
ジョン・レノンとヨーコさんの共作アルバムとして、1972年6月12日(米国)・同年9月15日(英国)にアップルからリリースされたアルバム「SOMETIME IN NEW YORK CITY」の、スタジオ盤B面4曲目に収録されているのが、「ANGELA」です。この楽曲も、他のアルバム「SOMETIME IN NEW YORK CITY」の収録曲と同じで、非常に時事性が強く、政治色も濃い内容です。タイトルになった「ANGELA」は、活動家の「アンジェラ・デイビス」の事で、アンジェラはアフリカ系解放運動に身を投じ、逮捕され投獄されたので、ジョンとヨーコさんはアンジェラたち無実の政治犯を解放せよ、と歌っているのです。アルバムでは前曲に収録された「JOHN CINCLAIR」と同様に、実在の人物の名前をそのままタイトルにしていて、現実的に釈放を求めている楽曲です。アンジェラは「ブラック・パンサー」の党員で、ボブ・ディランが歌にしている不当逮捕された「ジョージ・ジャクソン」の釈放を求めて、自らも不当逮捕されていました。1972年にローリング・ストーンズがアルバム「EXILE ON MAIN STREET(メイン・ストリートのならず者)」に収録した「SWEET BLACK ANGEL」も、アンジェラ・デイビスの事を歌った楽曲です。
ジョージ・ジャクソンは1971年8月21日に脱獄をしようとして射殺されて、それがジョンとヨーコさんが同じくアルバム「SOMETIME IN NEW YORK CITY」に収録した「ATTICA STATE」で歌われている「アッティカ刑務所暴動」に繋がったと云われています。アンジェラ・デイビスは16か月投獄された後に、1972年に保釈されています。ボブ・ディランは元々プロテスト・ソングを多く書いている音楽家ですけれど、ローリング・ストーンズやポール・マッカートニーまでそうした政治的な楽曲をリリースしたのが、1972年だったのです。こうして当時の状況を説明しないと、ジョンとヨーコさんがアルバム「SOMETIME IN NEW YORK CITY」を制作した意図が理解出来ないし、それぞれの楽曲が単体として普遍性を持つとは思えません。故に、アルバム「SOMETIME IN NEW YORK CITY」の評価は低いし、英国では11位で米国では48位だったリリース当時の成績も頷けます。同時代でもそんな評価だったのですから、事情が分からない後の世ではもっと評価は低いのは当然です。この楽曲もジョンとヨーコさんの共作でデュエットしているわけで、志は理解出来ても、何度も繰り返して聴くアルバムの内容ではありません。この当時のジョンの活動は、結局は「純真なジョンを反体制派の活動家が利用していた」としか思えません。
アルバム「SOMETIME IN NEW YORK CITY」は、次のB面5曲目のヨーコさんの単独作でひとりで歌っている「WE’RE ALL WATER」でスタジオ盤は幕を下ろします。ジョンの単独作は「NEW YORK CITY」と「JOHN CINCLAIR」の2曲のみで、それに共作となっている「WOMAN IS THE NIGGER OF THE WORLD」の3曲でしかジョンがひとりで歌っている曲はありません。「ATTICA STATE」と「SUNDAY BLOODY SUNDAY」と「THE LUCK OF THE IRISH」と「ANGELA」の4曲は共作でデュエットだし、「SISTERS, O SISTERS」と「BORN IN A PRISON」と「WE'RE ALL WATER」はヨーコさんのソロなんですから、何度でも云いますけれど、ジョンのファンには積極的にはオススメ出来ません。ジョンとヨーコさんのデュエット曲では、全てが「ジョンがヨーコさんに食われている」ので、共作アルバムと云うよりも、ヨーコさんが7曲でジョンが3曲みたいな内容です。ベスト盤に選曲したくとも、3曲しかないのですから困ったちゃんなのです。2025年の現在では最新盤であるジョンのベスト盤「GIMME SOME TRUTH.」には、何故かその3曲はスルーされていて、この「ANGELA」が収録されています。ショーンくん、そこは「WOMAN IS THE NIGGER OF THE WORLD」か「NEW YORK CITY」でしょう。
(小島イコ)
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