2022年12月2日にMPLからリリースされた「THE 7'' SINGLES BOX」も、丁度真ん中の40枚目となりました。7インチ・シングル盤80枚組と云う「ポール・マッカートニーでしか有り得ない」此の木箱は、アナログ盤80枚組+テスト・プレス盤1枚の他に、159曲の配信でも発売されています。シングル盤が80枚なのに、160曲ではなく159曲なのは、3曲入りのシングル「COMING UP」と「NO OTHER BABY」や、片面のみのシングル「PARTY PARTY」や、新たに制作した「LIVERPOOL ORATORIO」からの4曲入りなどがあるのと、「OLD SIAM, SIR」や「C MOON(LIVE)」や「WE ALL STAND TOGETHER」や「WONDERFULL CHRISTMASTIME」が重複しているからで、アナログ盤は80枚組全163曲ですが、配信では重複している4曲をはぶいた159曲になっているのです。ブートレグCD9枚組の「THE 7'' SINGLES」は、内容はアナログ80枚組と同じく重複曲も含めた163曲入りで、ジャケットだけ159曲の配信と同じものになっているので159曲入りと書いてあって、実際は163曲なのです。
つまり、ブートレグ業者は配信音源159曲をデジタル・コピーして、ご丁寧に中味は重複曲を元の位置にも入れて163曲入りにしているわけですよ。ソレでCD9枚組で新品が3千5百円位の価格設定だったので、安いし、場所は取らないし、配信音源のコピーだから音質も最上級なのです。シングル・ヴァージョンやDJエディットも多く含まれているし、アルバム未収録曲も多いし、新音源も2曲あるので、音源だけ欲しければ木箱は勿論、配信よりもバカ安値で購入出来るのです。CD9枚組なので勘違いしたのか、それとももう新品がなくなったのか、中古盤が7千円近い価格で売られていました。誰が買うんだ?と思ったら、次に行った時には売れていました。しかし、コレでポールの全てのシングルが手に入るわけではありません。既にこれまで取り上げて来た時代でも、日本などでシングル・カットされた「出ておいでよ、お嬢さん(EAT AT HOME)」とか、スージー&ザ・レッド・ストライプスやカントリー・ハムズと云った変名シングルなどが漏れているし、12インチ・シングルやCDシングルのカップリング曲は多くが聴けません。そして、ポールにはビートルズ時代のシングルもあるわけですなあ。
さて、1985年11月1日に、ポールはシングル「SPIES LIKE US / MY CARNIVAL」をMPL/パーロフォンからリリースしました。A面はジョン・ランディス監督の同名映画の主題歌で、ポールが書き下ろして、ヴォーカル、ベース、エレクトリック・ギター、ドラムス、キーボード、パーカッション、タンバリンと、ほとんどをワンマン・レコーディングしていて、エディー・レイナーがシンセサイザー、リンダ・マッカートニーとエリック・スチュワートとケイト・ロビンスとルビー・ジェイムズがバッキング・ヴォーカルで参加しています。映画に主演したチェビー・チェイスとダン・エイクロイドも登場しているミュージック・ヴィデオは面白いのですけれど、楽曲の出来栄えは酷いもんです。プロデュースはヒュー・パジャムとフィル・ラモーンが共同で、ヒュー・パジャムは翌1986年リリースのアルバム「PRESS TO PLAY」を引き続き手掛けていて、フィル・ラモーンは1987年リリース予定だったアルバム「RETURN TO PEPPERLAND」を手掛ける事となったのです。云ってみれば、1980年代中期にポールが低迷した事になっている元凶が、此の「SPIES LIKE US」なのです。ところが、此のシングル「SPIES LIKE US」は、全英13位・全米7位とそれなりにヒットしてしまったのです。ソレで、ポールは勘違いしちゃったんでしょうなあ。
7インチ・シングルと変型ピクチャー・シングルと12インチ・シングルと12インチ・ピクチャー・シングルも出ていて、12インチには「SPIES LIKE US」の「パーティー・ミックス」と「別ミックス」と「DJヴァージョン」と「MY CARNIVAL」の「パーティー・ミックス」が収録されていますが、駄曲「SPIES LIKE US」を何ヴァージョンも聴かされるのは拷問です。B面の「MY CARNIVAL」は、1975年1月の「第5期ウイングス」によるアルバム「VENUS AND MARS」用のニューオリンズでのレコーディング曲の蔵出しで、ポール(ヴォーカル、ピアノ)、リンダ(オルガン、ヴォーカル)、デニー・レイン(ベース、ヴォーカル)、ジミー・マカロック(ギター、ヴォーカル)、ジョー・イングリッシュ(ドラムス、パーカッション)に、ベニー・スペルマンとミーターズがヴォーカルで参加しています。未発表曲集「HOT HITS-KOLD KUTS」や「COLD CUTS」への収録が何度も予定されていた楽曲のひとつで、ズバリ云って此のシングルはB面の方が良いです。元ネタが同じなので、大瀧師匠のアルバム「NIAGARA MOON」みたいです。両面共にアルバム未収録曲ですが、「SPIES LIKE US」はアルバム「PRESS TO PLAY」の「ザ・ポール・マッカートニー・コレクション」に、「MY CARNIVAL」はアルバム「VENUS AND MARS」の「アーカイヴ・コレクション」に、それぞれ収録されています。「THE 7'' SINGLES BOX」には40枚目で、米国盤のピクチャー・スリーヴで復刻されています。
(小島イコ)