
ビートルズは、1966年8月29日のキャンドル・スティック・パークでのサンフランシスコ公演を最後に、ライヴ活動を辞めました。そして、再び観衆の前でライヴを行うのは、1969年1月30日の「ルーフ・トップ・レコーディング」となります。しかしながら、その「ルーフ・トップ」は、確かにライヴではありましたけれど、ゲリラ的にアップル・ビルの屋上で行ったライヴ・レコーディングだったので、同じ曲を何度も演奏していたりもします。つまり、ライヴ・バンドとしてのビートルズは、1966年8月29日で終わったのです。それでビートルズはどうしたのかと云うと、ジョン・レノンは髪を切ってリチャード・レスター監督の映画「HOW I WON THE WAR」に兵士役で単独出演して、ポール・マッカートニーは単独名義で映画「FAMILY WAY」に楽曲を提供してサー・ジョージ・マーティンのアレンジでサントラ盤を因縁があるデッカからリリースして、ジョージ・ハリスンは単独でインドへ行きラヴィ・シャンカールから本格的にシタールを学び、リンゴ・スターは家族との団らんを楽しんで映画撮影中のジョンを訪問したりしていました。4人がバラバラな行動をしていたので、マスコミは「ビートルズ解散か?」と書き立てて、当のジョージ・ハリスンすら「ライヴ活動を辞めたので、ビートルズは解散すると思っていた」と発言しています。バラバラになっていたビートルズは、1966年の年末にクリスマス商戦用にリリースする新作アルバムを制作する事が出来ず、現役時代で唯一のベスト・アルバム「A COLLECTION OF BEATLES OLDIES」を英国パーロフォンからリリースしてお茶を濁しています。
ベスト・アルバム「A COLLECTION OF BEATLES OLDIES」の内容は、A面が、1「SHE LOVES YOU」、2「FROM ME TO YOU」、3「WE CAN WORK IT OUT」、4「HELP!」、5「MICHELLE」、6「YESTERDAY」、7「I FEEL FINE」、8「YELLOW SUBMARINE」で、B面が、1「CAN'T BUY ME LOVE」、2「BAD BOY」、3「DAY TRIPPER」、4「A HARD DAY'S NIGHT」、5「TICKET TO RIDE」、6「PAPERBACK WRITER」、7「ELEANOR RIGBY」、8「I WANT TO HOLD YOUR HAND」の、全16曲入りでした。ほとんどがヒット・シングル曲で固めた内容で、英国ではシングルのみでアルバムには未収録だった7曲(「SHE LOVES YOU」、「FROM ME TO YOU」、「WE CAN WORK IT OUT」、「I FEEL FINE」、「DAY TRIPPER」、「PAPERBACK WRITER」、「I WANT TO HOLD YOUR HAND」)の初ステレオ・ミックス(「SHE LOVES YOU」は疑似ステレオ)と、英国では未発表だった「BAD BOY」を加えた全16曲中半数の8曲が収録されています。しかし、何でもアルバムに収録していた米国キャピトルでは「BAD BOY」すら先出しさせていたので、このアルバム「A COLLECTION OF BEATLES OLDIES」はリリースされていません。こうしてベスト・アルバムが登場した事もあって、いよいよ「ビートルズは解散する」と疑われる様になりました。ところが、ビートルズは解散するどころか、レコーディングに特化した新たなバンドとして生まれ変わるのです。その口火を切ったのが、1967年2月17日に英国パーロフォンからリリースされた、ロック史上最強の両A面シングル「STRAWBERRY FIELDS FOREVER / PENNY LANE」です。
元々、ビートルズはアルバム「REVOLVER」につづく8作目のアルバムを、メンバーそれぞれの少年時代を回顧した内容にする予定でした。そこで、ジョンが書いたのが「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」で、ポールは逆説的に「WHEN I'M SIXTY-FOUR」を引っ張り出し、ジョンに対抗して「PENNY LANE」を書きました。更に、ジョンは「A DAY IN THE LIFE」となる楽曲の中間部がない状態の曲を書いて、ポールの書いた別の曲が中間部に入りました。その段階でアルバムの方向性は見えてきたのですけれど、EMIパーロフォンはしばらく新曲のリリースがなかったビートルズがレコーディングをやっていると知ったので、シングルを要請して、アルバムから先出しするカタチで、両A面シングル「STRAWBERRY FIELDS FOREVER / PENNY LANE」をリリースする事になってしまったのです。アルバムの核となる2曲が先出しになったところで、ポールが「SGT. PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND」を書いて、アルバムのコンセプトも架空のバンド「SGT. PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND」による架空のライヴと、方向転換する事となりました。おそらく、その時点でジョンは投げやりになったと思われ、アルバム「SGT. PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND」は、ポール・マッカートニーとサー・ジョージ・マーティンとジェフ・エメリックによるアルバムへと向かっていったのでしょう。2025年の現在でも史上最強のシングルと称されるシングル「STRAWBERRY FIELDS FOREVER / PENNY LANE」は、その制作過程も特殊でした。
