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2025年08月28日

「ポールの道」#833「THE BEATLES BLACK VOX」
#142「LET IT BE - UK CASSETTE TAPE / UK BOX SET / UK WHITE VINYL」

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ビートルズの最後のアルバムは、1969年9月26日にアップルからリリースされたアルバム「ABBEY ROAD」なのか、それとも1970年5月8日にアップルからリリースされたアルバム「LET IT BE」なのか、意見が分かれるところです。と云うのも、確かにリリース順だとアルバム「LET IT BE」となるものの、その素材はほとんどが1969年1月に行われた「THE GET BACK SESSIONS」音源で、1968年2月4日と8日にレコーディングされた「ACROSS THE UNIVERSE」と、1970年1月3日にレコーディングされた「I ME MINE」以外は、元々は1969年5月28日にアルバム「GET BACK with Don't Let Me Down and 12 other songs」第1案としてグリン・ジョンズによってまとめられて、ビートルズによって却下されていた素材でした。更に前記の2曲(「ACROSS THE UNIVERSE」と「I ME MINE」)も、1970年1月5日に完成したグリン・ジョンズによるアルバム「GET BACK」第2案には収録されていて、再びビートルズによって却下されています。それらのほとんどが1969年1月の「THE GET BACK SESSIONS」音源を、1970年3月23日から4月2日までにフィル・スペクターがリミックスして完成させたのが、アルバム「LET IT BE」なのです。内容は、A面が、1「TWO OF US」、2「DIG A PONY」、3「ACROSS THE UNIVERSE」、4「I ME MINE」、5「DIG IT」、6「LET IT BE」、7「MAGGIE MAE」で、B面が、1「I'VE GOT A FEELING」、2「ONE AFTER 909」、3「THE LONG AND WINDING ROAD」、4「FOR YOU BLUE」、5「GET BACK」の、全12曲入りです。よく、フィル・スペクターがオーバープロデュースしたと云われているアルバム「LET IT BE」ですが、全12曲を聴いて思うのは、そんなに云う程には弄っていないんじゃないか、と云う事です。

確かに、フィル・スペクターは1970年4月1日に、オーケストラと女性コーラスをオーバーダビングしています。そのセッションにはリンゴ・スターがドラムスで参加しているわけですけれど、そこでオーバーダビングされた曲は「ACROSS THE UNIVERSE」と「I ME MINE」と「THE LONG AND WINDING ROAD」の3曲です。前述の通り「ACROSS THE UNIVERSE」と「I ME MINE」は「THE GET BACK SESSIONS」音源ではありません。「LET IT BE」には既にサー・ジョージ・マーティンのプロデュースで1970年3月6日にシングルでリリースされた段階で、全く別ものと云える程にオーバーダビングされて世に出ていました。つまり、フィル・スペクターがオーバープロデュースしたと云えるのは「THE LONG AND WINDING ROAD」1曲だけです。何故に「THE LONG AND WINDING ROAD」にゴージャスなオーケストラをオーバーダビングしたのかと云うと、ジョン・レノンが弾いた6弦ベースがミスだらけだったので、それを目立たなくする為だったとも云われています。となると、ポール・マッカートニーとサー・ジョージ・マーティンが主導で制作された「LET IT BE」のシングル・ヴァージョンでの、ジョンの6弦ベースをポールのベースに差し替えたり、ジョンのコーラスを消してリンダ・マッカートニーとメリー・ホプキンのコーラスを入れたり、ジョージ・ハリスンのリード・ギターを重ねたり、サー・ジョージ・マーティンによるオーケストラまでオーバーダビングしているのと、一体どこが違うんだ、となってしまうのです。ポールは「THE LONG AND WINDING ROAD」のオーケストラ・アレンジを担当したリチャード・ヒューソンを、その後1971年のアルバム「RAM」のオーケストラ盤「THRILLINGTON」(リリースは1977年)で起用しているわけで、本当にオーケストラ・アレンジが気に入らなかったのならば、そんな事にはならないでしょう。

