
1969年に過激すぎるデビュー・アルバム「PHILOSOPHY OF THE WORLD」でデビューさせられた、ドロシー・ドット・ウィギン(ヴォーカル、リード・ギター)、ベティ・ウィギン(ヴォーカル、リズム・ギター)、ヘレン・ウィギン(ドラムス)の、ウィギン3姉妹から成る「シャッグス」は、翌1970年のラジオ番組でフランク・ザッパ先生が言及した事もあって、ごく一部で評価されました。デビュー・アルバムをリリースした時には、まだまだドロシーが書いた曲も単調で抑揚のないもので、果たしてそれを曲だと云うのもためらう程に稚拙なものでした。普通、3ピース・バンドならば、ギターとベースとドラムスの編成となるのですけれど、シャッグスの場合はギターが二人にドラムスと云う変則的な編成となっていて、それは狙ったのではなく、3姉妹がそもそも3ピース・バンドの通常の編成を知らなかったから、偶然にそう云うカタチになってしまったのです。ドロシーが書く曲も、おそらく循環コードすら知らなかったので、曲作りとしては出鱈目でした。プロデューサーで実の父親であるオースティン・ウィギン・ジュニアが母親(シャッグスにとっては祖母)の預言を信じて、無理矢理3姉妹にバンドを結成させて、一日中ギターやドラムスを練習させて、ライヴにも無理矢理に出演させて、たったの1日でレコーディングしたデビュー・アルバムをリリースさせられてしまったので、シャッグスの3姉妹は音楽活動が苦痛でしかなかったそうです。それで、1969年にデビュー・アルバム「PHILOSOPHY OF THE WORLD」をリリースした後は、しばらくの間は何をやっているのか分からなかったみたいです。
ところが、シャッグスには苦痛でしかなかった音楽活動が、デビュー・アルバムをリリースした後になって、少しだけ楽しくなってしまったのです。それで、ベーシストとして3姉妹の従妹であるレイチェル・ウィギンが参加したマトモな編成のバンドとなって、1975年には2作目のアルバムをレコーディングしていた様です。そのレコーディングの直後に、プロデューサーで父親であるオースティン・ウィギン・ジュニアが心臓発作で47歳の若さで亡くなってしまい、シャッグスは無理強いする父親がいないならもうバンドをやる必要もなくなって、録音機材も売り払い、同1975年に解散しました。同時に、その時にレコーディングされた2作目のアルバムも未発表となったのです。3姉妹はそれぞれ結婚をして家を出て、母親は家を売却したのですけれど、新たに住んだ所有者がオースティン・ウィギン・ジュニアの幽霊が出ると思い込んで、消防署に寄付してしまい、消防署が火災訓練で家を焼き払ってしまいました。そうして、シャッグスの3姉妹が、学校を退学させられ幽閉されて、無理矢理に楽器を練習させられた家もなくなったのです。ちなみに、デビュー・アルバム「PHILOSOPHY OF THE WORLD」は自主リリースで限定千枚で配布されたので、シャッグスは結成から解散までの10年余りの音楽活動では、一銭も報酬を得ていませんでした。つまり、現役時代のシャッグスはプロのバンドではなく、アマチュアのバンドがアルバムを1作自主制作しただけだったわけです。ところが、1969年に配布されただけのアルバムが、1970年代にコピーされて、カルト盤として注目されていったのです。
それで、1980年にデビュー・アルバム「PHILOSOPHY OF THE WORLD」がリイシューされました。このリイシューに関してもシャッグスは断ろうと思っていたらしく、それはアルバムを再発するには自分たちがお金を出さなければならないと思っていたからでした。そのリイシュー盤が好評だった(この時に「BETTER THAN THE BEATLES」と評価された)ので、1982年に2作目のアルバムとして「SHAGGS' OWN THING」がリリースされました。内容は、A面が、1「YOU'RE SOMETHIN' SPECIAL TO ME」、2「WHEELS」、3「PAPER ROSES」、4「SHAGGS' OWN THING」、5「PAINFUL MEMORIES」、6「GIMME DAT DING」で、B面が、1「MY CUTIE」、2「YESTERDAY ONCE MORE」、3「MY PAL FOOT FOOT」、4「I LOVE」、5「SHAGGS' OWN THING」の、全11曲入りで、CDではボーナス・トラックとして、12「LOVE AT FIRST SIGHT」、13「SWEET MARIA」、14「MISSOURI WALTZ(MISSOURI STATE SONG)」、15「WIPE OUT」の4曲を加えた全15曲入りです。コレはですね、1969年から1975年までのシャッグスの未発表音源を集めたコンピレーション・アルバムで、2作目としてレコーディングされた音源も含めているものの、あくまでも未発表音源集です。ドロシーやベティのオリジナルもありますが、カーペンターズの「YESTERDAY ONCE MORE」などのカバー曲も収録されています。芸風はデビュー・アルバムから変化していませんけれど、演奏技術が少しだけ上手くなってしまっている曲もあります。特にカバー曲は、元々がマトモな曲なので、ソレをシャッグス風にやってみました、と云う感じになっていて、相変わらずチューニングが狂っているギターで、リード・ギターは歌メロをなぞるだけの単音弾きで、ドラムスは微妙にズレているのですけれど、曲が普通じゃあ魅力も半減です。シャッグスの最大の魅力は、ドロシーが書く予測不能な楽曲にあったのだなあ、とカバー曲を聴くと分かるのでした。
(小島イコ)
【関連する記事】
- 「ポールの道」#913「THE BEATLES BLACK VOX」
#222「P.. - 「ポールの道」#912「THE BEATLES BLACK VOX」
#221「S.. - 「ポールの道」#911「THE BEATLES BLACK VOX」
#220「M.. - 「ポールの道」#910「THE BEATLES BLACK VOX」
#219「P.. - 「ポールの道」#909「THE BEATLES BLACK VOX」
#218「P.. - 「ポールの道」#908「THE BEATLES BLACK VOX」
#217「P.. - 「ポールの道」#907「THE BEATLES BLACK VOX」
#216「L..

