではあるものの、ソロの曲も混じっています。4作目は2016年6月にリリースされたベスト・アルバム「PURE McCARTNEY」で、CD4枚組全67曲入りです。

ベスト・アルバムがCD4枚組で全67曲入りと云う、俄かには信じられない領域に入っているのが、サー・ポール・マッカートニーなのですけれど、来るべき2025年11月7日に、5作目のベスト・アルバム「WINGS」がリリースされます。CD2枚組の全32曲入りで、コレは正真正銘の「ウイングスのベスト・アルバム」です。ウイングスの実質的な活動期間は、1971年から1979年なのですけれど、ズバリ云って、ポールが大ヒット曲を連発していたのはウイングス時代です。ウイングスと云うバンドは、ポールとリンダ・マッカートニーとデニー・レインの3人以外のメンバーが何度も代わって、同じメンバーでは1枚ずつしかアルバムをリリース出来なかった、完全なるポールのワンマン・バンドです。さて、前置きが長くなりましたが、前回のジョン・レノン編に続いて、今回は2021年に「SUPERSTOCK」からリリースされた2CDのブートレグ「AFTER THE BEATLES ANTHOLOGY PAUL McCARTNEY」を紹介します。内容は、CD1が、1「MAYBE I'M AMAZED」、2「ANOTHER DAY」、3「UNCLE ALBERT / ADMIRAL HALSEY」、4「UNCLE ALBERT JAM」、5「EAT AT HOME」、6「SMILE AWAY」、7「GIVE IRELAND BACK TO THE IRISH」、8「MARY HAD A LITTLE LAMB」、9「HI, HI, HI」、10「SEASIDE WOMAN」、11「THE MESS」、12「MY LOVE」、13「LIVE AND LET DIE」、14「HELEN WHEELS」、15「JET」、16「BAND ON THE RUN」、17「JUNIOR'S FARM」、18「SALLY G」、19「SEND ME THE HEART」、20「VENUS AND MARS」の、全20曲入りです。CD1は、1970年から1975年までのアウトテイクや別テイクやライヴ音源に加えて、なんちゃってリミックス音源も混じっています。法的にはまだポールはビートルズのメンバーで、それなのにウイングスもやっていた時期となります。

1「MAYBE I'M AMAZED」は、1970年4月リリースの初ソロ・アルバム「McCARTNEY」に収録された名曲ですが、コレはですね、ピアノの弾き語り風にやらかした「なんちゃってリミックス音源」です。レコードではポールが全ての楽器を演奏していますが、ピアノとリード・ヴォーカルだけ残して、ドラムスも間奏での印象的なリード・ギターもコーラスも全てなくしてしまったヘッポコ・リミックスとなっています。2「ANOTHER DAY」は1971年2月リリースの初のシングル曲のなんちゃってリミックス音源ですが、こちらはそれほどには弄っていません。3「UNCLE ALBERT / ADMIRAL HALSEY」は、1971年5月リリースのポール&リンダ・マッカートニーによるアルバム「RAM」からのなんちゃってリミックスのロング・ヴァージョンで、繋いだところがハッキリ分かるのは困りものです。4「UNCLE ALBERT JAM」はその「RAM」のセッション音源で、ポールとこの後にウイングスの初代ドラマーとなるデニー・シーウェルによるカントリー調で完成品とは全く違うアレンジでの演奏です。5「EAT AT HOME」と、6「SMILE AWAY」は、1972年のウイングスによるライヴ音源で、個人的にはこの初期ウイングスで頑なにビートルズ・ナンバーを封印して新曲ばかり演奏していたライヴが好きだし、このアルバム「RAM」からの楽曲もバンド・アレンジだと印象が違って良い感じです。7「GIVE IRELAND BACK TO THE IRISH」は1972年2月リリースのウイングスの1作目のシングル曲で、ジョン・レノンに「歌詞が幼稚」と切り捨てられた曲のリハーサル音源です。8「MARY HAD A LITTLE LAMB」は1972年5月リリースのウイングスのシングル曲の初期テイクですが、もう開き直ってファミリー路線に舵を切っています。

9「HI, HI, HI」は、1972年12月リリースのウイングスの放送禁止曲で、エロいポール節が満開のロックンロールですが、これはなんちゃってリミックス音源です。10「SEASIDE WOMAN」は、1972年11月にレコーディングされたリンダ・マッカートニーがリード・ヴォーカルの楽曲のラフミックス音源で、この曲が公式リリースされたのは1977年5月で「スージー&ザ・レッド・ストライプス」名義のシングルでした。11「THE MESS」は、1973年3月リリースのポール・マッカートニー&ウイングスの名曲「MY LOVE」のシングルB面にライヴ・ヴァージョンが収録された曲のスタジオ・テイクですが、この時から「ウイングスなんて誰も知らないから、ポール・マッカートニー&ウイングスに改名しろ」とレコード会社に命令されてしまい改名しています。12「MY LOVE」は、そのA面で全米首位!となった名曲のオーケストラやコーラスを抜いたベーシック・トラックです。13「LIVE AND LET DIE」は、映画「007 死ぬのは奴らだ」の主題歌で、1973年6月リリースのシングルで、久しぶりにサー・ジョージ・マーティンのプロデュースでヒットした曲の「4チャンネル・ミックス」です。14「HELEN WHEELS」は、1973年10月リリースのシングル曲のなんちゃってロング・ヴァージョンです。この曲は、基本的には1コードで書かれています。15「JET」と、16「BAND ON THE RUN」は、1973年12月リリースの名作アルバム「BAND ON THE RUN」からで、「JET」はオーケストラなどが入っていないラフミックス音源で、「BAND ON THE RUN」はシングル・ヴァージョンです。17「JUNIOR'S FARM」と、18「SALLY G」は、1974年10月リリースのシングルAB面で、19「SEND ME THE HEART」(デニー・レイン作)も含めて「EMIE WINFREY MIX」です。20「VENUS AND MARS」は、1975年5月リリースのアルバム「VENUS AND MARS」のタイトル曲のアウトテイクです。

