
このところ、何度か「ジョン・バレット・テープス」とか「ジョン・バレット・ミックス」と云う言葉が出ていますが、ソレは何なのか、をまず説明します。ジョン・バレットはアビイ・ロード・スタジオのエンジニアで、ビートルズの現役時代にも一緒に仕事をしていました。ところが、1980年に癌になってしまい、現場を離れて治療に専念する事になってしまいました。そこで、やはりビートルズと仕事をしていたケン・スコットが出世していたので、ジョン・バレットにビートルズが遺した全ての音源を聴いて整理する仕事を依頼したのです。ジョン・バレットは1984年に亡くなってしまいますが、それまでに本当にビートルズの音源を全て聴いて、それを体系的にまとめていました。それによって、1983年にはアビイ・ロード・スタジオでの視聴会が開かれたし、ジョン・バレットの意思を継いだジェフ・エメリックが1985年リリース予定だったアルバム「SESSIONS」をまとめたり、1988年にはマーク・ルイソンが書籍「THE COMPLETE BEATLES RECORDING SESSIONS」を出版するたたき台になったと云われています。それで、ジョン・バレットがマスターテープからカセットテープにダビングして、音源の体系化をする過程で、例によって何者かがそれをコピーしてリリースしたのが「THE JOHN BARRETT TAPES」と呼ばれる一連のブートレグです。それは、完全版だとCD5枚組位になるのですけれど、CD1とCD2が「アウトテイク集」で、CD3が1983年の「アビイ・ロード・スタジオでの視聴会」で、CD4が「ヨーコさんとリンゴ・スターとジョージ・ハリスンのそれぞれのソロのアウトテイク集」で、CD5が1969年5月28日にグリン・ジョンズが完成させたアルバム「GET BACK with Don't Let Me Down and 12 other songs」を中心とした音源です。アウトテイクには、以前に紹介した「DOWN IN HAVANA」の音源も入っています。
今回は、CD3とCD5は他でも聴けるし、CD4はヨーコさんが日本語で「おまえのおっかさんはしんだー!」とかおどろおどろしく叫んでいる音源(ジョンの「MOTHER」とは関係ないと思う)や、解散後のリンゴとジョージの音源なので、バッサリとカットさせて頂きます。丁度良く「JPGR」から2CDの「THE JOHN BARRETT TAPES REMASTERED EDITION」と云うブートレグが出ていて、それが「アウトテイク集」に特化しているので、それを紹介します。内容は、CD1が、1〜2「SHE LOVES YOU」、3〜4「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」、5「THIS BOY」、6〜8「THAT MEANS A LOT」、9〜12「DON'T BOTHER ME」、13〜17「ONE AFTER 909」、18〜28「HOLD ME TIGHT」、29〜31「PENNY LANE」、32〜33「MISTER MOONLIGHT」、34「OB-LA-DI, OB-LA-DA」、35「COME AND GET IT」、36「WHAT YOU'RE DOING」、37〜38「FROM ME TO YOU」の、全38曲入りです。1〜2「SHE LOVES YOU」は1963年のシングル曲の疑似ステレオを制作しようとした音源で(バカなEMIがモノラル・マスター以外を破棄したから)、今ではデミックスで簡単に出来るのに、昔のエンジニアは苦労していたんですよ。1966年にレコーディングされた、3〜4「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」は、制作過程が分かります。1963年のシングルB面、5「THIS BOY」は美しいステレオ・ミックスで、この辺までは良いのですけれど、1965年のポールの駄作、6〜8「THAT MEANS A LOT」3連発辺りから雲行きが怪しくなってきます。1963年のジョージの処女作、9〜12「DON'T BOTHER ME」もへっぽこりんだし、1963年版はボツになった、13〜17「ONE AFTER 909」もボツになるべくしてなった音源です。
そして、1963年のポールの駄作、18〜28「HOLD ME TIGHT」の11連発は、ブートレグが好きなあたくしでも降参です。この曲は1963年のアルバム「WITH THE BEATLES」に収録されていて、痛恨の極みなのですけれど、これをフィル・スペクターが取り上げて、そのトレジャーズ用のカラオケに合わせて、大瀧師匠が「白い港」と云う超名曲にしているので、どう転ぶかは分からないものです。1966年から1967年にかけてレコーディングされた、29〜31「PENNY LANE」は、モノラル・ミックスで、後の公式盤アルバム「ANTHOLOGY 2」でのリミックス音源の元になったと思われる音源です。1964年の、32〜33「MISTER MOONLIGHT」は、2種類の異なるステレオ・ミックスを試みています。1968年の、34「OB-LA-DI, OB-LA-DA」は「Take 4」で、1969年の、35「COME AND GET IT」は、別ミックスなんですけれど、これはポールによる「ひとりバッドフィンガー」のデモ音源であって、デモ音源の別ミックスと云うのも何ですなあ。