
2022年10月28日に、公式盤「REVOLVER」がリリースされました。それは、CD5枚組の箱と、2CDと、1CDと、4LP+1EPと、1LPと、1LPピクチャー・ディスクの6形態で、それまでの箱に入っていたブルーレイがなくなっています。6形態全てに共通しているのは、ジャイルズ・マーティンとサム・オケルによるアルバム「REVOLVER」の最新ステレオ・リミックス盤です。1CDや1LPの通常盤もそのステレオ・リミックスが収録されているので、コレ以降は2022年ステレオ・リミックスがレギュラーとなりました。2023年リリースのベスト・アルバム「THE BEATLES 1962-1966(赤盤)」の新装拡大盤にも、アルバム「REVOLVER」からの7曲と同時期のシングル「PAPERBACK WRITER」を加えた8曲は、全て2022年ステレオ・リミックスが収録されています。市場には、1987年の初CD(ステレオ)と、2009年リマスター(ステレオと箱でモノラル)と、この2022年ステレオ・リミックス(箱でモノラル)が出回っているのですけれど、普通に考えて新しいヴァージョンがより多く出ているわけで、2025年の現在、最も入手し易く、かつ多く聴かれているのは、2022年ステレオ・リミックスであると考えても宜しいかと存じます。2009年リマスターとは、ステレオ・リミックスに関しては全くの別物ですし、箱に収録されているモノラル・マスターも、2009年モノラル・リマスターとは違っています。ジャイルズ・マーティンとサム・オケルは、オリジナル・モノラル・ミックスが1966年当時にビートルズやサー・ジョージ・マーティンやジェフ・エメリックたちが意図した音源だと考えて、ソレをステレオ化したのが2022年ステレオ・リミックスだと云っています。
2022年ステレオ・リミックスは、例えば最初の「TAXMAN」のイントロで聴こえていたノイズを除去していたり、「ELEANOR RIGBY」の出だしでのヴォーカルをミキシングでミスした部分を修正されていたり、全体的にヴォーカルとドラムスをセンターにしているものの、「HERE, THERE AND EVERYWHERE」ではポールのダブルトラック・ヴォーカルがセンター寄りの左右にしていたり、色々と工夫しています。が、しかし、当然ながら1966年ステレオ・ミックスとも、1987年旧CDとも、2009年リマスターとも、違っているステレオ・リミックスです。箱の内容は、CD1が2022年ステレオ・リミックス全14曲、CD2がセッション音源全14テイク、CD3がセッション音源全17テイク、CD4がオリジナル・モノラル・マスター、CD5がシングル「PAPERBACK WRITER / RAIN」の2022年ステレオ・リミックスと1966年オリジナル・モノラル・リマスター全4テイクです。コレはですね、4LP+1EPのアナログ盤の箱と同内容なのです。つまりですね、CDだったら2枚半位で入ってしまう音源を5枚に分けて収録しているのです。ブルーレイだったら、軽く1枚に入る内容です。この「REVOLVER」2022年ヴァージョンは、アナログ盤のフォーマットを意識している構成となっていて、5CDの箱を買うと、何だか損をした気分になりました。特にCD5は、アナログ盤EPと同じで4曲しか入っていなくて、コレは2021年の箱「LET IT BE」から始まった姑息な売り方です。2CDヴァージョンでは、CD1が2022年ステレオ・リミックスで、CD2が「PAPERBACK WRITER / RAIN」のステレオ・リミックスにセッション音源ダイジェストを加えた全15曲入りです。
箱のCD1とCD4は、1「TAXMAN」、2「ELEANOR RIGBY」、3「I'M ONLY SLEEPING」、4「LOVE YOU TO」、5「HERE, THERE AND EVERYWHERE」、6「YELLOW SUBMARINE」、7「SHE SAID, SHE SAID」、8「GOODDAY SUNSHINE」、9「AND YOUR BIRD CAN SING」、10「FOR NO ONE」、11「DOCTOR ROBERT」、12「I WANT TO TELL YOU」、13「GOT TO GET YOU INTO MY LIFE」、14「TOMORROW NEVER KNOWS」全14曲で、CD1は2022年ステレオ・リミックスなのですけれど、CD4は1966年オリジナル・モノラル・マスターです。