CD2は、1「ROCK SHOW」、2「LETTING GO」、3「LISTEN TO WHAT THE MAN SAID」、4「SILLY LOVE SONGS」、5「LET ’EM IN」、6「MULL OF KINTYRE」、7「GIRLS' SCHOOL」、8「WATERSPOT」、9「WITH A LITTLE LUCK」、10「I'VE HAD ENOUGH」、11「LONDON TOWN」、12「GOODNIGHT TONIGHT」、13「NO WORDS」、14「BAND ON THE RUN」、15「COMING UP」の全15曲入りで合計35曲入りです。CD2の曲数が少ないのは「なんちゃってロング・ヴァージョン」が多いからです。1「ROCK SHOW」と、2「LETTING GO」と、3「LISTEN TO WHAT THE MAN SAID」の3曲は、1975年5月リリースのアルバム「VENUS AND MARS」からで、「ROCK SHOW」はニュー・ヴァージョンで、他の2曲はなんちゃってロング・ヴァージョンです。ちなみに、このアルバム「VENUS AND MARS」からは「ウイングス」名義に戻っていて、売れると云うのはそう云う事なのでしょうなあ。これらの曲は全てシングル・カットされています。4「SILLY LOVE SONGS」と、5「LET ’EM IN」は、1976年3月リリースのアルバム「WINGS AT THE SPEED OF SOUND」からで、アルバムもシングルも大ヒットしていますが、2曲共になんちゃってロング・ヴァージョンです。6「MULL OF KINTYRE」と、7「GIRLS' SCHOOL」は、1977年11月リリースのシングルAB面曲で、英国では「MULL OF KINTYRE」が6週連続首位!となり、219万枚以上も売れて、ビートルズの「SHE LOVES YOU」が保持していた記録をポール自ら塗り替えました。「MULL OF KINTYRE」は完全に英国を意識した曲だったので、米国では「GIRLS' SCHOOL」をA面にしていて、スマッシュ・ヒット(全米33位)に終わっています。

8「WATERSPOT」は、未発表アルバムとなった「HOT HITZ - KOLD KUTZ」の「KOLD KUTZ」に収録を予定していた曲のラフミックス音源で、ここに入っていると云う事は1977年から1978年にかけての音源なのでしょう。「KOLD KUTZ」もしくは「COLD CUTS」は、多くのブートレグが出ている未発表音源集で、収録曲の中には後にポールがシングルのカップリングで公式リリースした曲もいくつかある程に完成度が高いアルバムです。個人的にも、色々なブートレグを聴いてきた中で5本の指に入る程に素晴らしい出来栄えだと思っていますし、ブートレグと云うよりも公式盤に限りなく近いアルバムです。ポールには、そうした未発表音源が他にも山ほどあるのでしょう。9「WITH A LITTLE LUCK」と、10「I'VE HAD ENOUGH」と、11「LONDON TOWN」の3曲は、1978年3月リリースのアルバム「LONDON TOWN」からの楽曲で、「WITH A LITTLE LUCK」は編集ヴァージョン、「I'VE HAD ENOUGH」は初期テイク、「LONDON TOWN」はリミックス音源です。12「GOODNIGHT TONIGHT」は1979年3月リリースのシングルのロング・ヴァージョンで、13「NO WORDS」と、14「BAND ON THE RUN」と、15「COMING UP」の3曲は、1979年のグラスゴー公演でのライヴ音源です。と云うわけで、ポール編はここまでなのですけれど、なな、なんと、1970年から1979年までの、しかも基本的にはシングル曲しか選曲されていないのです。ジョンだって1969年から亡くなった1980年までから選曲されていたし、ジョージとリンゴだって全キャリアからの選曲なのに、ポール編だけが1970年代限定で、しかもシングル曲だけで他の3人と同じCD2枚組に達してしまったわけで、コレが長く続けている強みだし、今度公式リリースされるウイングス限定のベスト・アルバム「WINGS」CD2枚組の全32曲入りも、期待を裏切る事はないでしょう。

(小島イコ)

posted by 栗 at 23:00| FAB4 | 更新情報をチェックする