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2025年10月05日

「ポールの道」#871「THE BEATLES BLACK VOX」
#180「BRAVO! BEATLES THE BEATLES RELATIONS」

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前々回は1964年リリースのサー・ジョージ・マーティンによるアルバム「OFF THE BEATLE TRACK」を、前回は1964年リリースのチップマンクスによるアルバム「THE CHIPMUNKS SING THE BEATLES HITS」と、ビートルズが活躍した最初期に全曲カバーしたアルバムを紹介しました。今回はビートルズが全米制覇を成し遂げた1964年から、その人気に便乗してリリースされた楽曲を集めたアルバム「BRAVO! BEATLES THE BEATLES RELATIONS」を紹介します。このアルバムは、1993年に日本のレーベル「A-SIDE RECORDS」からリリースされた、所謂ひとつの「パチモン」盤ですが、なかなかオリジナルのシングル盤では集められない様なレア音源が満載です。内容は、1「WE LOVE YOU BEATLES(ビートルズに首ったけ)」ケアフリーズ、2「I HAD A DREAM I WAS A BEATLE(夢みるビートルズ)」ドナ・リン、3「MY BOYFRIEND GOT A BEATLE HAIRCUT(ビートルズ・カットのボーイフレンド)」ドナ・リン、4「WE LOVE THE BEATLES」ヴァーノン・ガールズ、5「A LETTER TO THE BEATLES(ビートルズへの手紙)」フォー・プレップス、6「THE BEETLE」ゲイリー・アッシャー、7「A BEATLE I WANT TO BE」ソニー・カーティス、8「I DREAMED I WAS A BEATLE(あこがれのビートルズ)」マレイ・ケラム、9「BEATLEMANIA」ジャック・ニッチェ、10「RINGO, I LOVE YOU」ボニー・ジョー・メイソン(シェールの変名)、11「HELLO PETITE FILLE(こんにちはマドモアゼル、「HELLO LITTLE GIRL」のフランス語カバー)」シェイラ、12「A BEATLE MEETS A LADYBUG」ポーラ・ラモン、13「THE BOY WITH THE BEATLE HAIR」スワンズ、と続きます。

続いて、14「WHAT'S WRONG WITH RINGO」ボン・ボンズ、15「YOU'VE GOT TO HIDE YOUR LOVE AWAY(悲しみはぶっとばせ)」シルキー、16「NOWHERE MAN(ひとりぽっちのあいつ)」スリー・グッド・リーズンズ、17「RINGO'S THEME(リンゴのテーマ、「THIS BOY」のインストゥルメンタル)」サー・ジョージ・マーティン、18「A LETTER TO THE BEATLES(ビートルズへの手紙)」ピカソ・トリオ、19「RINGO FOR PRESIDENT」ヤング・ワールド・シンガーズ、20「IT WOULD'T HAPPEN WITH ME」ジョニー・リヴァース、21「RINGO'S BEAT」エラ・フィッツジェラルド、22「THE INVASION」ブキャナン&グリーンフィールド、23「THE GIRL I LOVE」ビートルズ、の全23曲入りです。中には有名なミュージシャンもいますけれど、ほとんどが聞いた事もない様な方々が、正にビートルズ人気に便乗してリリースした楽曲が並んでいます。とは云え、この「BRAVO! BEATLES THE BEATLES RELATIONS」に収録されている曲は、比較的に「ビートルズ讃歌」と云える好意的な楽曲を集めています。ケアフリーズの、1「ビートルズに首ったけ」や、ドナ・リンの、2「夢みるビートルズ」と、3「ビートルズ・カットのボーイフレンド」と云った楽曲は、そこそこヒットしていて、大瀧師匠も「イエロー・サブマリン音頭」に引用したり、ラジオ番組「GO! GO! NIAGARA」のジングルに使っていたりするので、ナイアガラのファンにはお馴染みでしょう。4「WE LOVE THE BEATLES」を歌ったヴァーノン・ガールズ(サマンサ・ジョーンズことジーン・オーウェンが在籍)はマイナーなガールズ・グループながら、ビートルズ・ファンの女の子はこの歌を愛唱していたそうです。