コレがですね、オリジナル・モノラル・マスターと謳っているだけはあって、2009年の箱「THE BEATLES IN MONO」に収録されているモノラル・リマスターとは明らかに違っています。2009年から2022年までの間に13年も経っているので、CDでの再現度も向上してはいるのでしょうけれど、それ以前にリマスター作業の方向性とやり方が違っているのでしょう。何やら最近「THE BEATLES IN MONO」のアナログ盤の箱を再発するらしく、アナログ盤がブームになっているわけですが、アレは2009年モノラル・リマスターであって、元々の1960年代のアナログ・モノラル盤とは別物なので、購入するのならば覚悟した方が良いですよ。そのオリジナル・モノラル・マスターは、前述の通り、ジャイルズ・マーティンとサム・オケルがお手本にしたと発言しているのに、5CDか4LP+1EPの箱を買わなければ聴けません。コレは些か本末転倒で、せめて2CDヴァージョンはステレオ・リミックスとオリジナル・モノラル・マスターの2枚組にすべきだったと思います。
CD3とCD4のセッション音源は、CD3が、1〜2「TOMORROW NEVER KNOWS」、3〜5「GOT TO GET YOU INTO MY LIFE」、6〜8「LOVE YOU TO」、9「PAPERBACK WRITER」、10〜11「RAIN」、12「DOCTOR ROBERT」、13〜14「AND YOUR BIRD CAN SING」の、全14テイク入りです。CD4が、1「AND YOUR BIRD CAN SING」、2「TAXMAN」、3〜6「I'M ONLY SLEEPING」、7〜8「ELEANOR RIGBY」、9「FOR NO ONE」、10〜13「YELLOW SUBMARINE」、14「I WANT TO TELL YOU」、15「HERE, THERE AND EVERYWHERE」、16〜17「SHE SAID, SHE SAID」の、全17テイク入りです。繰り返しますが、CD5は、1「PAPERBACK WRITER」、2「RAIN」、3「PAPERBACK WRITER」、4「RAIN」の4曲入りで、それぞれの2022年ステレオ・リミックスと1966年オリジナル・モノラル・リマスターとなっています。ソレが、2CDヴァージョンだと、CD1が2022年ステレオ・リミックス全14曲で、CD2が、1「PAPERBACK WRITER」、2「RAIN」、3「TOMORROW NEVER KNOWS」、4「GOT TO GET YOU INTO MY LIFE」、5「LOVE YOU TO」、6「DOCTOR ROBERT」、7「AND YOUR BIRD CAN SING」、8「TAXMAN」、9「I'M ONLY SLEEPING」、10「ELEANOR RIGBY」、11「FOR NO ONE」、12「YELLOW SUBMARINE」、13「I WANT TO TELL YOU」、14「HERE, THERE AND EVERYWHERE」、15「SHE SAID, SHE SAID」の、全15曲入りで、「PAPERBACK WRITER / RAIN」の2022年ステレオ・リミックスに、セッション音源のダイジェストを加えたカタチになっています。
箱のCD3は、1「TOMORROW NEVER KNOWS」が1996年の公式盤アルバム「ANTHOLOGY 2」に収録されたのと同じテイク1で、2「TOMORROW NEVER KNOWS」は英国初回モノラル盤に収録されてしまった別モノラル・ミックスです。音源だけ聴きたいのならば、この箱を買った方が英国初回モノラル盤を買うよりもお手軽でしょう。3〜5「GOT TO GET YOU INTO MY LIFE」は、公式盤「ANTHOLOGY 2」に収録された初期ヴァージョン(アレよりも長いテイク)から、完成形のホーン・セクション入りまでの制作過程が分かります。6〜8「LOVE YOU TO」も、デモ音源からリハーサル音源を経て完成形までの過程が聴けます。9「PAPERBACK WRITER」は演奏のみの初期テイクで、10と11「RAIN」も演奏のみながら、ジェフ・エメリックの提案でテープ・スピードを上げて速弾きで演奏したテイクと、それを逆にスピードを落としてスローテンポなテイクにした両方共に聴けます。