
ジョン・レノンが、1974年9月26日(米国)・同年10月4日(英国)にアップルからリリースした4作目のソロ・アルバム「WALLS AND BRIDGES(心の壁、愛の橋)」の、B面3曲目に収録されているのが、「STEEL AND GLASS(鋼のように、ガラスの如く)」です。この楽曲は、ジョンが1971年にリリースしたアルバム「IMAGINE」に収録されているポール・マッカートニーを攻撃した「HOW DO YOU SLEEP?」と似ていて、ジョンが今度は悪徳マネジャーのアラン・クレインを攻撃して書いたと云われています。但し、冒頭で語られる「僕の友人の話、誰だろう?」と云うのはニルソンを指しているし、歌詞で「幼い頃に母を亡くした」と歌われる部分はジョンとポールに共通する体験に基づいていて、ジョンが自分の事を歌っているとも考えられます。とは云え、確かに誰かを攻撃している様に聴こえるので、やはりアラン・クレインに対する不満も歌い込まれているのでしょう。楽曲は、前述の通り「HOW DO YOU SLEEP?」に似ていて、ホーンやオーケストラを使ったアレンジも「HOW DO YOU SLEEP?」を思い起こさせます。
レコーディング・メンバーは、ジョン・レノン(ヴォーカル、アコースティック・ギター)、ニッキー・ホプキンス(ピアノ)、ジェシ・エド・デイヴィス(エレクトリック・ギター)、エディ・モトー(アコースティック・ギター)、ケン・アッシャー(クラビネット)、クラウス・フォアマン(ベース)、アーサー・ジェンキンス(パーカッション)、ジム・ケルトナー(ドラムス)、リトル・ビッグ・ホーンズ(ボビー・キーズ、スティーブ・マダイオ、ハワード・ジョンソン、ロン・アプレア、フランク・ヴィカーリ)(ホーン)の、「プラスティック・オノ・ニュークリア・バンド」です。アルバム「WALLS AND BRIDGES」のB面は、美しいポップ・ソングである「#9 DREAM」と、楽観的なラヴ・ソング「SURPRISE, SURPRISE(SWEET BIRD OF PARADOX)」と続くものの、この「STEEL AND GLASS」で一気にヘヴィーな内容に引き戻されていて、次のインストゥルメンタル曲「BEEF JERKY」を挟んで、最重要曲である「NOBODY LOVES YOU(WHEN YOU DOWN AND OUT)」へと進んでゆきます。そうした曲の配置も見事で、トータル・アルバムであると云えます。
「STEEL AND GLASS」は、ジョンの死後に1986年のアルバム「MENLOVE AVE.」にリハーサル音源が収録されて、そのリハーサルでは、ジェシ・エド・デイヴィス(ギター)、クラウス・フォアマン(ベース)、ジム・ケルトナー(ドラムス)の3ピース・バンドに、ジョンがピアノもしくはギターを弾いて歌っています。こうしたヘヴィーな楽曲でも、必要最小限の音で表現出来たジョンは、やはり「天才」です。アルバム「MENLOVE AVE.」のB面5曲は全てがアルバム「WALLS AND BRIDGES」のリハーサル音源なので、ホーンやオーケストラをオーバーダビングする前の音源は、完成形よりも良いとさえ感じられるのが「ジョン・レノン」の真骨頂なのです。故に、近年の箱でやらかしている「なんちゃってリミックス」は、ジョンに対する冒涜です。デモ音源やリハーサル音源やアウトテイク音源ですら「完成」しているのが「ジョン・レノン」なのですから、そっちを優先してリリースすべきなのです。1998年の箱「JOHN LENNON ANTHOLOGY」には「STEEL AND GLASS」の「Take 8」が収録されていて、完成版に収録されたのは「Take 9」を元にしています。つまり、この「STEEL AND GLASS」だけでも、少なくとも他に「Take 1」から「Take 7」もあるわけで、そっちをリリースするのが筋ってもんでしょう。
(小島イコ)
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