nana.812.png

2025年06月20日

「ポールの道」#765「THE BEATLES BLACK VOX」
#074「CHET ATKINS PICKS ON THE BEATLES」

chetatkins.jpg


ビートルズは英国パーロフォンから、1966年8月5日に7作目のオリジナル・アルバム「REVOLVER」をリリースして、その内容は当時はライヴでは再現不可能なレコーディングとなっていました。ウイングスやソロでのポール・マッカートニーは、自分が主導で書いたレノン=マッカートニー作品(「ELEANOR RIGBY」、「HERE, THERE AND EVERYWHERE」、「GOODDAY SUNSHINE」、「FOR NO ONE」、「GOT TO GET YOU INTO MY LIFE」)を、ホーン・セクションやシンセサイザーを駆使してライヴで披露しているし、ジョージ・ハリスンは1991年の来日公演でエリック・クラプトンのバンドをバックに「I WANT TO TELL YOU」と「TAXMAN」を演奏してくれたし、リンゴ・スターもオールスター・バンドで「YELLOW SUBMARINE」をハンドマイク片手にタコ踊りしながら歌っていますが、1966年当時のビートルズのライヴは、ジョン、ポール、ジョージ、リンゴの4人だけで行っていたわけで、それで例えば「TOMORROW NEVER KNOWS」をライヴ演奏するなんて事は有り得なかったわけです。既にアルバム「REVOLVER」のレコーディング・セッションが終了後に、ビートルズは最初で最後の来日公演を行っていて、そのライヴで披露したアルバム「REVOLVER」のセッションでレコーディングした曲は、先行シングルの「PAPERBACK WRITER」だけでした。いや、逆に、よく複雑な「PAPERBACK WRITER」をセットリストに入れたと思います。

武道館で行われた来日公演のセットリストは、1「ROCK AND ROLL MUSIC」、2「SHE'S A WOMAN」、3「IF I NEEDED SOMEONE」、4「DAY TRIPPER」、5「BABY'S IN BLACK」、6「I FEEL FINE」、7「YESTERDAY」、8「I WANNA BE YOUR MAN」、9「NOWHERE MAN」、10「PAPERBACK WRITER」、11「I'M DOWN」の、全11曲で、この構成は日本だけではなく、世界各地でも同じ様な全11曲のパッケージ・ショーとして行われていました。既にアルバム「REVOLVER」で新たな路線に突入していたビートルズにとって、毎日毎晩かつてのヒット曲を演奏するだけのツアーには飽き飽きしていたし、更にレコーディングに没頭したかったし、ジョンの「キリスト発言」などでアンチによる殺害予告が起こるなど身の危険も感じていたので、1966年8月29日のキャンドル・スティック・パークでのサンフランシスコ公演を最後に、ビートルズはライヴ活動を辞めてしまいます。ベスト・アルバム「THE BEATLES 1962-1966(赤盤)」と「THE BEATLES 1967-1970(青盤)」は、丁度ライヴ活動もやっていた時期と、レコーディング限定のバンドになった時期とで分かれています。アルバム「REVOLVER」が凄いところは、まだその時期にビートルズはライヴ・ツアーも行っていたので、レコードとライヴでは全く違ったバンドが並行して存在していた事実です。つまり、ビートルズはライヴを辞めてからアルバム「REVOLVER」を制作したのではなく、アルバム「REVOLVER」をリリースしてからライヴを辞めたのです。

さて、そんなビートルズの楽曲は、現役時代の1960年代から、2025年の現在まで、数多くのカヴァーが生まれています。「赤盤」時代が終わったので、そんなカヴァー・アルバムを取り上げてみます。今回紹介するのは、1966年3月にRCAからリリースされた、チェット・アトキンスのアルバム「CHET ATKINS PICKS ON THE BEATLES」です。1966年3月ですから、ビートルズはアルバム「REVOLVER」のレコーディング・セッション(1966年4月6日〜6月21日)に入る直前と云う時期です。内容は、A面が、1「I FEEL FINE」、2「YESTERDAY」、3「IF I FELL」、4「CAN'T BUY ME LOVE」、5「I'LL CRY INSTEAD」、6「THINGS WE SAID TODAY」で、B面が、1「A HARD DAY'S NIGHT」、2「I'LL FOLLOW THE SUN」、3「SHE'S A WOMAN」、4「AND I LOVE HER」、5「MICHELLE」、6「SHE LOVES YOU」の、全12曲入りです。全てがインストゥルメンタル曲にアレンジされていて、チェット・アトキンスがギターを弾いて、チャーリー・マッコイがハーモニカで参加しています。チェット・アトキンスは、カントリー系のギタリストですが、エルヴィス・プレスリーの「HEARTBREAK HOTEL」や「HOUND DOG」のバックでもリズム・ギターを弾いていて、エヴァリー・ブラザーズのセッションにも参加しているので、その辺からビートルズはチェット・アトキンスに興味を持ったのでしょう。チェット・アトキンスは、まるで2本のギターで多重録音した様に、1本のギターで弾いてしまうのです。実際に、ライヴで異なる2曲をリクエストされたら、同時に2曲を弾いたそうです。

特に影響を受けたのがジョージ・ハリスンで、ポール主導で書いた初期のレノン=マッカートニー作品「ALL MY LOVING」の間奏でのリード・ギターは「チェット・アトキンス奏法」と解説されていて、最初は、それは一体何なのか?と思ったものです。つまり、ジョージがチェット・アトキンスのギターをマネして弾いているから「チェット・アトキンス奏法」なのです。そんなビートルズにパクられた本人が、ビートルズが人気絶頂期に全曲をレノン=マッカートニー作品で固めたカヴァー・アルバムを逆にリリースしてしまったのが、このアルバム「CHET ATKINS PICKS ON THE BEATLES」です。このカヴァー・アルバムを出した時のチェット・アトキンスは41歳の大ベテランで「ミスター・ギター」と称される大御所だったわけですけれど、裏ジャケットでビートルズ・カットのカツラを被って笑っていたりして、冗談が通じる大人のギタリストでした。そして、このアルバム「CHET ATKINS PICKS ON THE BEATLES」には、ジョージ・ハリスン本人による熱烈な推薦文が寄せられています。インストゥルメンタル曲に関しては、日本では大瀧師匠も語っていた通り、歌モノよりも下に思われている傾向もありますけれど、そもそも日本でのエレキ・ブームはインストゥルメンタル曲のヴェンチャーズが発端ですし、細野さんが売れたのもインストゥルメンタル曲中心だった「YMO」だったし、大瀧師匠もオーケストラによるインストゥルメンタル曲にも拘ったので、実は日本人はインストゥルメンタル曲が好きなのです。

さて、本日6月20日は、先日亡くなったブライアン・ウィルソンが83歳のお誕生日を迎えるはずでした。そう云えば、アルバム「PET SOUNDS」にも2曲インストゥルメンタル曲が収録されていて、アレが効いています。何せ、タイトル曲がインストゥルメンタル曲です。

(小島イコ)

posted by 栗 at 23:00| FAB4 | 更新情報をチェックする