ジョージ・ハリスンがビリー・プレストンに提供してセルフ・カヴァーが大ヒットした「MY SWEET LORD」は、ビリーが弾いたゴスペルのコード進行を元にしてジョージが書いた曲です。しかし、詞の内容はコーラスが「ハレ・クリシュナ」と連呼している様に、東洋思想の影響が強く感じられる楽曲でもあります。ジョン・レノンの1970年リリースのシングル「MOTHER」が英国では発売禁止になったり、同じくシングル「IMAGINE」が1971年当時には英国では発売禁止になったりしたのに、ジョージの1970年リリースのシングル「MY SWEET LORD」や1973年リリースのシングル「GIVE ME LOVE(GIVE ME PEACE ON EARTH)」は、前者は全英首位!・全米首位!で後者は全英8位・全米首位!と大ヒットしているのは、一体何故なのでしょうか。ジョンの発禁曲「MOTHER」は後半の叫びがドラッグを連想させるとか、発禁曲「IMAGINE」は詞の内容がいきなり「天国がないと想像しなさい」で狂っているとされました。では、ジョージが「神に逢いたいです」とか「神よ愛を下さい」とか歌っているのはセーフなのは、どうしてなのでしょうか。つまりは、「GOD」でも分かる通り神の存在を「なし」としたジョンはダメで、「あり」としたジョージは良いのでしょうか。
アップル・レコードは、1969年8月29日(英国)・同年8月22日(米国)に、ラダ・クリシュナ・テンプルのシングル「HARE KRISHNA MANTRA / PRAYER TO THE SPIRITUAL MASTERS」をジョージのプロデュースでリリースしています。ラダ・クリシュナ・テンプルは、ジョージが傾倒していたヒンズー教の教会で、そのロンドン支部がレコーディングしたこのシングルは英国では12位と売れました。米国では東洋思想が受け入れられていなかったので、売れていません。翌1970年3月6日(英国)・同年5月24日(米国)には、2作目のシングル「GOVINDA / GOVINDA JAI JAI」をやはりジョージのプロデュースでリリースして、全英23位まで上がっています。「GOVINDA」は、1996年にクーラ・シェイカーがカヴァーして全英7位とヒットさせています。これらのシングルは、ジョージがアレンジしていて、ベースやハーモニウムも弾いて参加しています。前述の通り、ジョージは自作の「MY SWEET LORD」や、ジョージがプロデュースしてリンゴ・スターと共作(以前はリンゴの単独作とされていたが、後にリンゴが共作だったと白状)した「IT DON'T COME EASY(明日への誓い)」のデモ音源でも「ハレ・クリシュナ」とコーラスしています。
1969年のシングル「HARE KRISHNA MANTRA」は1969年7月にビートルズのアルバム「ABBEY ROAD」制作中にレコーディングされて、1970年のシングル「GOVINDA」は1970年1月にビートルズのアルバム「GET BACK」の追加録音をしていた頃にレコーディングされています。そして、「HARE KRISHNA MANTRA」と「GOVINDA」と「GOVINDA JAI JAI」以外を1971年2月から3月にレコーディングして、1971年5月28日(英国)・同年5月21日(米国)にアルバム「THE RADHA TEMPLE」を、やはりジョージのプロデュースでリリースしました。内容は、A面が、1「GOVINDA」、2「SRI GURUVASTAKAM」、3「BHAJA BHAKATA / ARATI」、4「HARE KRISHNA MANTRA」で、B面が、1「SRI ISOPANISAD」、2「BHAJA HUNRE MANA」、3「GOVINDA JAI JAI」の、全7曲入りです。シングルのヒットから間が空いたので、アルバムはヒットしていません。1993年にCD化されて、シングルB面だった「PRAYER TO THE SPIRITUAL MASTERS」が加わった全8曲入りとなり、2010年のリマスター盤では更に「NAMASTE SARAWATI DEVI」も加えた全9曲入りとなっております。魅力は、ジョージがプロデュースしているのとジョージの作品に影響を与えている事で、基本的には宗教歌だし、歌や演奏も教会関係の素人さんですから、興味が湧いてもその前提で聴いて下さい。
(小島イコ)