ジョージ・ハリスンは、英国では1973年5月7日に、米国では同年5月25日に、2年ぶりのシングル「GIVE ME LOVE(GIVE ME PEACE ON EARTH) / MISS O’DELL」を、アルバム「LIVING IN THE MATERIAL WORLD」からの先行シングルとしてアップルからリリースしています。1970年11月にリリースしたアナログ3枚組の大作アルバム「ALL THINGS MUST PASS」と、1971年8月1日のライヴ盤で1971年12月にリリースしたアナログ3枚組「THE CONCERT FOR BANGLA DESH」と、ジョージは派手な箱入りアルバムを連続してリリースしていたわけですが、スタジオ・アルバムとしては3年ぶりとなったのが、1973年6月22日にリリースされたアルバム「LIVING IN THE MATERIAL WORLD」です。収録曲は、A面が、1「GIVE ME LOVE(GIVE ME PEACE ON EARTH)」、2「SUE ME, SUE YOU BLUES」、3「THE LIGHT THAT HAS LIGHTED THE WORLD」、4「DON'T LET ME WAIT TO LONG」、5「WHO CAN SEE IT」、6「LIVING IN THE MATERIAL WORLD」で、B面が、1「THE LORD LOVES THE ONE(THAT LOVES THE LORD)」、2「BE HERE NOW」、3「TRY SOME BUY SOME」、4「THE DAY THE WORLD GETS ’ROUND」、5「THAT IS ALL」の、全11曲入りで全曲ジョージ作です。
A面1曲目に収録されて先行シングルとなった「GIVE ME LOVE(GIVE ME PEACE ON EARTH)」のレコーディング・メンバーは、ジョージ・ハリスン(ヴォーカル、アコースティック・ギター、スライド・ギター、バッキング・ヴォーカル)、ニッキー・ホプキンス(ピアノ)、ゲイリー・ライト(オルガン)、クラウス・フォアマン(ベース)、ジム・ケルトナー(ドラムス)です。アルバムには他にも、リンゴ・スター(ドラムス、パーカッション)、ジム・ホーン(サクソフォン、フルート、ホーン・アレンジメント)、ザキール・フセイン(タブラ)、ジョン・バーハム(オーケストラル・アレンジメント、コーラス・アレンジメント)、レオン・ラッセル(ピアノ)、ジム・ゴードン(ドラムス、タンバリン)、バッドフィンガーのピート・ハム(アコースティック・ギター)などが参加しています。ジョージも他の曲では、ドブロ・ギターやシタールなども弾いています。アルバムのプロデュースは前作同様にジョージとフィル・スペクターの共同でやる予定でしたが、この頃のフィル・スペクターは奇行が目立っていたので、ロニー・スペクター用のオケを流用した「TRY SOME BUY SOME」以外は、ジョージの単独プロデュースとなっています。
それで、シングル「GIVE ME LOVE(GIVE ME PEACE ON EARTH)」は、全英2位・全米首位!と大ヒットしていて、その前の全米首位!はポール・マッカートニー&ウイングスの「MY LOVE」で、その次の全米首位!はビリー・プレストンの「WILL IT GO ROUND IN CIRCLES」です。そして、1973年にはジョージとリンゴ・スターが共作したリンゴのシングル「PHOTOGRAPH(想い出のフォトグラフ)」も全米首位になっていて、こうした流れになったのは、1973年4月にビートルズの初のオールタイム・ベスト盤「THE BEATLES 1962-1966」(「赤盤」)と「THE BEATLES 1967-1970」(「青盤」)がリリースされて大ヒットとなり、同年5月にはポール・マッカートニー&ウイングスのアルバム「RED ROSE SPEEDWAY」(シングル「MY LOVE」を収録)が出て、同年6月にジョージのアルバム「LIVING IN THE MATERIAL WORLD」が出て、同年11月にジョンのアルバム「MIND GAMES」が出て、同年11月にはリンゴのアルバム「RINGO」が出て、同年12月にポールのアルバム「BAND ON THE RUN」が出て、ちょっとした「ビートルズ・リバイバル」となっていた為です。実は、ジョージのアルバムはもっと早く完成していたのですが、アップルに「赤盤」と「青盤」やポールのアルバムとバッティングしない様に発売延期にされています。「赤盤」と「青盤」は、ジョージが選曲した事になっていましたが、実際にはアラン・クレインの部下が選曲しています。
ビートルズが解散したのに、未だにポールのアルバムが優先されたのは、ジョージにとっては屈辱的だったでしょうけれど、そのポールもビートルズの「赤盤」と「青盤」を優先されていて、しかもポールはアルバム「RED ROSE SPEEDWAY」をアナログ2枚組でリリースしたかったのに、アップルの意向で1枚にされています。つまり、どちらもビートルズが優先順位では上だったわけですなあ。コレは、2024年の現在でも変わらず、まずはビートルズで、ソロは二の次なのです。ジョージのシングル「GIVE ME LOVE(GIVE ME PEACE ON EARTH)」は、最初の全米首位!シングル「MY SWEET LORD」と同様に神を歌っている曲で、歌詞はかなりぶっ飛んでいると思うのですが、楽曲自体は美しいメロディーで、ジョージのスライド・ギターも良いけれど、クラウス・フォアマンによるベースもいい感じです。B面の「MISS O'DELL」は、実在の女性秘書を歌っていて、ジョージが途中で笑いながら歌っているチャーミングな曲です。笑わずに歌っているテイクもあるので、敢えて笑ってしまったテイクを採用しています。この「MISS O'DELL」はアルバム未収録曲ですが、現在ではアルバム「LIVING IN THE MATERIAL WORLD」のボーナス・トラックとして収録されています。アルバム「LIVING IN THE MATERIAL WORLD」は、今年(2024年)11月15日に50周年記念盤がリリースされるので、楽しみですけれど、箱は高いし、ビートルズやナイアガラの箱でもう置き場所もないし、2枚組でいいかな、と思っています。
(小島イコ)