1964年のポールの駄作、36「WHAT YOU'RE DOING」は、これまた勘弁して欲しいのですけれど、1テイク(「Take 11」)だけでホッとしました。1963年のシングル、37〜38「FROM ME TO YOU」は、アウトテイクですが、このシングル「FROM ME TO YOU / THANK YOU GIRL」と同日に時間が余ったのでレコーディングした「ONE AFTER 909」(1963年版)に関しては、1963年3月5日の「FROM ME TO YOU SESSIONS」として、全ての音源が遺されていて、ブートレグにもなっています。3作目シングルがそれだけ遺されているのに、何故に4作目シングル「SHE LOVES YOU / I'LL GET YOU」は破棄しちゃったのか、理解不能です。
CD2は、1〜2「THANK YOU GIRL」、3「YES IT IS」、4〜5「IT'S ALL TOO MUCH」、7〜8「THAT MEANS A LOT」、8〜10「NORWEGIAN WOOD」、11〜12「I'M LOOKING THROUGH YOU」、13〜14「12 BAR ORIGINAL」、15「HOW DO YOU DO IT」、16〜17「ONE AFTER 909」、18「LEAVE MY KITTEN ALONE」、19「IF YOU GOT TROUBLES」、20「THAT MEANS A LOT」、21「NORWEGIAN WOOD」、22「I'M LOOKING THROUGH YOU」、23「NOT GUILTY」、24「WHAT'S THE NEW MARY JANE」の、全24曲入りで、合計62曲入りです。1963年のシングルB面、1〜2「THANK YOU GIRL」に始まり、1965年のシングルB面、3「YES IT IS」の美しいステレオ・ミックス、1967年レコーディングのジョージの傑作、4〜5「IT'S ALL TOO MUCH」のロング・ヴァージョンのモノラル・ミックスとステレオ・ミックス、と出だしは上々ですが、1965年のポールの大駄作、6〜8「THAT MEANS A LOT」が、またしても登場します。1965年のジョンの快作、8〜10「NORWEGIAN WOOD」と、同年のポール作の、11〜12「I'M LOOKING THROUGH YOU」、そして、同じく1965年の未発表音源(インスト)、13〜14「12 BAR ORIGINAL」と、アルバム「RUBBER SOUL」のアウトテイクで持ち直して、1962年のボツ音源、15「HOW DO YOU DO IT」、1963年のボツ音源、16「ONE AFTER 909」、1964年の何故にボツになったか分からないジョンの熱唱がギラリと光る、17「LEAVE MY KITTEN ALONE」で盛り上がってきます。本当に「HOLD ME TIGHT」とか「WHAT YOU'RE DOING」とかを入れるなら、どう考えても「LEAVE MY KITTEN ALONE」の方が良いでしょう。
そして、思いっ切り盛り上がってきたところで、1965年のリンゴのボツ音源、19「IF YOU GOT TROUBLES」で盛大にズッコケます。そして、またしても三度登場、1965年のポールのクズ曲、20「THAT MEANS A LOT」です。合計6テイクもこんな曲を入れていて、ジョン・バレットは嫌がらせをしたのでしょうか。1965年の、21「NORWEGIAN WOOD」とか、同年の、22「I'M LOOKING THROUGH YOU」は、繰り返し出てきても別テイクだし楽しめるのですけれど、そもそもボツ曲だった「THAT MEANS A LOT」の連発はないでしょう。「HOLD ME TIGHT」みたいなその後のドラマ性もないし、結局はビートルズでは完成出来ず、提供されたP・J・プロビーも堪ったもんじゃなかったでしょうなあ。そもそもビートルズで上手くレコーディング出来なかった曲を他人に提供するポールって、酷くないですか?1968年のジョージ作の、23「NOT GUILTY」は、お馴染みの「Take 102」で、1968年のジョンがバカになった、24「WHAT'S THE NEW MARY JANE」は、ボツになるべくしてなった曲です。CD2の後半部分の選曲は、1985年にリリースを予定していたアルバム「SESSIONS」に収録された曲が多くなっていて、志半ばで亡くなったジョン・バレットの遺志を、ジェフ・エメリックが継いでいたのだなあ、と思えます。「THE JOHN BARRETT TAPES」と題されたブートレグは数多くあって、前述の通り「THE COMPLETE JOHN BARRETT TAPES」となると、CD5枚組ですけれど、このCD2枚組でアウトテイクはほとんど網羅されているし、アビイ・ロード・スタジオでの視聴会と、アルバム「GET BACK with Don't Let Me Down and 12 other songs」は別に買えるし、ヨーコさんの歌は怖いので、こっちだけでも良いと思いますよ。
(小島イコ)
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