スローテンポにした完成形でもポールのベースが速弾きなのに、実際にレコーディングした時には更に速くて、テケテケ・ベースになっています。12「DOCTOR ROBERT」は完成テイクですが、レコードよりも長いヴァージョンです。13〜14「AND YOUR BIRD CAN SING」の初期テイクで、ジョンとポールが何かキメているのか、ゲラゲラ笑って歌えなくなっています。CD4の1「AND YOUR BIRD CAN SING」は、より完成形に近くなっていますが、間奏でギターがハモっているところで3声コーラスが入っていて、コレはコレでイイ感じです。2「TAXMAN」は、アルバム「ANTHOLOGY 2」に収録されたのと同じテイクです。
3〜6「I'M ONLY SLEEPING」は、リハーサル音源から別テイクを経て、別モノラル・ミックスまでたっぷりと聴けます。7〜8「ELEANOR RIGBY」は、サー・ジョージ・マーティンが指揮する弦楽八重奏による演奏で、この曲ではポールが歌いジョンとジョージがコーラスを入れているだけで、ビートルズは演奏していません。9「FOR NO ONE」も演奏のみですが、こちらはポールのピアノ&クラヴィコードと、リンゴのドラムス&マラカスです。10〜13「YELLOW SUBMARINE」は、この箱で最も驚いた音源で、まず、ジョンがAメロをギターの弾き語りで歌っていて、ソレにポールがコーラス部分を書き足してジョンが歌っていて、リンゴの歌になる過程が記録されています。この「YELLOW SUBMARINE」はポールが主導で書かれたと云う間違った見解がずっと書かれて来たのですけれど、この箱で本当のレノン=マッカートニーによる合作だったと証明されたのです。コレでおかしいのは、生前のジョンは「合作だ」と云っていたのに、評論家たちはそのジョンの発言を無視して、勝手に「ポール作」と決めつけていたのです。こうしてジョンが歌っている音源が出て来て、アノ阿呆どもはどんな気分なんでしょうなあ。14「I WANT TO TELL YOU」は、出だしでまだ決まっていない曲名をコールする部分が面白く、15「HERE, THERE AND EVERYWHERE」は美しい別テイクで、16〜17「SHE SAID, SHE SAID」はジョンによるデモと、演奏のみのリハーサル音源で、こちらでは明らかにポールがベースを弾いているでしょう。
この「SHE SAID, SHE SAID」は、レコーディング途中でジョンとポールがアレンジで口論になって、ポールが完成前に帰ってしまったので、ポール自身が「僕は先に帰ったから参加していない、ベースはジョージが弾いていると思う」と発言していたのですけれど、ベーシック・トラックでベースを弾いているのはポールでした。当のメンバーであるジョンやポールやジョージの発言ですら当てにならないし、リンゴは多分何も覚えていない(実際に、ジョージがアルバム「ALL THINGS MUST PASS」の記念盤をリリースする時に、参加ミュージシャンの回想を掲載しようとしたら、リンゴが何も覚えていなくて断念した)ので、あやふやな説を唱えるのも考え物です。このセッション音源は、レコーディング順に収録されていて、最初が「TOMORROW NEVER KNOWS」から始まっている事や、次の初期テイクの「GOT TO GET YOU INTO MY LIFE」も完成形よりもずっとサイケデリックなアレンジで演奏されていて、3曲目がインド音楽に大胆に接近した「LOVE YOU TO」だった事などから、元々ライヴで再現する事など念頭に置いていなかったと思われます。不可思議なのは、米国キャピトル編集アルバム「YESTERDAY AND TODAY」に先出しされた3曲が、先にレコーディングした曲ではなかったと云う点です。まあ、いきなり「TOMORROW NEVER KNOWS」とか「LOVE YOU TO」とかを先出しされても、米国キャピトルも困ったちゃんになったでしょうけれどね。
さて、本日(6月18日)はサー・ポール・マッカートニーの83歳のお誕生日です。流石に声は衰えていますが、演奏能力は逆に上手くなっている気もしますので、まだまだ頑張って頂きたいです。
(小島イコ)
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