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2025年06月17日

「ポールの道」#762「THE BEATLES BLACK VOX」
#071「REVOLVER AI AUDIO COMPANION」

リボルバー


ビートルズの音源は、1987年から1988年にかけて初CD化された際に、初期の4作アルバム(「PLEASE PLEASE ME with Love Me Do and 12 other songs」、「WITH THE BEATLES」、「A HARD DAY'S NIGHT」、「BEATLES FOR SALE」)はモノラルで、アルバム「HELP!」とアルバム「RUBBER SOUL」はサー・ジョージ・マーティンがリミックスしたステレオで、その後のアルバム(「REVOLVER」、「SGT. PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND」、「THE BEATLES(ホワイト・アルバム)」、「YELLOW SUBMARINE」、「ABBEY ROAD」、「LET IT BE」)と米国キャピトル編集アルバム「MAGICAL MYSTERY TOUR」はオリジナル・ステレオで、アルバム未収録曲は編集アルバム「PAST MASTERS」で基本的にはステレオで、全世界統一規格化されました。それが22年位放って置かれて、2009年9月9日にステレオとモノラルがリマスターされました。リマスターするのにもそんなに時間が経っていて、その間の1994年にはスタジオ・ライヴ「LIVE AT THE BBC」や、1995年から1996年にかけてのボツ音源集「ANTHOLOGY」がリリースされたり、2004年と2006年に米国キャピトル編集アルバム8作(「MEET THE BEATLES!」、「THE BEATLES' SECOND ALBUM」、「SOMETHING NEW」、「BEATLES ’65」、「THE EARLY BEATLES」、「BEATLES Y」、「HELP!」、「RUBBER SOUL」)がステレオとモノラルでリリースされたりして、特に新たに増えた若いファンは混乱したと思います。

リマスターした事が大騒ぎになった位なので、ビートルズの音源をリミックスするなんて以ての外となっていたのですが、そもそも初CD化の際もアルバム「HELP!」とアルバム「RUBBER SOUL」はサー・ジョージ・マーティンがリミックスしていて、2009年リマスターもその2作は1987年リミックス音源を元にしています。つまり、サー・ジョージ・マーティンがやる分には良いと云う事になっていました。ところが、1999年にピーター・コビンによってリミックスされた編集アルバム「YELLOW SUBMARINE SONGTRACK」が登場して、賛否両論となったのです。2003年のリミックス・アルバム「LET IT BE... NAKED」も、ちっとも裸じゃない盛大なるリミックス音源で肯定的な意見はなかったのですけれど、2006年には遂にマッシュアップしたアルバム「LOVE」が登場して、しかもサー・ジョージ・マーティンと息子のジャイルズ・マーティンが手掛けた事で、いよいよ「ビートルズの音源に手を加えても良い」事となりました。サー・ジョージ・マーティンは既に聴覚が衰えていて引退状態だったので、主にジャイルズ・マーティンが行ったのでしょうけれど、つまり、マッシュアップ盤「LOVE」は、サー・ジョージ・マーティンから後継者であるジャイルズ・マーティンへの継承式の様な作品だったのでしょう。サー・ジョージ・マーティンは2016年3月8日に90歳で亡くなっていますが、遺作はその2006年のアルバム「LOVE」です。

サー・ジョージ・マーティンが存命中の2015年に、ジャイルズ・マーティンはビートルズの一家に一枚のベスト・アルバム「1」をリミックスしていて、それでゴー・サインが出たのか、2017年からは本格的にビートルズのアルバムを、エンジニアのサム・オケルと共にリミックスしてゆく事となりました。2017年の箱「SGT. PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND」、2018年の箱「THE BEATLES」、2019年の箱「ABBEY ROAD」、2020年はコロナ禍で中断し、2021年の箱「LET IT BE」と、50周年記念盤をリリースして、2022年には遡って箱「REVOLVER」、2023年にはベスト・アルバム「THE BEATLES 1962-1966(赤盤)」と「THE BEATLES 1967-1970(青盤)」の新装拡大盤とつづいています。特に、2022年の箱「REVOLVER」からは、リミックスするだけではなくデミックスも行っていて、それは「AI」を使ってマスターテープの音源を歌や楽器ごとに抽出する技術を駆使しているのです。それによって、例えばモノラル音源しかないリンゴ版「LOVE ME DO」や「SHE LOVES YOU」と云った楽曲が、見事にステレオ・リミックスされていたりもします。その反面、聴き慣れたオリジナル・ステレオ・ミックスとは明らかに違うステレオ・リミックスになっている曲もあって、ソレは違うんじゃないか、と云うオールド・ファンの声も聞かれます。

