
1966年のビートルズには、逆風が吹いていました。1966年3月に、ジョン・レノンが気心が知れた英国のコラムニストのモーリン・クリーヴに話した「今はビートルズがキリストよりも人気がある」と云う発言が英国の雑誌に掲載されて、それを切り取られて米国の雑誌に掲載されました。それで、米国ではジョンがキリストを冒涜したと受け取られて、ビートルズのレコードやグッズを割ったり焼いたりする反ビートルズ運動が起きて、それをラジオでDJが扇動したりもして、今で云う「炎上」騒ぎとなったのです。そればかりか、ビートルズの殺害予告まで出て、マネジャーのブライアン・エプスタインが釈明しても騒動は収まらず、遂にはジョンが釈明会見をする事態にまで発展します。米国公演では、一部で空席が出る様にもなりました。そんな中で、1966年6月にビートルズは初来日公演を行うのですけれど、会場をロック・コンサートでは初となる武道館にした事で、右翼団体による抗議運動が起きて、ビートルズはホテルに缶詰め状態となりました。更に、その後のフィリピン公演では、大統領夫人による歓迎会をビートルズが辞退した事で国民の反感を買ってしまい、空港で包囲される事態ともなりました。そもそも30分強のパッケージ・ショーとなっていたコンサートに対してビートルズは飽き飽きしていたところに、世界各地で身の危険を感じる様な事件が立て続けに起きた為に、1966年8月29日のキャンドル・スティック・パークでのサンフランシスコ公演を最後に、ビートルズはライヴ活動を辞めてしまったのです。
ビートルズがライヴ活動を辞めたのは、前述の通り命の危機を感じていた事もありましたが、1966年4月から6月にかけてレコーディングして1966年6月10日にリリースしたシングル「PAPERBACK WRITER / RAIN」と、1966年8月5日にリリースした7作目のオリジナル・アルバム「REVOLVER」で、既にライヴ演奏を前提としていないレコーディングを敢行していた事も理由のひとつでした。弦楽八重奏だけをバックにしてビートルズは歌だけで演奏はしていない「ELEANOR RIGBY」や、逆回転ギターが使われていて通常の演奏では再現不可能な「I'M ONLY SLEEPING」や、インド楽器を大胆に導入した「LOVE YOU TO」や、効果音を多用してメンバー以外も含めた合唱がサビの「YELLOW SUBMARINE」や、ホーン・セクションを使った「GOT TO GET YOU INTO MY LIFE」や、テープ・ループを多用した「TOMORROW NEVER KNOWS」や、実際の演奏をスピードを落として逆回転も用いた「RAIN」等々、端からライヴ演奏する事など考えていなかった楽曲ばかりが収録されています。ポールはベースだけではなく、ギターやピアノも弾く様になりました。エンジニアが40代のベテランだったノーマン・スミスから、19歳の若造だったジェフ・エメリックに交代したのも大きくて、ビートルズ(特にジョン)が考えている音響を具現化する様になっています。つまり、自分たちよりも年下で、何でも云う事を聞くジェフ・エメリックがエンジニアになったので、ビートルズはやりたい放題となったのです。
さて、今回はそんなアルバム「REVOLVER」のレコーディング・セッションから生まれた別テイクや別ミックスを集めた、「JPGR」からのCD2枚組のアルバム「REVOLVER SOME PROJUCT」を紹介します。内容は、CD1が、1「TAXMAN」、2「ELEANOR RIGBY」、3「I'M ONLY SLEEPING」、4「LOVE YOU TO」、5「HERE, THERE AND EVERYWHERE」、6「YELLOW SUBMARINE」、7「SHE SAID, SHE SAID」、8「GOODDAY SUNSHINE」、9「AND YOUR BIRD CAN SING」、10「FOR NO ONE」、11「DOCTOR ROBERT」、12「I WANT TO TELL YOU」、13「GOT TO GET YOU INTO MY LIFE」、14「TOMORROW NEVER KNOWS」、15「MELLOTRON IMPROVISATION」、16「PAPERBACK WRITER」、17「RAIN」、18「ELEANOR RIGBY」、19「RAIN」、20「JESUS AFFAIR PRESS CONFERENCE」の、全20トラック入りです。1「TAXMAN」は1996年の公式盤アルバム「ANTHOLOGY 2」に収録された別テイクで、2「ELEANOR RIGBY」は2006年の公式マッシュアップ盤「LOVE」からの別ミックスで、3「I'M ONLY SLEEPING」は米国キャピトル盤のモノラル・ミックスで、4「LOVE YOU TO」は別テイクで、5「HERE, THERE AND EVERYWHERE」と6「YELLOW SUBMARINE」は1996年のシングル「REAL LOVE」にカップリングされていた別ステレオ・ミックスで、7「SHE SAID, SHE SAID」は米国キャピトル盤モノラル・ミックスです。ここまでが、レコードだとA面です。
8「GOODDAY SUNSHINE」は米国キャピトル盤モノラル・ミックスで、9「AND YOUR BIRD CAN SING」は別テイクで、10「FOR NO ONE」は映像版「ANTHOLOGY」からで、11「DOCTOR ROBERT」は別ミックスで、12「I WANT TO TELL YOU」は別ステレオ・ミックスで、13「GOT TO GET YOU INTO MY LIFE」は米国キャピトル盤モノラル・ミックスで、14「TOMORROW NEVER KNOWS」は公式盤「ANTHOLOGY 2」からです。ここまでが、レコードだとB面です。15「MELLOTRON IMPROVISATION」はジョンが自宅でメロトロンで遊んでいる音源で、早くも後の「REVOLUTION 9」を思わせます。16「PAPERBACK WRITER」は別テイクで、17「RAIN」は映像版「ANTHOLOGY」の別ステレオ・ミックスで、18「ELEANOR RIGBY」はポールによるデモ音源で、19「RAIN」は1988年の公式盤アルバム「PAST MASTERS」でのステレオ・ミックスです。最後の20「JESUS AFFAIR PRESS CONFERENCE」はですね、前述の「キリスト発言」のジョンによる釈明会見の音源です。時系列的にも、アルバム「REVOLVER」の頃なので、ここに入れたのでしょう。
