ドリス・トロイは、1963年に「JUST ONE LOOK」(後にホリーズやリンダ・ロンシュタットもカヴァー)をヒットさせた黒人女性歌手で、ジョージ・ハリスンがプロデュースしたビリー・プレストンのアルバム「THAT'S THE WAY GOD PLANNED IT(神の掟)」にセッション・シンガーとして参加したのが縁(渡英したビリーはドリスが愛猫と住んでいた高級アパートに間借りしていた)で、ジョージが1969年にアップル・レコードに招きました。1970年2月13日(英国)・同年3月16日(米国)にジョージのプロデュースで1作目のシングル「AIN'T THAT CUTE / VAYA CON DIOS」(「AIN'T THAT CUTE」はジョージとドリスの共作、「VAYA CON DIOS」はドリスの単独作)をアップルからリリースして、1970年8月28日(英国)・同年9月21日(米国)にはアップルでの2作目のシングル「JACOB'S LADDER / GET BACK」をリリースしていて、こちらはドリスのセルフ・プロデュースですが、両面でジョージがギターを弾いています。B面の「GET BACK」は、勿論ビートルズのカヴァーです。
そして、1970年9月11日(英国)・同年11月9日(米国)にアップルからリリースされたのが、アルバム「DORIS TROY(邦題「女性ジョー・コッカー登場」)です。まずは、レコーディング・メンバーが、ドリス・トロイ(ヴォーカル)、ジョージ・ハリスン(ギター)、ビリー・プレストン(キーボード)、リンゴ・スター(ドラムス)、アラン・ホワイト(ドラムス)、ピーター・フランプトン(ギター)、クラウス・フォアマン(ベース)、スティーヴン・スティルス(ギター)、エリック・クラプトン(ギター)、レオン・ラッセル(キーボード)、デラニー&ボニー(バッキング・ヴォーカル)、ボビー・キーズ(サックス)、ボビー・ウィットロック(キーボード)、カール・レイドル(ベース)、ジム・ゴードン(ドラムス)、リタ・クーリッジ(バッキング・ヴォーカル)、と云った凄腕を集めた「スーパー・バンド」です。それでも、ジャッキー・ロマックスの様に凄過ぎるバックに負ける事がない、ドリス・トロイが存在する名盤となっています。
内容もシングルにもなった「AIN'T THAT CUTE」と「GIVE ME BACK MY DYNAMITE」はジョージとドリスの共作で、「GONNA GET MY BABY BACK」と「YOU GIVE ME JOY JOY」はジョージとドリスとリンゴとスティーヴン・スティルスの共作で、トラディショナルでシングルにもなった「JACOB'S LADDER」はジョージとドリスのアレンジです。他にもジャッキー・ロマックスとドリスの共作「I'VE GOT TO BE STRONG」や、クラウス・フォアマンとドリスの共作「SO FAR」なども加えた、全13曲入りでした。再発されたCDには、前述のシングルB面だった「VAYA CON DIOS」や「GET BACK」など5曲を加えた全18曲入りの1992年盤と、それに更に1曲を加えた全19曲入りの2010年盤があります。ドリス・トロイはこれ以前もこれ以後もセッション・シンガーとして大活躍していて、1969年リリースのローリング・ストーンズの「YOU CAN'T ALWAYS GET WHAT YOU WANT(無情の世界)」や、1972年リリースのカーリー・サイモンの「YOU'RE SO VAIN(うつろな愛)」(ミック・ジャガーも参加)や、1973年リリースのピンク・フロイドのアルバム「DARK SIDE OF THE MOON(狂気)」などにも参加しています。
(小島イコ)