nana.812.png

2024年05月05日

「ポールの道」#361「THE 7‘’ SINGLES BOX」#37「PIPES OF PEACE / SO BAD」

Pipes Of Peace - EX


1983年10月31日にMPL/パーロフォンからリリースされたポール・マッカートニーの4作目のソロ・アルバム「PIPES OF PEACE」は、元々は1982年4月26日にリリースされた前作アルバム「TUG OF WAR」との2枚組を予定していました。故に、2枚に分かれての当初のリリース予定は1983年1月だったものの、ポールが映画制作に入ってしまったりして遅れています。そうしている間に「SAY SAY SAY」と「THE MAN」を共作共演したマイケル・ジャクソンのアルバム「THRILLER」が先に発売されてしまい、7千万枚とも云われるモンスター・セールスとなったのでした。アルバム「PIPES OF PEACE」の内容は、A面が、1「PIPES OF PEACE」、2「SAY SAY SAY」、3「THE OTHER ME(もう一人の僕)」、4「KEEP UNDER COVER」、5「SO BAD」で、B面が、1「THE MAN」、2「SWEETEST LITTLE SHOW」、3「AVERAGE PERSON」、4「HEY HEY」、5「TUG OF PEACE」、6「THROUGH OUR LOVE(ただ愛に生きて)」の、全11曲入りです。「SAY SAY SAY」と「THE MAN」がマイケルとの共作で、「HEY HEY」がスタンリー・クラークとの共作で、他はポールの単独作です。

此の内、アルバム「TUG OF WAR」のセッションでレコーディングされたのが、「SAY SAY SAY」と「KEEP UNDER COVER」と「SO BAD」と「THE MAN」と「SWEETEST LITTLE SHOW」と「AVERAGE PERSON」と「HEY HEY」の7曲で、其の後に此のアルバム用にレコーディングした曲は、「PIPES OF PEACE」と「THE OTHER ME」と「TUG OF PEACE」と「THROUGH OUR LOVE」の4曲だけです。つまり、本当に2枚組にする予定で、こちらに回された曲のほとんども完成していたわけです。アルバム「PIPES OF PEACE」のレコーディングは、1980年11月から1983年7月までと長期に渡っているのはアルバム「TUG OF WAR」と同時進行だったからで、参加ミュージシャンの顔ぶれが被っているのも、プロデュースがサー・ジョージ・マーティンでエンジニアがジェフ・エメリックであるのも、其の為です。全英首位!全米首位!だった前作アルバム「TUG OF WAR」と比べると、アルバム「PIPES OF PEACE」は全英4位・全米15位と落ちています。特に全米15位は、先行シングル「SAY SAY SAY」が6週連続首位!になったのに低すぎる結果でした。

現在ではポールは1980年代中頃に低迷した事になっていて、ソレを1986年リリースで10ccのエリック・スチュワートと組んだアルバム「PRESS TO PLAY」(全英8位・全米30位)のせいにしているアホな評論家がいるのですけれど、1983年のアルバム「PIPES OF PEACE」が全英4位・全米15位で、1984年のサントラ盤「GIVE MY REGARDS TO BROAD STREET」が全英首位!全米21位だった2作の存在を敢えて無視しているんじゃないでしょうか。全米では「首位→15位→21位→30位」と緩やかに下降していったのが1980年代のポールであって、更に云えば1989年のアルバム「FLOWERS IN THE DIRT」も全英首位!全米21位なのですよ。つまり、英国ではずっとトップ10ヒットだったし落ちぶれてなんかいなかったし、エリック・スチュワートと組もうがエルヴィス・コステロと組もうが、英国では売れるけれど米国では売れなくなってしまったのが1980年代のポールだったのです。此の事は、何度も繰り返し語っていますが、どうも日本の頭も耳も悪い評論家は「エリック・スチュワートはダメで、エルヴィス・コステロは良い」と云う事にしたい様子なので「違う」と何度でも云います。

さて、アルバム「PIPES OF PEACE」からは、全英2位・全米6週連続首位!だった「SAY SAY SAY」につづいて、第2弾シングル・カットとして表題曲で平和讃歌「PIPES OF PEACE」を1983年12月5日に英国ではA面にしてリリースして、全英首位!(ビートルズ解散後では「MULL OF KINTYRE」「EBONY AND IVORY」につづく3曲目)の大ヒットとなりました。第2弾シングルでB面の「SO BAD」もアルバムに入っているのに首位!は、英国でのサー・ポール・マッカートニーの面目躍如です。これまたお金を湯水の如く使って制作したと思われるミュージック・ヴィデオでは、第1次世界大戦中のクリスマス休戦を描いていて、ポールが英国軍人と独逸軍人の二役を演じています。アルバム表題曲ではあるものの、シングル・ヴァージョンは冒頭のオーケストラによるSEはカットされています。B面の「SO BAD」はポールが全編ファルセットで歌うラヴ・バラードで、米国や日本ではこちらがA面でした。全米23位までしか上がっていませんが、個人的にはアルバム「PIPES OF PEACE」で最も好きな佳曲です。ブートレグ9枚組の「THE 7‘’ SINGLES」では、此のシングルから5枚目になっています。

「SAY SAY SAY」や「PIPES OF PEACE」でMVにお金を掛け過ぎた反動からか、「SO BAD」のMVは実にシンプルで、ポール&リンダとリンゴ・スターとエリック・スチュワートの4人による演奏シーンとそれをリンダがカメラで撮影しているだけの作品で、4人組なのでビートルズ(二人は本物)を連想させられますし、ポールみたいな人は「SAY SAY SAY」や「PIPES OF PEACE」の様に別人を演じる必要などなく、ただ演奏しているだけで良いと思わされるMVです。ポールとリンゴと一緒にいてもエリック・スチュワートが全く見劣りしないのがイイ感じですし、前作での「TAKE IT AWAY」や此の「SO BAD」や次作サントラ盤「GIVE MY REGARDS TO BROAD STREET」と云った長い参加があってアルバム「PRESS TO PLAY」でのポールとエリックの共作共演に至った道のりを、何故、日本の一部の評論家は無視するのか理解に苦しみます。まあ、多分、そう云う評論家はエルヴィス・コステロが好きなだけなんじゃないでしょうか。ポールが家族の前で披露したら「Girl I Love You So Bad」の部分を聴いた末っ子で長男のジェイムズが「僕は?」と拗ねたので「Boy I love You」を加えたと云うエピソードもあります。「THE 7'' SINGLES BOX」では37枚目で、英国盤のピクチャー・スリーヴで復刻されています。

(小島イコ)

posted by 栗 at 23:00| FAB4 | 更新情報をチェックする