そんなシングル「STRAWBERRY FIELDS FOREVER / PENNY LANE」に特化したブートレグもリリースされていて、今回は「SECRET TRAX」からのCD2枚組のアルバム「STRAWBERRY LANE」を紹介いたします。お馴染みのレコーディング・セッションを隈なく収録するシリーズの1作ですけれど、内容は、CD1が、1〜39「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」、40「PENNY LANE」、41(シークレット・トラック)「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」の全41トラック入りで、CD2が、1〜2「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」、3〜7「PENNY LANE」、8〜12「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」、13〜16「PENNY LANE」、17〜19「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」、20「PENNY LANE」、21〜22「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」、23「PENNY LANE」、24(シークレット・トラック)「RELEASE ME」の、全24トラック入りで、合計65トラック入りです。つまり、全てが「STRAWBERRY FIELDS FOREVER / PENNY LANE」の2曲だけのCD2枚組のアルバムなのです。特に「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」は、異なる2テイクを繋いで1曲にしているので、その特異なレコーディング過程の全貌が聴けます。CD1の1〜25「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」は、ジョンによるデモ音源で、ジョンは推敲をして曲を書く人なので、楽曲が変化してゆく様子が分かって面白いのです。コレがポールだと、一筆書きで書いてしまうので、最初から完成形が出来ています。
26〜39、41は「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」のレコーディング・セッションで、最初のバンド・アレンジのテイクと、管弦楽をバックにしたリメイクが両方共に聴けます。最終的には、この異なる2テイクをひとつにして完成させているのですけれど、サー・ジョージ・マーティンがジョンの要望に「テンポもキーも違うのだから、そんな事は無理だ」と云ったら、ジョンは「キミなら出来るさ」と返して実現したのです。40「PENNY LANE」は、オーバーダビング・セッションです。CD2の1〜2「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」は、完成形の前の別テイク(「take 7」と「take 26」)が別々にミックスされています。3〜7「PENNY LANE」も、初期のミックスです。8〜12「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」は、様々な別ミックスを聴く事が出来ます。13〜16「PENNY LANE」も、別ミックス集です。17〜19「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」と、20「PENNY LANE」はジョン・バレット・リミックスで、21〜22「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」と、23「PENNY LANE」は、公式盤「ANTHOLOGY 2」に収録された色々なテイクを合体させたリミックスです。この最強シングルは両A面で支持が二つに割れた事もあって、全英チャートでは2位止まりでした。全米チャートでは「PENNY LANE」が首位!で、「STRAWBERRY FIELDS FOREVER」が8位となっています。最後の24(シークレット・トラック)は、サー・ジョージ・マーティンが、その時に全英首位!だったエンゲルベルト・フンパーディンクの「RELEASE ME」をBGMに「こんな曲のせいで全英首位!になれなかったよ」と恨み節を語っています。
(小島イコ)
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