
ジョン・レノンが、1973年10月29日(米国)・同年11月16日にアップルからリリースした3作目のソロ・アルバム「MIND GAMES」は、特に英国や米国での評価が低かった様です。それはベスト盤にこのアルバムからの選曲が極端に少ない事からも伺えて、前回も取り上げた1990年のCD4枚組全73曲入りの箱「LENNON」では、全12曲(実質11曲)中、たったの5曲(「MIND GAMES」、「AISUMASEN(I'M SORRY)」、「ONE DAY(AT A TIME)」、「INTUITION」、「OUT THE BLUE」)しか収録されていません。他の3作のソロ・アルバムからは、ほとんど全曲が収録されているのに、余りにも少ないのです。これがジョンの1枚もののベスト盤となると、1975年の全11曲入りの「SHAVED FISH」には「MIND GAMES」1曲だけですし、1982年(CD化は1989年)の全19曲入りの「THE JOHN LENNON COLLECTION」でも「MIND GAMES」1曲だけですし、1997年の全20曲入りの「LENNON LEGEND」でも「MIND GAMES」1曲だけですし、2010年の全15曲入りの「POWER TO THE PEOPLE THE HITS」でも「MIND GAMES」1曲だけしか選ばれていません。CD2枚組となっても、2005年の全38曲入りの「WORKING CLASS HERO - THE DEFINITIVE LENNON」では「MIND GAMES」と「INTUITION」と「OUT THE BLUE」と「YOU ARE HERE」の4曲ですし、2020年の全36曲入りの「GIMME SOME TRUTH.」でも「MIND GAMES」と「OUT THE BLUE」と「I KNOW(I KNOW)」の3曲です。
2010年のCD4枚組全72曲入りの小箱「GIMME SOME TRUTH」では、全12曲(実質11曲)中7曲(「MIND GAMES」、「TIGHT A$」、「INTUITION」、「OUT THE BLUE」、「ONLY PEOPLE」、「YOU ARE HERE」、「MEAT CITY」)も選ばれていますけれど、それぞれのCDをテーマ別にした構成ですし、他の1970年リリースのアルバム「JOHN LENNON / PLASTIC ONO BAND(ジョンの魂)」から全11曲中全曲!、1971年リリースのアルバム「IMAGINE」から全10曲中9曲、1974年リリースのアルバム「WALLS AND BRIDGES」から全12曲中10曲、1975年リリースのカヴァー・アルバム「ROCK'N'ROLL」から全13曲中全曲!、1980年リリースのアルバム「DOUBLE FANTASY」からジョンが歌った全7曲中6曲、1984年リリースの遺稿集「MILK AND HONEY」からジョンが歌った全6曲中5曲(但し「GROW OLD WITH ME」はサー・ジョージ・マーティンがストリングスを加えた1998年リリースの「ANTHOLOGY」ヴァージョン)と云う選曲から見れば、アルバム「MIND GAMES」が如何に軽視されているのかが分かります。1972年リリースの2枚組アルバム「SOMETIME IN NEW YORK CITY」からスタジオ録音の全10曲中3曲しか選ばれていないのは、ジョンがソロで歌った曲が3曲しかないのと、ヨーコさんとのデュエットが4曲もあった為で、デュエット曲は無視される事が多いからです。こうして見ると、ベスト盤が1枚ならば「MIND GAMES」のみで、2枚組や4枚組になっても「OUT THE BLUE」が定番で、他は一貫した選曲にはなっていません。
さて、そんな不遇なアルバム「MIND GAMES」の、A面3曲目に収録されているのが「AISUMASEN(I'M SORRY)」です。この楽曲は、元々は1971年に「CALL MY NAME」としてデモがレコーディングされていて、その時の歌詞は「落ち込んだ時には僕の名前を呼んで」と云ったポジティブな内容でした。それが「AISUMASEN」になったわけで、つまり日本語の「あいすみません」なのです。ハッキリと「あー、あいすいません、ヨーコ、あーああ、あいすいません、ヨーコさん」と、片言の日本語でジョンが歌っているのが聴き取れます。ジョンは、ヨーコさんたちが居る部屋の隣の部屋に女の子を引っ張り込んで浮気してしまった事があったらしく、ジョンがヨーコさんに土下座して謝罪した写真が遺っています。日本語の歌詞も土下座をしたのもヨーコさんが教えたからでしょうし、それを写真に撮って自分のアルバムに載せたのもヨーコさんの意思でしょう。レコーディング・メンバーは、ジョン・レノン(ヴォーカル、アコースティック・ギター、タンバリン)、デヴィッド・スピノザ(エレクトリック・ギター)、ピート・クレイナウ(ペダル・スティール・ギター)、ケン・アッシャー(ピアノ、オルガン)、ゴードン・エドワーズ(ベース)、ジム・ケルトナー(ドラムス)です。印象的なリード・ギターを弾いているデヴィッド・スピノザは、ヨーコさんとの「只ならぬ関係」が噂になりました。「AISUMASEN」のデモ音源は、2002年のアルバム「MIND GAMES」のリミックス盤で、アウトテイクは2024年のアルバム「MIND GAMES」の箱で聴く事が出来ます。
(小島イコ)
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