1968年11月22日(英国)・同年11月25日(米国)にアップルからリリースされたビートルズの9作目のオリジナル・アルバム(米国では14作目)「THE BEATLES」は、LP2枚組で全30曲90分にも及ぶ大作で、真っ白なジャケットから通称「ホワイト・アルバム」と呼ばれています。全30曲にも及ぶのにも関わらず、1968年8月にリリースしたシングル「HEY JUDE / REVOLUTION」は収録されておらず(「REVOLUTION」は別テイクの「REVOLUTION 1」と前衛作品「REVOLUTION 9」を収録)、英米ではシングル・カットはありません。何故か日本では「オブ・ラ・ディ・オブ・ラ・ダ / マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス(WHILE MY GUITAR GENTLY WEEPS)」が、1969年3月10日にシングル・カットされています。「ホワイト・アルバム」のレコーディングは1968年5月30日から10月14日までの長期に渡り、リンゴが途中で脱退(ポールが云う通りにドラムスを叩けなかった為)や、ジェフ・エメリックが途中で辞めたり(ポールがサー・ジョージ・マーティンに「だったらアンタが歌えよ」と暴言を吐いた為)、サー・ジョージ・マーティンが途中で休暇を取ってスタジオから消えたり(まあ、ポールからの暴言も理由だと思われる)、代わりに若輩者のクリス・トーマスが起用されたり(ジェフ・エメリックは彼が嫌いだった)と色々ありました。
それでも結果的には、またしても新たなる傑作アルバムを作ったビートルズでしたが、「ホワイト・アルバム」のレコーディング中には衝突も多々あり、リンゴの一時脱退などもあったので解散寸前になっていた様です。ソレで焦ったポールは、1968年11月22日にリリースしたばかりの「ホワイト・アルバム」を「失敗作」と考えて、新作のレコーディングを思い付いて敢行しました。ソレが、明けて1969年1月2日から同年1月31日までに行った「THE GET BACK SESSIONS」です。ポールは再び原点に帰って、4人で一緒にレコーディングを行いバンドの結束を望みました。ジョンもノー・オーバーダビングでのレコーディングを望んで、4人は新曲のリハーサルから開始したのです。そして、新曲を制作する様子を映画化する予定で、話は進んでいました。が、しかし、ポールはドンドンとアイデアを思い付いてしまい、新曲をリハーサルして、レコーディングして、新曲のみでライヴをやって、ソノ過程を全て撮影してテレビ番組もしくは映画にする、と云う計画にしてしまったのです。それ故に、此の「THE GET BACK SESSIONS」は初めから最後までカメラが回されていて、1970年に公開された映画「LET IT BE」や、2021年に配信されたドキュメンタリー作品「GET BACK」でソノ様子を観れる事となったのです。
しかしながら、此の「THE GET BACK SESSIONS」は、レコーディング当時は大失敗となりました。何故ならば、ビートルズは1か月にも及んだ「THE GET BACK SESSIONS」から、シングル「GET BACK / DON'T LET ME DOWN」の2曲しか完成させる事ができなかったからです。しかも、ソレはビートルズの4人だけではレコーディングできなくて、ビリー・プレストンをキーボードで加える事で何とか完成させたのでした。シングル「GET BACK / DON'T LET ME DOWN」は、1969年4月11日(英国)・同年5月5日(米国)にアップルからリリースされて、名義は「ザ・ビートルズ・ウイズ・ビリー・プレストン」となっていて、ビートルズは他にも外部のミュージシャンを参加させた例はあるのですけれど、ソレをわざわざクレジットしたのは此のシングル両面2曲だけです。A面の「GET BACK」は全英首位!全米首位!となり、B面の「DON'T LET ME DOWN」も全米39位まで上がっています。此のシングルは英国ではモノラルとステレオで、米国ではステレオでリリースされています。勿論、1月2日から15日までのトゥイッケナム・フィルム・スタジオでのリハーサルも、22日から31日(30日はルーフ・トップ・セッション)のアップル・スタジオでのレコーディングでも、多くの楽曲がレコーディングされてはいます。
それで、実質的には「THE GET BACK SESSIONS」のプロデュースを手掛けていたグリン・ジョンズは、1969年5月にアルバム「GET BACK with Don't Let Me Down and 12 other songs」(通称「GET BACK」)をまとめました。内容は、A面が、1「ONE AFTER 909」、2「MEDLEY : I'M READY(AKA ROCKER)/ SAVE THE LAST DANCE FOR ME / DON'T LET ME DOWN」、3「DON'T LET ME DOWN」、4「DIG A PONY」、5「I'VE GOT A FEELING」、6「GET BACK」で、B面が、1「FOR YOU BLUE」、2「TEDDY BOY」、3「TWO OF US」、4「MAGGIE MAE」、5「DIG IT」、6「LET IT BE」、7「THE LONG AND WINDING ROAD」、8「GET BACK(REPRISE)」の、全14曲入りです。此のアルバムは、ジャケットもデビュー・アルバム「PLEASE PLEASE ME with Love Me Do and 12 other songs」と同じカメラマンによって同じ場所と構図で撮られていて、見本刷りまでできていたものの、ビートルズの4人に却下されて、1970年1月の第2案も却下されて、結局はフィル・スペクターがプロデュースした1970年5月リリースのアルバム「LET IT BE」となります。それで長い間アルバム「GET BACK」は幻のアルバムでブートレグでしか聴けなかったのですけれど、2021年リリースのアルバム「LET IT BE」の50周年記念盤に公式盤として収録されました。
(小島イコ)
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