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2025年01月11日

「ポールの道」#612「LENNON SONGS」#037 「NEW YORK CITY」

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ジョン・レノンがヨーコさんとの共作で、1972年6月12日(米国)・同年9月15日(英国)にアップルからリリースしたアルバム「SOMETIME IN NEW YORK CITY」は、ジョンとヨーコさんの共作だった前衛3部作を除けば、最も人気がない作品です。スタジオ盤とライヴ盤の2枚組にしたのも敷居が高いし、スタジオ盤ではジョンが歌う3曲とヨーコさんが歌う3曲の他にも共作曲が多くて、ジョンとヨーコさんがデュエットしている曲がスタジオ盤の全10曲中半数近い4曲も収録されています。ジョンとヨーコさんのデュエットは、全く嚙み合っていなくて、両方の魅力を消し合っていて、ズバリ云って最悪です。時事性が強く政治的な内容も、敬遠されている理由のひとつで、ジャケットのデザイン通りに「新聞」の様な楽曲が並んでいるので、ローリング・ストーンズの曲にあった様に「誰が昨日の新聞を読むのか?」なのです。スタジオ盤でジョンがたったの3曲しかひとりで歌っていないので、後の1976年にポール・マッカートニーが「ウイングスはバンドだから」と云って、アルバム「WINGS AT THE SPEED OF SOUND」で全11曲中約半数の6曲しか歌わず、残りの5曲をウイングスのメンバーに歌わせてしまった愚挙にも似ています。ジョンとポールは離れていてもやる事がとても似ていて、ジョンもヨーコさんとの共作に拘った結果が、このつまらないアルバム「SOMETIME IN NEW YORK CITY」なのです。

しかし、そこはジョンなので、ライヴ盤には1969年12月15日のスーパー・バンドによる「COLD TURKEY」が収録されていますし、1971年6月6日のフランク・ザッパ&ザ・マザーズ・オブ・オブ・インベンションとの共演も収録されているので、侮れません。ところが、2005年11月にリリースされたリミックス盤では、ザッパ先生との共演を「WELL(BABY PLEASE DON'T GO)」のみにしてしまい、他の3曲をバッサリとカットして、「LISTEN THE SNOW IS FALLING」と「HAPPY XMAS(WAR IS OVER)」をボーナス・トラックで入れて1枚に収めたものになっているのです。本編がカットされているのに、ボーナス・トラックが入っているなんて有り得ない事をやっています。さて、アルバム「SOMETIME IN NEW YORK CITY」は、A面1曲目がジョンが歌う「WOMAN IS THE NIGGER OF THE WORLD」で始まり、2曲目はヨーコさんの「SISTERS, O SISTERS」で、3曲目がジョンとヨーコさんの共作デュエット曲「ATTICA STATE」で、4曲目がヨーコさんの「BORN IN A PRISON」で、かなりキツイ内容です。ところが、A面5曲目で最後には、ジョンが単独で書いてひとりで歌う「NEW YORK CITY」が収録されています。アルバム「SOMETIME IN NEW YORK CITY」のスタジオ盤は、「WOMAN IS THE NIGGER OF THE WORLD」と、この「NEW YORK CITY」が収録されているだけで価値があります。

チャック・ベリー直伝の「NEW YORK CITY」は、爽快なロックンロールで、ロックンローラー・ジョン・レノンの神髄が記録された名曲です。歌詞の内容は、当時にジョンの周りで起こった事(デヴィッド・ピールとの出会い、フランク・ザッパとのコンサート、エレファンツ・メモリーとの出会い、アッティカ州立刑務所のチャリティーコンサート、マックス・カンサス・シティへの訪問など)を歌いながら、「POWER TO THE PEOPLE」や「LONG TALL SALLY」や「FOR YOU BLUE」や「I AM THE WALRUS」と云った曲から引用しています。バックを務めたのは、エレファンツ・メモリーとジム・ケルトナー(ドラムス)で、フィル・スペクターのプロデュースで強烈なロックンロールに仕上げられています。この曲はベスト盤に収録される機会がなくて、1990年のCD4枚組全73曲入りの箱「LENNON」や、2010年のCD4枚組全72曲入りの小箱「GIMME SOME TRUTH」の様な「全曲集」に近いカタチや、2005年の2枚組全38曲入りのベスト盤「WORKING CLASS HERO」にしか収録されていない「隠れた名曲」です。1972年8月30日の「ワン・トゥ・ワン・コンサート」では1曲目に披露されて、1986年のライヴ盤「LIVE IN NEW YORK CITY」に収録されていますし、1998年の箱「JOHN LENNON ANTHOLOGY」にはデモ音源が収録されています。オリジナル・ヴァージョンは、前述のベスト盤以外では、2006年のサントラ盤「THE U.S. VS JOHN LENNON」に収録されています。

(小島イコ)

posted by 栗 at 23:00| FAB4 | 更新情報をチェックする