米国でビートルズのレコードを最初にリリースしたのは、マイナー・レーベルのヴィー・ジェイで、1963年2月25日にシングル「PLEASE PLEASE ME / ASK ME WHY」をリリースしています。しかし、ヴィー・ジェイがビートルズのマネジャーのブライアン・エプスタインと契約したのは、英国で1963年3月22日にリリースされたデビュー・アルバム「PLEASE PLEASE ME with Love Me Do and 12 other songs」(シングル「LOVE ME DO / P.S. I LOVE YOU」と「PLEASE PLEASE ME / ASK ME WHY」を含む)14曲と、英国で3作目のシングル「FROM ME TO YOU / THANK YOU GIRL」の合わせて16曲だけでした。ヴィー・ジェイからリリースしたシングル「PLEASE PLEASE ME / ASK ME WHY」と「FROM ME TO YOU / THANK YOU GIRL」(1963年5月27日)も、アルバム「INTRODUCING THE BEATLES」(1963年7月22日)も、リリースした1963年には全く売れていません。ソレが、大手のキャピトルからビートルズのシングルやアルバムがリリースされる様になって1964年に大ヒットすると、便乗してヴィー・ジェイからのシングルもアルバムも売れる様になったのです。
しかし、ヴィー・ジェイが販売権を持っていたのは全16曲のみだったので、それらを何度も繰り返してリリースするしか手がありませんでした。キャピトルが新曲シングル「CAN'T BUY ME LOVE / YOU CAN'T DO THAT」や新作アルバム「THE BEATLES’ SECOND ALBUM」をリリースして大ヒットさせているのをしり目に、ヴィー・ジェイが1964年3月23日にリリースしたのがEP「SOUVENIR OF THEIR VISIT TO AMERICA(THE BEATLES)」とシングル「DO YOU WANT TO KNOW A SECRET / THANK YOU GIRL」です。EP「SOUVENIR OF THEIR VISIT TO AMERICA(THE BEATLES)」は、A面が、1「MISERY」、2「A TASTE OF HONEY」で、B面が、1「ASK ME WHY」、2「ANNA(GO TO HIM)」の4曲入りで、全てが英国でのデビュー・アルバム「PLEASE PLEASE ME with Love Me Do and 12 other songs」にも、ソレを元にした米国でのデビュー・アルバム「INTRODUCING THE BEATLES」にも収録された曲ばかりです。シングル「DO YOU WANT TO KNOW A SECRET / THANK YOU GIRL」も、カップリングを変えただけの1963年の楽曲です。ジャケットのイラストが同じで手抜きっぽいEPとシングルも、それぞれ100万枚以上売れたと云うのですから、ドサクサ紛れのリイシュー盤としては充分な成績でしょう。特にジョン作でジョージが歌った「DO YOU WANT TO KNOW A SECRET」は、米国ではジョージが歌った初めてのシングルA面曲となりました。コレが本国英国では、1969年のシングル「SOMETHING」が最初なのです。
ビートルズが売れても、マイナー・レーベルであるヴィー・ジェイの経営は傾いていて、同じ16曲の素材から何度もシングルやアルバムを出してゆくので飽きられて、キャピトルからも訴えられて、1966年には倒産してしまいます。末期の1964年8月10日には、リイシューで「DO YOU WANT TO KNOW A SECRET / THANK YOU GIRL」と「PLEASE PLEASE ME / FROM ME TO YOU」と「LOVE ME DO / P.S. I LOVE YOU」と「TWIST AND SHOUT / THERE'S A PLACE」と4作のシングルを乱発したりもするのですが、もう同じ手は食わんよ、とばかりにヒットしていません。さて、「SOUVENIR OF THEIR VISIT TO AMERICA(THE BEATLES)」は米国での初めての4曲入りEPだったのですが、米国ではEPが一般的ではなく、あまり出ていません。コレが英国だと、1963年7月12日に1作目「TWIST AND SHOUT」が、同年9月6日に2作目「THE BEATLES' HITS」が、同年11月1日に3作目「THE BEATLES No.1」と3作12曲がリリースされています。1964年2月7日には4作目EP「ALL MY LOVING」がリリースされたところまでは、以前に書きました。
そして、1964年6月19日にリリースされたのが5作目のEP「LONG TALL SALLY」で、内容は、A面が、1「LONG TALL SALLY」、2「I CALL YOUR NAME」で、B面が、1「SLOW DOWN」、2「MATCHBOX」の4曲入りなのですが、それまでのEPがシングルやアルバムからの既発曲を収録していたのに、コノ5作目の「LONG TALL SALLY」は4曲全てが未発表の新曲だったのです。これらの4曲は英国での3作目のアルバム「A HARD DAY'S NIGHT」のセッションでレコーディングされていて、そちらは13曲が全て「レノン=マッカートニー」によるオリジナルで構成されているものの既発シングル2作4曲が収録されているのですが、こちらのEPにカヴァー曲3曲と「レノン=マッカートニー」1曲の新曲で固めているわけです。こうして英国でのリリースはファンに2度買いをさせない様にシングルとアルバムは別にしてリリースしていたのに、米国ではそんな事は知ったこっちゃないとばかりに独自のシングル・カットや水増しアルバムを乱発してゆくわけですなあ。
(小島イコ)
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