1966年になってからの本国英国でのビートルズの流れは、1966年3月4日に11作目の4曲入りEP「YESTERDAY」(「YESTERDAY」、「ACT NATURALLY」、「YOU LIKE ME TOO MUCH」、「IT'S ONLY LOVE」)をリリースして、同年6月10日に12作目のシングル「PAPERBACK WRITER / RAIN」をリリースして、同年7月8日に12作目の4曲入りEP「NOWHERE MAN」(「NOWHERE MAN」、「DRIVE MY CAR」、「MICHELLE」、「YOU WON'T SEE ME」)をリリースして、同年8月5日に13作目のシングル「ELEANOR RIGBY / YELLOW SUBMARINE」(両A面)とソノ2曲も含む7作目のアルバム「REVOLVER」全14曲入りをリリースして、来日公演も含めた最後のツアーを行って、同年12月10日に現役時代では唯一のベスト・アルバム「A COLLECTION OF BEATLES OLDIES」全16曲入りを、それぞれパーロフォンからリリースしています。EP「YESTERDAY」は米国でシングル・カットされてB面だったのに全米首位!となった「YESTERDAY」を手ごろに聴ける様にリリースしていて、内容は全て前1965年8月6日リリースの5作目のアルバム「HELP!」のアナログ盤ではB面の曲を収録しています。
EP「NOWHERE MAN」も、楽曲は前1965年12月3日リリースの6作目のアルバム「RUBBER SOUL」のアナログ盤ではA面の曲を収録しています。つまりは、1966年にリリースされたものの素材は既発曲ばかりで、パーロフォンからの4曲入りEPは12作目の「NOWHERE MAN」が最後のリリースとなりました。1966年に英国パーロフォンからリリースされた新作は、シングル「PAPERBACK WRITER / RAIN」と、シングル「ELEANOR RIGBY / YELLOW SUBMARINE」とソノ2曲を含むアルバム「REVOLVER」の全16曲だけです。ベスト盤の「A COLLECTION OF BEATLES OLDIES」には新曲として「BAD BOY」も収録されてはいるものの、ソレはラリー・ウィリアムズのカヴァーで1965年リリースのアルバム「HELP!」のアウトテイクでした。1964年と1965年と違っているのは、映画を撮らなくなった事と、ツアーをやめる事と、年間3作のシングルが2作に減った事と、年間2作のオリジナル・アルバムを1作にした事です。そうする事になったので、多忙を極めていたビートルズには曲作りとレコーディングに費やす時間が与えられたのです。
しかし、米国キャピトルではそんなこたあどうだっていいやで、ビートルズのレコードは出せば売れ捲るのですから、アルバム「YESTERDAY AND TODAY」の様な水増しアルバムを出しつづけ、発禁を意図してビートルズが「ブッチャー・カヴァー」で対抗しても、回収してすぐに「トランク・カヴァー」に変更してでも売ったわけですなあ。ソレで「ブッチャー・カヴァー」の上に「トランク・カヴァー」を貼り付けて売ったりもしたので、コレクター泣かせとなったのです。でもですね、余りにも早く「トランク・カヴァー」に切り替わったわけで、そもそも発禁になるのを見越して「ブッチャー・カヴァー」と同時に「トランク・カヴァー」のデザインも出来ていたんじゃないでしょうか。英国では、シングル「PAPERBACK WRITER / RAIN」の広告として「ブッチャー・カヴァー」の写真が使われています。さて、米国シングル「PAPERBACK WRITER / RAIN」ですが、キャピトルからは14作目(米国では22作目)のシングルとして、1966年5月30日に英国よりも10日も早くリリースされていて、A面の「PAPERBACK WRITER」は全米首位!、B面の「RAIN」も全米23位まで上がっています。
両面共にアルバム「REVOLVER」のレコーディング・セッションからの2曲は、英国では当然ながらオリジナル・アルバムには未収録ですが、A面の「PAPERBACK WRITER」はベスト盤「A COLLECTION OF BEATLES OLDIES」に収録されます。未CD化の「A COLLECTION OF BEATLES OLDIES」には、当時は英国ではアルバム未収録だったシングル曲が全16曲中7曲も収録されていて、新曲「BAD BOY」も入っているお徳用盤でした。「PAPERBACK WRITER」は、基本的にはポールによる曲ですが、ジョンも曲を書いた現場にいたので手伝っています。ポールはリード・ヴォーカルとベースの他に、リード・ギターも担当しています。B面の「RAIN」はジョン作の逆回転を使った最初の曲で、通常よりも早く演奏したオケをスローにしています。ソレで、ジョンによるヴォーカルは逆に遅くして歌っていて、回転数を上げたので高い声になっています。ポールによるランニング・ベースがスゴ技なのですが、アレは回転数を落としているので、実際にはもっと速弾きしているのです。リンゴのドラムスも良くて、自分でもベストプレイだと語っています。米国キャピトルでは、1970年2月26日リリースの編集盤「HEY JUDE」に両面共に収録しちゃいます。
「PAPERBACK WRITER」と「RAIN」はプロモーション・フィルムが制作されていて、後に「HEY JUDE」や「REVOLUTION」、映画「LET IT BE」、ローリング・ストーンズの「ROCK AND ROLL CIRCUS」なども手掛けたマイケル・リンゼイ=ホッグが監督しています。ビートルズは後期になってプロモーション・フィルムを数多く遺していますが、もう世界ツアーも止めてライヴ活動自体を封印した1966年からは「動くビートルズ」が観る事が出来るのはプロモーション・フィルムだけとなったわけで、かなり革新的な事をやっています。当時は酷評された1967年12月26日放送のテレビ映画「MAGICAL MYSTERY TOUR」が現在では「MTV」の元祖と云われていますが、前年である1966年の「PAPERBACK WRITER / RAIN」の方が先です。こうしたビートルズのプロモーション・フィルムが商品化されたのは、なな、なんと、2015年11月6日にリリースされた「1+」だったのですから、困ったちゃんなのです。「RAIN」はトッド・ラングレンが完全コピーしていて、前述の様な複雑怪奇なレコーディングを普通に演奏して歌っていて、エンディングでは逆回転ヴォーカルも逆回転風に普通に歌って、「SHE SAID SHE SAID」も飛び出す遊びも入れています。
(小島イコ)
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