つまり、ポールが気に入らなかったのは、自分だけがハブにされて、ジョンとジョージとリンゴがフィル・スペクターを起用した事だったのだとしか思えません。フィル・スペクターの見事な仕事ぶりは、1曲目の「TWO OF US」のイントロを聴いただけで分かります。フィル・スペクターはリミックスしているだけで、前述の4曲(「ACROSS THE UNIVERSE」、「I ME MINE」、「LET IT BE」、「THE LONG AND WINDING ROAD」)以外には手を加えていません。2「DIG A PONY」、8「I'VE GOT A FEELING」、9「ONE AFTER 909」の3曲は1969年1月30日の「ルーフトップ・コンサート」音源ですが、過剰なオーバーダビングなど一切加えていないどころか、「DIG A PONY」のイントロとアウトロのポール主導の間抜けなコーラスをバッサリとカットしています。5「DIG IT」と7「MAGGIE MAE」は、ポール主導の甘い6「LET IT BE」や10「THE LONG AND WINDING ROAD」に流されない様に緩急を付ける役割になっているし、11「FOR YOU BLUE」に関しては、1969年1月25日の演奏を、ジョージ・ハリスンの意図でリード・ヴォーカルとギターを1970年1月8日に差し替えているので、フィル・スペクターの責任ではありません。12「GET BACK」は1969年1月27日のシングル・ヴァージョンにもなったテイクに、同年1月30日の「ルーフトップ・コンサート」でのお喋りを加えていて、見事な疑似ライヴ音源になっています。そもそも約100時間もある「THE GET BACK SESSIONS」音源を丸投げされて、たったの10日足らずの期間でこれだけの仕事をやってのけたのですから、本来ならばフィル・スペクターの仕事はもっと讃えられるべきなのに、昔から結構貶されているのは、納得がいきませんなあ。

と云うわけで、今回は「LET IT BE - UK CASSETTE TAPE / UK BOX SET / UK WHITE VINYL」と云うCDR3枚組のパイレート盤を紹介します。3枚共に、単に公式盤のテープ起こしと盤起こし音源が収録されています。故に内容は公式盤アルバム「LET IT BE」と同じです。但し、「UK CASSETTE TAPE」は、曲順が、1「TWO OF US」、2「I ME MINE」、3「ONE AFTER 909」、4「ACROSS THE UNIVERSE」、5「DIG IT」、6「LET IT BE」、7「MAGGIE MAE」、8「DIG A PONY」、9「THE LONG AND WINDING ROAD」、10「I'VE GOT A FEELING」、11「FOR YOU BLUE」、12「GET BACK」と、おそらくテープ片面の収録時間を考慮して変更されています。テープの片面が、6「LET IT BE」までで、裏面が、7「MAGGIE MAE」からと云う、それだけでも結構印象が違っています。「UK BOX SET」は、1970年5月8日にアップルからリリースされた初版箱入り写真集付きのレコードからの盤起こし音源です。「UK EXPORT WHITE VINYL」は1978年リリースの白盤からの盤起こし音源です。どちらも、1「TWO OF US」、2「DIG A PONY」、3「ACROSS THE UNIVERSE」、4「I ME MINE」、5「DIG IT」、6「LET IT BE」、7「MAGGIE MAE」、8「I'VE GOT A FEELING」、9「ONE AFTER 909」、10「THE LONG AND WINDING ROAD」、11「FOR YOU BLUE」、12「GET BACK」の、全12曲入りで、現在も聴ける2009年リマスター盤のアルバム「LET IT BE」とミックスなどは特に変わっていません。それで、アルバム「ABBEY ROAD」とアルバム「LET IT BE」のどちらがラスト・アルバムなのかと云えば、それは両方でしょう。どちらのアルバムも、1969年1月の「THE GET BACK SESSIONS」の時点で、そのほとんどの楽曲が既に出来ていて、アルバム「ABBEY ROAD」ではサー・ジョージ・マーティンにアタマを下げて制作していて、アルバム「LET IT BE」は素材をフィル・スペクターに丸投げして完成させているわけで、1969年1月の「THE GET BACK SESSIONS」で、ビートルズは終わったのです。

(小島イコ)

posted by 栗 at 23:00| FAB4 | 更新情報をチェックする