CD2は、1「TAXMAN」、2「ELEANOR RIGBY」、3「I'M ONLY SLEEPING」、4「LOVE YOU TO」、5「HERE, THERE AND EVERYWHERE」、6「YELLOW SUBMARINE」、7「SHE SAID, SHE SAID」、8「GOODDAY SUNSHINE」、9「AND YOUR BIRD CAN SING」、10「FOR NO ONE」、11「DOCTOR ROBERT」、12「I WANT TO TELL YOU」、13「GOT TO GET YOU INTO MY LIFE」、14「TOMORROW NEVER KNOWS」、15「PAPERBACK WRITER」、16「RAIN」、17「HERE, THERE AND EVERYWHERE」、18「ELEANOR RIGBY / JULIA」、19「WITHIN YOU WITHOUT YOU」、20「PAPERBACK WRITER」の、全20トラック入りで、合計40トラック入りです。1「TAXMAN」はゲーム「ROCKBAND」を元にした別リミックスで、最初に普通のカウントが入っていて、レコードではポールが弾いた間奏のリード・ギターが最後にも入っていますが、それがなくて完奏しています。2「ELEANOR RIGBY」は映画「YELLOW SUBMARINE」のラフ・ミックスで、3「I'M ONLY SLEEPING」は「take 1」で、4「LOVE YOU TO」はベーシック・トラックで、5「HERE, THERE AND EVERYWHERE」は別ステレオ・ミックスで、6「YELLOW SUBMARINE」は「ROCKBAND」リミックスで、7「SHE SAID, SHE SAID」は「サイケデリック・ミックス」です。
8「GOODDAY SUNSHINE」はポールのヴォーカルを前面に出した別ミックスで、9「AND YOUR BIRD CAN SING」は別リミックスで、10「FOR NO ONE」は別ステレオ・ミックスで、11「DOCTOR ROBERT」は別テイクで、12「I WANT TO TELL YOU」は米国キャピトル盤モノラル・ミックスで、13「GOT TO GET YOU INTO MY LIFE」は公式盤アルバム「ANTHOLOGY 2」からで、14「TOMORROW NEVER KNOWS」はヴォイド・ミックスです。15「PAPERBACK WRITER」は公式盤アルバム「PAST MASTERS」からで、16「RAIN」は拡大版リミックスで、17「HERE, THERE AND EVERYWHERE」はモニター・ミックスで、18「ELEANOR RIGBY / JULIA」と19「WITHIN YOU WITHOUT YOU」は公式マッシュアップ盤「LOVE」からで、「WITHIN YOU WITHOUT YOU」は「TOMORROW NEVER KNOWS」のカラオケに「WITHIN YOU WITHOUT YOU」の歌を乗せたアレで、ジャイルズ・マーティンが最初にマッシュアップしたのがコレです。最後の「PAPERBACK WRITER」は日本公演からのライヴ音源で、日本の女の子も結構大きな声で声援していますけれど、海外では比較にならない程の大歓声で、ビートルズは自分たちの演奏も聴こえない状態で演奏していたらしいのです。ところが、日本では高圧的な警備もあってそこまでの大歓声とはならず、ビートルズは久しぶりに自分たちの演奏が聴こえて「コレじゃダメだ」となったのだそうです。
以上、このアルバム「REVOLVER SOME PRODUCT」は、アルバム「REVOLVER」全14曲と同時期のシングル「PAPERBACK WRITER / RAIN」の2曲を加えた全16曲の別テイクや別ミックスを、アルバムの曲順に2回並べて、ボーナス・トラックを加えた構成となっています。多くの音源は公式盤からのコピーで、ジョンの「キリスト発言」釈明会見も、確かテイチクから公式盤として発売されていたと思います。有名な米国キャピトル盤ミックスや、お馴染みの「ANTHOLOGY」での別テイクなども入れているのですけれど、例えばCD2の「RAIN」の様な、出処がよく分からない音源なども含まれているので、概ねパイレート盤と云えるでしょう。前作アルバム「RUBBER SOUL」は、全曲がラヴ・ソングで固めたトータル性がありました。このシングル「PAPERBACK WRITER / RAIN」とアルバム「REVOLVER」の計16曲では、ジョージの「TAXMAN」、ポールの「PAPERBACK WRITER」、ジョンの「DOCTOR ROBERT」と、特定の職業を題材にしていたり、ポールの「ELEANOR RIGBY」の様な個人名や、ジョンの「TOMORROW NEVER KNOWS」の様な哲学的な内容や、ジョンとポール(歌はリンゴ)の「YELLOW SUBMARINE」の様な寓話性があるものと、歌詞の内容が明らかに違ってきています。ジョンが6曲、ポールが6曲、ジョージが3曲、ジョンとポールでリンゴが歌う1曲と、パワーバランスも良く、クラウス・フォアマンによるジャケットも素晴らしい出来栄えで、近年に再評価されている名盤です。
(小島イコ)
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