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2025年01月20日

「ポールの道」#621「LENNON SONGS」#046 「HOUND DOG」

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ジョン・レノンがビートルズ時代の1965年8月27日に、敬愛していたエルヴィス・プレスリーと対面した時に、ジョンは「僕は、貴方のレコードを1枚も持っていません」と云い放ったのですけれど、そんなわけはないのでした。ジョンは「エルヴィスが登場して、それまでのものは全くなかったのと同じになった」と云っていたし、ポール・マッカートニーをクオリーメンに加入させた理由を「ポールは、エルヴィスに似ていたからだ」とまで云っていました。先日、NHKで放送された1972年の「マイク・ダグラス・ショー」でも、ジョンは「エルヴィスを尊敬しているから、ビートルズがエルヴィスを超えたとは思わない」と云っていました。エルヴィスは自分では曲を書かない人でしたけれど、1956年リリースのデビュー・アルバム「ELVIS PRESLEY」では、カール・パーキンスの「BLUE SUEDE SHOES」や、レイ・チャールズの「I GOT A WOMAN」や、ジョー・トーマスとハワード・ビッグス作でロイ・ハミルトンが歌った「I'M GONNA SIT RIGHT DOWN AND CRY(OVER YOU)(座って泣きたい)」をカヴァーしています。「BLUE SUEDE SHOES」は、1969年の「トロント・ロックンロール・リヴァイバル」でジョンがプラスティック・オノ・バンドとして1曲目に演奏しているし、「I GOT A WOMAN」や「I'M GONNA SIT RIGHT DOWN AND CRY(OVER YOU)」は、ビートルズ時代にジョンのリード・ヴォーカルでBBCのスタジオ・ライヴで披露しています。

1970年リリースのアルバム「JOHN LENNON / PLASTIC ONO BAND(ジョンの魂)」のリハーサルでも、ジョンはエルヴィスの楽曲(「DON'T BE CRUEL」と「HOUND DOG」と「WHEN I'M OVER YOU」)をモノマネして歌っていて、明らかにエルヴィスの影響を受けていました。それは、ジョンの生涯で唯一のフル・ライヴであった「ワン・トゥ・ワン・コンサート」で「HOUND DOG」を披露している事からも伺えます。「HOUND DOG」は、ジェリー・リーバーとマイク・ストーラー作で、1953年2月にビッグ・ママ・ソーントンが歌ったのがオリジナルです。そのオリジナル・ヴァージョンは、全米R&Bチャートで7週連続首位!となりました。しかしながら、この楽曲を有名にしたのはエルヴィスで、1956年7月13日にシングルとしてリリースしていて(片面は「DON'T BE CRUEL」で両面共に大ヒット)、全米11週連続首位!となり、1956年の全米年間首位!にもなりました。エルヴィスは、オリジナルのビッグ・ママ・ソーントンによるヴァージョンを大胆に改変していて(フレディ・ベル&ザ・ベルボーイズによるカヴァーを参考)、ちょっと聴いただけでは同じ曲とは思えません。ジョンが「ワン・トゥ・ワン・コンサート」で披露したカヴァー・ヴァージョンは、エルヴィス盤を元にしているので、カヴァーのカヴァーのカヴァー・ヴァージョンと云う事になります。画像のCD3枚組のアルバム「THE SONG OF LEIBER & STOLLER」には、リバー&ストーラー作の楽曲が75ヴァージョンも収録されていて、「HOUND DOG」はビッグ・ママ・ソーントンとエルヴィスの両方共に聴けます。

こうした「カヴァーのカヴァー」は、ジョンがビートルズ時代に演奏していた「TWIST AND SHOUT」(オリジナルは1961年のトップ・ノーツ、カヴァーは1962年のアイズレー・ブラザーズ)や、前述のエルヴィスによる「I GOT A WOMAN」や「I'M GONNA SIT RIGHT DOWN AND CRY(OVER YOU)」と云ったカヴァーのカヴァーでも分かる様に、ジョンの得意技のひとつだったのです。ビートルズはBBCで、他のエルヴィス・ナンバーである「THAT'S ALL RIGHT(MAMA)」をポールが、「I FORGOT TO REMEMBER TO FORGET」をジョージが歌っています。「HOUND DOG」は「ワン・トゥ・ワン・コンサート」では唯一のカヴァー曲であって、そこにエルヴィス・ナンバーを持ってきたのですから、エルヴィスからの多大なる影響を感じさせます。「ワン・トゥ・ワン・コンサート」でのライヴは、後半の「COME TOGETHER」辺りから持ち直していて、落ち着いた「IMAGINE」から、絶唱がギラリと光る「COLD TURKEY」を経て、実質的には最後の曲として「HOUND DOG」が演奏されました。次の「GIVE PEACE A CHANCE」は、ライヴ盤「LIVE IN NEW YORK CITY」では「1分3秒」しか収録されていません。実際には、前座で出ていたスティーヴィー・ワンダー、ロバータ・フラック、メラニー、シャ・ナ・ナ、などがステージに上がって、ジョンからリード・ヴォーカルを歌い繋いでゆき、終演後には観客と共にニューヨークの街を合唱して練り歩いたのでした。

(小島イコ)

posted by 栗 at 23:00| FAB4 | 更新情報をチェックする