5のフォー・プレップスと、そのカバー18ピカソ・トリオの「ビートルズへの手紙」は、ビートルズにゾッコンになってしまったガールフレンドがラヴレターを送ったら、ファン倶楽部の入会方法とか物販紹介が返事で来たと云う歌です。6「THE BEETLE」はビーチ・ボーイズとも関係が深いゲイリー・アッシャーの曲で、ビートルズと車のビートルをかけたホッドロッド・ソングです。7「A BEATLE I WANT TO BE」は、元クリケッツのソニー・カーティスの曲で、ビートルズはクリケッツをマネッコしてバンド名を昆虫から取っているので、云わば元祖で本家からの愛情がこもったビートルズ讃歌です。8「I DREAMED I WAS A BEATLE」はアレイ・クラムと云うマイナーな歌手の曲で、こうしたコンピレーション・アルバムでしか聴けないでしょう。9「BEATLEMANIA」は、フィル・スペクター作品のアレンジャーとして有名なジャック・ニッチェの作品で、ジャック・ニッチェは1964年にアルバム「HITS OF THE BEATLES」も制作しています。10「RINGO, I LOVE YOU」はシェールがボニー・ジョー・メイソンと云う変名でフィル・スペクターのプロデュースでリリースしたレア盤で、これまたこう云うコンピレーション・アルバムでしか聴けないでしょう。11「こんにちはマドモアゼル」はシェイラによる「HELLO LITTLE GIRL」のフランス語カバーで、元々はジョン・レノン主導書いたレノン=マッカートニー作品で、1963年にフォーモストに提供した曲です。12「A BEATLE MEETS A LADYBUG」は、ポーラ・ラモンと云う女性歌手のマイナーな曲で、13「THE BOY WITH THE BEATLE HAIR」はスワンズによる一発ヒットで、14「WHAT'S WRONG WITH RINGO」はボン・ボンズ(後のシャングリラス)による曲で、米国ではリンゴ・スターが一番人気があったのです。

15「YOU'VE GOT TO HIDE YOUR LOVE AWAY」は、ジョン・レノン主導で書いたレノン=マッカートニー作品で、1965年のアルバム「HELP!」に収録された曲のシルキーによるカバーですが、ジョンのプロデュースでビートルズの面々が演奏に参加しています。シルキーは、このカバー曲だけの一発屋です。16「NOWHERE MAN」はジョンが主導で書いたレノン=マッカートニー作品で、1965年のアルバム「RUBBER SOUL」に収録された曲のスリー・グッド・リーズンズによるカバーで、英国ではビートルズのオリジナルがシングル・カットされなかったので(米国では独自にシングル・カットして全米3位を記録)代わりのコレがヒットしていて、スリー・グッド・リーズンズもコレだけの一発屋となっています。17「リンゴのテーマ」は、1964年のビートルズの初主演映画「A HARD DAY'S NIGHT」で使われたサー・ジョージ・マーティンによるオーケストラ・アレンジのインストゥルメンタル曲で、ビートルズの1963年のシングル「I WANT TO HOLD YOUR HAND」のB面曲「THIS BOY」のインストゥルメンタルです。このオーケストラ版は、1964年に「AND I LOVE HER」とのカップリングで米国や日本でシングル・カットされて、そこそこヒットしています。19「RINGO FOR PRESIDENT」は、ヤング・ワールド・シンガーズと云う聞いた事もないグループによる「リンゴを大統領にしよう!」と云う訳が分からない楽曲で、20「IT WOULD'T HAPPEN WITH ME」は、ジョニー・リヴァースがビートルズとエルヴィス・プレスリーを歌い込んだ楽曲です。

21「RINGO'S BEAT」は、ジャズ界の大物女性歌手であるエラ・フィッツジェラルドが自ら作詞にも関わっている1964年のシングル曲で、後年にビートルズ・ナンバーをカバーしているのは分かりますけれど、全米制覇した1964年に、エラ・フィッツジェラルドがリンゴを中心としたビートルズ讃歌を歌っていたのは驚きです。エラ・フィッツジェラルドは後にジョージ・ハリスン作の「SAVOY TRUFFLE」なんて渋い曲もカバーしているので、ビートルズが好きなんでしょうなあ。22「THE INVASION」は、ブキャナン&グリーンフィールドの作品で、ブレイク・イン(様々な曲のサワリを繋ぐ)と云う手法で有名なブキャナン&グッドマンのビル・グッドマンが、ニール・セダカと組んでいた作詞家のハウィ・グリーンフィールドと組んで、基本的に「SHE LOVES YOU」のコーラスに乗せて色んなヒット曲をブレイク・インさせて、英国からの侵略者を歌っています。最後の「THE GIRL I LOVE」は、ビートルズとは全く関係がなさそうなホワイト・ドゥー・ワップ・スタイルの楽曲なのですけれど、歌っているのが「THE BEATLES」なのです。勿論、英国の「THE BEATLES」とは全くの無関係なグループによる楽曲で、制作当時にはリリースすらされていなかった楽曲です。作者名が「J・レモン=J・ストロング」となっていて、謎の楽曲ですけれど、グループ名が同じなので収録されています。このCD「BRAVO! BEATLES THE BEATLES RELATIONS」に収録されている全23曲は、ほとんどが1964年のビートルズの全米制覇の時期にリリースされた楽曲で、その中から「ビートルズに対して好意的な讃歌」を集めています。しかしながら、「英国からの侵略者」が歓迎されただけではなかったわけで、その話は次回で紹介します。

(小島イコ)

posted by 栗 at 23:00| FAB4 | 更新情報をチェックする