今回紹介するのは、2021年に「Superb premium」からリリースされたCD2枚組のアルバム「REVOLVER AI AUDIO COMPANION」です。この「Superb premium」からは、2024年にジョン・レノンのソロ・アルバム「MIND GAMES AI AUDIO COMPANION」も出ていて、ソレが公式盤の箱よりも良い内容だったので、ビートルズのアルバムも何作も出しているから、試しに「REVOLVER」を中古盤で買ったのです。2021年リリースなので、公式盤の箱「REVOLVER」よりも1年早く出ていて、内容は「なんちゃってデミックス」です。CD1もCD2も、1&15「TAXMAN」、2&16「ELEANOR RIGBY」、3&17「I'M ONLY SLEEPING」、4&18「LOVE YOU TO」、5&19「HERE, THERE AND EVERYWHERE」、6&20「YELLOW SUBMARINE」、7&21「SHE SAID, SHE SAID」、8&22「GOODDAY SUNSHINE」、9&23「AND YOUR BIRD CAN SING」、10&24「FOR NO ONE」、11&25「DOCTOR ROBERT」、12&26「I WANT TO TELL YOU」、13&27「GOT TO GET YOU INTO MY LIFE」、14&28「TOMORROW NEVER KNOWS」の、全28曲の合計56曲入りです。つまり、アルバム「REVOLVER」全14曲が4回繰り返し収録されていて、シングル「PAPERBACK WRITER / RAIN」などのボーナス・トラックは一切入っておりません。

内容は、CD1の1〜14は「AI」によるデミックス音源で、公式盤のデミックスとは当然ながら違っていて、センターに位置するヴォーカルやコーラスが前に出ていて、例えば「ELEANOR RIGBY」などは、ポールのリード・ヴォーカルだけではなく、ジョンとジョージによるコーラスもハッキリと聴こえて、本当にジョンとジョージも歌っていると分かります。昔、コレを全てポールによる多重録音だ、などと書いていた評論家がいたのですけれど、困ったちゃんですなあ。CD1の15〜28の方は「NAKED VOCAL」と題した、よりヴォーカルを前に出したデミックス音源になっているのですけれど、ヴォーカルを前に出したと云うよりも、演奏を下げた印象で、今ひとつな出来栄えになっています。CD2の1〜14は、オリジナル・アナログ・ステレオ・ミックスです。何だ、オリジナルかよ、と思われるでしょうけれど、2022年の公式盤の箱やバラ売りされているのは2022年ステレオ・リミックスなのです。確かに、1987年の旧CDや、2009年リマスターCDは、オリジナル・ステレオ・ミックスですけれど、2025年の現在、市場に出ているのは2022年ステレオ・リミックスですし、2023年の「THE BEATLES 1962-1966(赤盤)」の新装拡大盤に収録されているアルバム「REVOLVER」からの7曲は、全て2022年ステレオ・リミックスなのです。

ジョンの公式盤アルバム「MIND GAMES」の箱や通常盤では、アウトテイク集を除く全てが「ステレオ・リミックス」や「なんちゃってリミックス」になっていて、オリジナル・ステレオ・ミックスにはあった楽器が入っていないなどと云う、ジョンが生きていたら有り得なかった様なカタチでリリースされていて、そりゃあ、ないでしょう、となったのです。ソレがですね、「Superb premium」からのアルバム「MIND GAMES AI AUDIO COMPANION」にはオリジナル・ステレオ・ミックスも入っていたし、公式盤では面倒な手順を踏まないと聴けないボーナス・トラックも普通に聴けるのですよ。ですから、こっちでも「なんちゃってデミックス」3種の他にオリジナル・ステレオ・ミックスが入っているのは良かったです。CD2の15〜28は、なんちゃってデミックスによるアルバム「REVOLVER」全14曲のカラオケです。コレも「MIND GAMES AI AUDIO COMPANION」にも同じ様に入っていて、あっちは元々のレコーディングが良いのか、見事なカラオケになっていました。それでこっちも期待したのですけれど、ところどころヴォーカルが残ってしまっていて、完璧なカラオケにはなっていません。その辺は、プロと素人の違いが出ている感じはします。と云うか、このカラオケもどき音源は、聴いていてかなり「気持ち悪い」です。このシリーズはビートルズの他のアルバムも出ているのですけれど、このアルバム「REVOLVER」の出来栄えからすると、他も期待出来ないです。

(小島イコ)

posted by 栗 at 23:00| FAB4 | 更新情報をチェックする