
ジョン・レノンが、1974年9月26日(米国)・同年10月4日(英国)にアップルからリリースした4作目のソロ・アルバム「WALLS AND BRIDGES(心の壁、愛の橋)」の、ひっくり返せばB面1曲目に収録されているのが、「#9 DREAM(夢の夢)」です。この楽曲は、ジョンがプロデュースした1974年のニルソンのアルバム「PUSSY CATS」のA面1曲目に収録されているジミー・クリフのカヴァー曲「MANY RIVERS TO CROSS」でのオーケストラ・アレンジにヒントを得て、ジョンが書いたと云われています。ニルソンのアルバム「PUSSY CATS」のレコーディング・メンバーは、ほぼアルバム「WALLS AND BRIDGES」と同じで、そのセッション・メンバーも参加しているリンゴ・スターの1974年のアルバム「GOODNIGHT VIENNA」と、ジョンの1975年のカヴァー・アルバム「ROCK'N'ROLL」の4作はセットになっているとも云えるので、どれもが必聴盤です。更に、キース・ムーンの1975年のソロ・アルバム「TWO SIDES OF THE MOON」も加えると、当時の呑み仲間が勢揃いするわけで、キース・ムーンのアルバムにはリンゴ(アルバムのタイトルも発案)やジェシ・エド・デイヴィスが参加しているし、ジョンが書いた「MOVE OVER MS. L」も収録されているし、ビートルズのカヴァー「IN MY LIFE」も収録されていて、ビーチ・ボーイズの「DON'T WORRY BABY」や、リッキー・ネルソンの「TEENAGE IDOL」をカヴァーしていたりもします。キース・ムーンがマジメに歌っていて、気持ち悪くて良いですよ。
この「#9 DREAM」は、1974年12月16日(米国)・1975年1月31日(英国)に、アルバム「WALLS AND BRIDGES」からの第2弾シングル・カット(B面は「WHAT YOU GOT」)されていて、全米9位・全英23位のヒット曲となりました。特に、米国のビルボードで9位になったのが、ジョンにとっては「首位!になるより嬉しい」出来事で、ジョンは自分が生まれた日である「9」をラッキー・ナンバーにしていて、タイトルにも入れていたのです。ビートルズ時代にも「ONE AFTER 909」や「REVOLUTION 9」と云った、「9」を入れた曲があります。この楽曲は、メイ・パンによれば、ジョンが夢の中で聴いて、それを曲にしたのだそうです。そのエピソードは、ビートルズ時代にポール・マッカートニーが主導で書いたレノン=マッカートニー作品「YESTERDAY」と同じです。ポールは「曲はその辺に浮いているから、それを捕まえるだけ」と云う「始めから完成形」が出来ているのですけれど、ジョンは推敲を重ねて曲を練って完成させる人だったので、この曲の様に「降りて来た」楽曲は珍しい例です。ズバリ云って、アルバム「WALLS AND BRIDGES」の中では最も美しく、完成度も段違いに高いと思います。と云うか、第1弾シングルの「WHATEVER GETS YOU THRU THE NIGHT(真夜中を突っ走れ)」よりも、こっちの方が数段上でしょう。ジョンが同じアルバムから2曲もシングル・カットするのは珍しく、この曲に自信を持っていたのでしょう。
レコーディング・メンバーは、ジョン・レノン(ヴォーカル、アコースティック・ギター)、ザ・44th・ストリート・フェアリーズ(メイ・パン、ロリ・バートン、ジョーイ・ダンブラ)(バッキング・ヴォーカル)、ケン・アッシャー(クラビネット)、ジェシ・エド・デイヴィス(ギター)、クラウス・フォアマン(ベース)、ニッキー・ホプキンス(エレクトリック・ピアノ)、アーサー・ジェンキンス(パーカッション)、ジム・ケルトナー(ドラムス)、ボビー・キーズ(サックス)、エディ・モトー(アコースティック・ギター)の、「プラスティック・オノ・ニュークリア・バンド」です。途中にジョンを呼ぶ声が入っていて、どう考えてもメイ・パンの声なのですけれど、後になってヨーコさんが「アレは私の声なのよ」などと云い出して、ミュージック・ヴィデオにもヨーコさんが登場する意味不明な改悪ヴァージョンを制作しています。ヨーコさんは、このアルバムの制作中にジョンと別居していた事を忘れてしまったのでしょうか。それとも1969年の「WEDDING ALBUM」から持ってきたとでも思っているのでしょうか。そんな事はどうでも良くて(本当はどうでも良くはない)、不思議な呪文の様なサビはビートリーだし、ジョージ・ハリスン的なジェシ・エド・デイヴィスによるギターも聴けて、完璧なポップ・ソングになっています。ジョンのベスト盤には、必ず収録される定番曲のひとつです。
(小島イコ)
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