
2007年にヒア・ミュージックへ移籍したポール・マッカートニーは、2007年にオリジナル・アルバム「MEMORY ALMOST FULL」を、2008年にはインディーズから「THE FIREMAN」名義の3作目アルバム「ELECTRIC ARGUMENTS」を、2009年にはライヴ盤「GOOD EVENING NEW YORK CITY」をリリースして、2010年からは「アーカイヴ・コレクション」を始めて、2010年にはアルバム「BAND ON THE RUN」を、2011年にはアルバム「McCARTNEY」とアルバム「McCARTNEY U」を、2012年にはアルバム「RAM」を、それぞれリイシューしています。2011年10月3日にはクラシック・アルバム「PAUL McCARTNEY'S OCEAN'S KINGDOM」もリリースしているし、相変わらずツアーも行っていました。「アーカイヴ・コレクション」に関しては、2009年9月9日にビートルズの全アルバムを初CD化以来22年ぶりにリマスターして発売されたので、ポールもソレを待って始めたのでしょう。2010年にはジョン・レノンのスタジオ・アルバムも全てリマスターされてリイシューされていますし、ジョージ・ハリスンはレーベルごとに2004年(ダーク・ホース)と2014年(アップル)にリマスターされています。
ところが、一気にリマスターしたジョン(2010年)やジョージ(2004年と2014年)とは違って、ポールのリマスター盤である「アーカイヴ・コレクション」は矢鱈と豪華な作りとなっていて、2024年の現在でも完結していません。それどころか、2022年には此の連載中の7インチ・シングル80枚組木箱「THE 7‘’ SINGLES BOX」なんかを出しちゃうし、今年(2024年)にはアルバム「BAND ON THE RUN」50周年記念盤や1974年の未発表スタジオ・ライヴ盤「ONE HAND CLAPPING」をリリースしちゃうしで、一体「アーカイヴ・コレクション」はどうなっているのでしょうか。しかしながら、亡くなってしまったジョンやジョージとは違って、ポールは声の衰えはあるものの現役なので、新作アルバムの制作やツアーも行っていて、リイシュー盤ばかり出しているわけにもいかないわけですなあ。更に、ポールの場合はビートルズのリイシュー盤との兼ね合いもあって、自分勝手に新作アルバムやリイシュー盤をリリースするわけにもゆきません。現にアルバム「BAND ON THE RUN」の50周年記念盤は本来ならば昨年(2023年)に出せたのに、ビートルズ最後の新曲「NOW AND THEN」と「赤盤」「青盤」新装盤があったので今年(2024年)にずれ込んでいます。
それでも、ビートルズも含めてポールは毎年アルバムを出しているわけですが、2012年2月7日にはソロ名義では15作目(ポール&リンダ、ウイングスを含めて23作目)となるスタジオ・アルバム「KISSES ON THE BOTTOM」を、MPL/ヒア・ミュージックからリリースしました。内容は、1「I'M GONNA SIT RIGHT DOWN AND WRITE MYSELF A LETTER(手紙でも書こう)」、2「HOME(WHEN SHADOWS FALL)」、3「IT'S ONLY A PAPER MOON」、4「MORE I CANNOT WITH YOU(もう望めない)」、5「THE GLORY OF LOVE」、6「WE THREE(MY ECHO, MY SHADOW AND ME)」、7「AC-CENT-TCHU-ATE THE POSITIVE」、8「MY VALENTINE」、9「ALWAYS」、10「MY VERY GOOD FRIEND THE MILKMAN」、11「BYE BYE BLACKBIRD」、12「GET YOURSELF ANOTHER FOOL」、13「THE INCH WORM」、14「ONLY OUR HEART」の、全14曲入りで、「デラックス・エディション」には、15「BABY'S REQUEST」、16「MY ONE AND ONLY LOVE」の2曲がボーナス・トラックとして収録されています。
通常盤の全14曲中、ポールのオリジナルは3人目の妻となったナンシー・シェベルに捧げた「MY VALENTINE」と「ONLY OUR HEART」の2曲だけで、デラックス・エディションに収録された「BABY'S REQUEST」のセルフ・カヴァーも加えても3曲のみで、他の13曲はジャズ系のスタンダード・ナンバーのカヴァーで構成されています。プロデュースはトミー・リピューマで、彼の推薦で音楽監督はダイアナ・クラールで、エリック・クラプトン(「MY VALENTINE」のギター)やスティーヴィー・ワンダー(「ONLY OUR HEART」のハーモニカ)がゲストで参加していますが、ポールはアレンジも演奏も丸投げして、ヴォーカルに専念しています。全英3位・全米5位(ジャズ・アルバム・チャートでは首位!)と大ヒットしていて、グラミー賞も獲得した名盤なのですが、ロックンローラーであるポールとは違った路線なので、困惑するファンもいるでしょう。ジョニー・デップとナタリー・ポートマンが手話を披露する「MY VALENTINE」のMVも、シンプルながら美しい映像です。「MY VALENTINE」は2011年12月に配信限定で先行リリースされて、「THE 7‘’ SINGLES BOX」では70枚目で、新たに制作された「MY VALENTINE / GET YOURSELF ANOTHER FOOL」が収録されています。
(小島イコ)
【関連する記事】