1974年にワーナーへ移籍したバッドフィンガーは、3年で6枚と云うノルマを達成する為に、常にレコーディングしてアルバムが完成したらツアーへ出ると云う過酷な日々を送っていました。米国では、1974年2月11日にワーナー移籍後初でアップル時代から通算して5作目のアルバム「BADFINGER(涙の旅路)」を、同1974年10月14日にはワーナーで2作目で通算6作目のアルバム「WISH YOU WERE HERE(素敵な君)」を、それぞれクリス・トーマスのプロデュースでリリースしています。ところが、グループ創成期から中心メンバーだったピート・ハムがアルバム「WISH YOU WERE HERE」完成後にツアーを控えていた1974年9月上旬に脱退してしまいます。悪徳マネジャーを信じていたピートと、契約破棄すべきだと云うジョーイが対立していて、そこにジョーイの妻であるキャッシーが口を出した事が原因だったようです。そこで困ったバッドフィンガーの他の3人は、オーディションをしてキーボード奏者でギターも弾けるボブ・ジャクソンを加入させます。ところが、脱退したはずのピート・ハムが1か月も経たない9月下旬に戻って来てしまったのです。ボブ・ジャクソンは「加入したばかりなのにクビになるのか?」と思ったら、そもそもキーボード奏者を必要としていたので、バッドフィンガーはそのまま5人組となって9月末から10月には英国ツアーを行いました。
しかしながら、ツアーが終わった1974年11月に、今度はジョーイ・モーランドが脱退してしまいます。それで、バッドフィンガーは、ピート・ハム(ギター、ヴォーカル)、トム・エヴァンス(ベース、ヴォーカル)、マイク・ギビンズ(ドラムス、ヴォーカル)、ボブ・ジャクソン(キーボード、ヴォーカル)の4人組となったのです。この辺のゴタゴタは、悪徳マネジャーのせいでどんなにレコードを制作してもツアーをやっても、メンバーは経済的に困窮していたから起きたのでしょう。悪徳マネジャーに振り回されて、メンバーの奥さんが口を出して、と云う展開はバッドフィンガーの「お兄さんバンド」であるビートルズと同じ道ですけれど、バッドフィンガーの方が深刻でした。普通に考えれば、至上の名曲「WITHOUT YOU」を共作したトム・エヴァンスとピート・ハムは印税だけでも大金を手に出来ただろうと思えますけれど、そんなに儲かっていたのならば、ピートもトムも自殺なんかしなかったはずなのです。結局はジョーイが抜けてボブ・ジャクソンを加えたバッドフィンガーは、1974年12月には早くもワーナーで3作目で通算7作目のアルバムのレコーディングを開始して、2週間程で完成しています。クリス・トーマスは余りにも早いペースでのレコーディングに反対してプロデュースを断っていて、あの「KISS」を手掛けたケニー・カーナーとリッチー・ワイズがプロデュースしたのが、幻のアルバム「HEAD FIRST」です。
アルバム「HEAD FIRST」は、ワーナーとのゴタゴタ(悪徳マネジャーが200万ドルの移籍金などを着服していて契約上での第三者機関を明かしていなかった)で、ワーナーからバッドフィンガーが訴訟を起こされて、マスターテープの受け取りも拒否されて発売中止になっています。それどころかワーナーは前作アルバム「WISH YOU WERE HERE」のプロモーションも放棄して、市場からも回収してしまい、バッドフィンガーは破産しました。そして、ピート・ハムは1975年4月24日に自宅で首を吊って27歳で亡くなっています。つまり、アルバム「HEAD FIRST」はピートの遺作となってしまったのです。このアルバムは、1990年にリリースされたベスト盤「THE BEST OF BADFINGER VOLUME U」に4曲が収録されて日の目をみましたが、2000年になってデモ音源集との2枚組で遂に正式にリリースされています。内容は、1「LAY ME DOWN」、2「HEY, MR. MANAGER」、3「KEEP BELIEVING」、4「PASSED FAST」、5「ROCK ’N' ROLL CONTRACT」、6「SAVILE ROW」、7「MOONSHINE」、8「BACK AGAIN」、9「TURN AROUND」、10「ROCKIN' MACHINE」の、全10曲入りで、2枚目はデモ音源が11曲入りです。内容は良くて、少なくとも後の再結成バッドフィンガーよりはずっと良い出来栄えです。
それぞれの作者は、「LAY ME DOWN」と「KEEP BELIEVING」と「SAVILE ROW」の3曲がピート・ハム作で、「HEY, MR. MANAGER」と「ROCK ’N' ROLL CONTRACT」の2曲がトム・エヴァンス作で、「BACK AGAIN」と「ROCKIN' MACHINE」の2曲がマイク・ギビンズ作で、「TURN AROUND」がボブ・ジャクソン作で、「PASSED FAST」がトム・エヴァンスとボブ・ジャクソンの共作で、「MOONSHINE」がマイク・ギビンズとボブ・ジャクソンとトム・エヴァンスの共作です。トムが書いた「HEY, MR. MANAGER」と「ROCK ’N' ROLL CONTRACT」は、明らかに悪徳マネジャーに向けて書いた曲です。コレがですね、あたくしが持っているブートレグだと、A面が、1「LAY ME DOWN」、2「TURN AROUND」、3「KEEP BELIEVING」、4「ROCKIN' MACHINE」、5「PASSED FAST」で、B面が、1「SAVILE ROW」、2「MOONSHINE」、3「ROCK ’N' ROLL CONTRACT」、4「BACK AGAIN」、5「MR. MANAGER」と曲順が違う全10曲を「ワーナー・ブラザーズ・ミックス」と「アップル・スタジオ・ラフ・ミックス」の「2 in 1」で、全20曲入りとなっているのです。それぞれのミックスが本当なのかどうかは、分かりません。
(小島イコ)
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