
ジョン・レノンとヨーコさんの共作で、1972年6月12日(米国)・同年9月15日(英国)にアップルからリリースした2枚組のアルバム「SOMETIME IN NEW YORK CITY」の、スタジオ盤でB面3曲目に収録されたのが「JOHN CINCLAIR」です。この楽曲はジョンの単独作で、スタジオ盤ではジョンがひとりで歌っています。アルバム「SOMETIME IN NEW YORK CITY」のスタジオ盤では全10曲中で、ジョンがひとりで歌っているのは「WOMAN IS THE NIGGER OF THE WORLD」と「NEW YORK CITY」と、この「JOHN CINCLAIR」の3曲しかありません。その内「WOMAN IS THE NIGGER OF THE WORLD」はジョンとヨーコさんの共作と云う事になっていますけれども、タイトルをヨーコさんの発言からいただいている「IMAGINE」パターンでの共作でしょう。ジョンのアルバムだと思って買ったら、スタジオ盤の全10曲中3曲しかひとりで歌っていないのでは、詐欺みたいなもんですなあ。それも、A面1曲目の「WOMAN IS THE NIGGER OF THE WORLD」と、A面5曲目の「NEW YORK CITY」と、このB面3曲目の「JOHN CINCLAIR」とバラバラになっていて、他はヨーコさんの単独作が3曲と、二人の共作で夫婦デュエットが4曲なんですから、ジョンのファンにとっては、つまらないレコードです。
特に酷いのは、ジョンとヨーコさんの共作でデュエットしている4曲で、こんなのを聴かされるのだったならば、まだヨーコさんの単独作の方がマシです。さて、この「JOHN CINCLAIR」は、1971年12月10日の「ジョン・シンクレア・フリーダム・ラリー」で初披露されていて、タイトルになった「ジョン・シンクレア(米国の反戦活動家で、ホワイトパンサー党の党首)」がFBIのおとり捜査で逮捕されて、マリファナを2本所持していた罪で10年間の懲役を実刑で受けて投獄された事に対して抗議する為に、ジョンが書いた曲です。前述の「ジョン・シンクレア・フリーダム・ラリー」は、ジョン・シンクレアを救済する為に行われていて、数日後にジョン・シンクレアは釈放されました。つまり、アルバム「SOMETIME IN NEW YORK CITY」をリリースした時には、既にその問題は解決していたのです。ジョンは1972年1月13日に放送されたテレビ番組「デヴィッド・フロスト・ショー」(収録は1971年12月16日)でも「JOHN CINCLAIR」を披露しているのですけれど、非常に時事性が強い楽曲で、実際にジョン・シンクレアは釈放されたのですから、米国政府はジョンを「反体制派と協力して、音楽の力で実際に反政府的な事を実現してしまった、底知れぬ能力を持つ要注意人物」と捉えたわけです。
楽曲としての「JOHN CINCLAIR」は、単刀直入にジョン・シンクレアの釈放を訴える内容で、サビで「GOTTA SET HIM FREE」と歌うところで「GOTTA」を15回も繰り返して歌っています。よく間違えないで歌えるものだと、変なところで感心してしまう楽曲です。アルバム「SOMETIME IN NEW YORK CITY」の楽曲は、他のアルバムとは違っていて時事性が強く政治色が濃いのと、やはりジョンがひとりで歌っている曲が3曲しかないので、ベスト盤に選ばれる機会はほとんどありません。シングルになった「WOMAN IS THE NIGGER OF THE WORLD」ですら、外されてしまう場合も多いのです。1990年の全73曲入りの箱「LENNON」では、ジョンがひとりで歌っている3曲(「WOMAN IS THE NIGGER OF THE WORLD」と「NEW YORK CITY」と「JOHN CINCLAIR」)は全て収録されています。「JOHN CINCLAIR」は、1998年の箱「JOHN LENNON ANTHOLOGY」と、2004年の「ACOUSTIC」と、2006年のサントラ盤「THE U.S. VS JOHN LENNON」に、ライヴ・ヴァージョンが収録されているのですが、全て同じ音源(1971年12月10日の「ジョン・シンクレア・フリーダム・ラリー」でのライヴ)です。
(小島イコ)
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