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2024年05月03日

「ポールの道」#359「THE 7‘’ SINGLES BOX」#35「TUG OF WAR / GET IT」

Tug Of War (2LP+7


1982年4月にポール・マッカートニーがリリースした3作目のソロ・アルバム「TUG OF WAR」は、盟友・ジョン・レノンの死を乗り越えてポールが作り上げた傑作です。アルバムの内容は、A面が、1「TUG OF WAR」、2「TAKE IT AWAY」、3「SOMEBODY WHO CARES」、4「WHAT'S THAT YOU'RE DOING」、5「HERE TODAY」で、B面が、1「BALLROOM DANCING」、2「THE POUND IS SINKING」、3「WANDERLUST」、4「GET IT」、5「BE WHAT YOU SEE(LINK)」、6「DRESS ME UP AS A ROBBER」、7「EBONY AND IVORY」の、全12曲入りです。ポールは其の後のリイシューでも本編にはボーナス・トラックを収録していないので、アルバムとしてのトータルな流れにも自信を持っているのでしょう。サー・ジョージ・マーティンの「ポールのソロならプロデュースするが、ウイングスならやらない」や「君(ポール)は、何故いつも自分よりも下手な奴とやっているんだ?」と云った提言が効いて、豪華絢爛な実力があるミュージシャンが多数参加しています。当初は2枚組でのリリースを考えていたので、次作アルバム「PIPES OF PEACE」に収録されるマイケル・ジャクソンとの共作共演曲も、既にレコーディングは終了していました。

先行シングルだった「EBONY AND IVORY」はポールの単独作ながらスティヴィー・ワンダーと二人だけで演奏してデュエットしていて、アルバムと共に全英首位!全米首位!となりました。ポールとスティーヴィーの共作である「WHAT'S THAT YOU'RE DOING」は、セッションをそのまんま曲にした様な出来栄えですが、完璧に近いアルバムの中で息抜きになっているとは思います。第2弾シングル・カット曲「TAKE IT AWAY」でのコーラスで顕著な10ccのエリック・スチュワートの参加も、もっと褒められてもおかしくはありません。A面最後の「HERE TODAY」はジョンへの追悼曲で、アノ「YESTERDAY」を誰もが思い起こさせる弦楽四重奏とポールのアコースティック・ギターの弾き語りです。アルバムは曲間がほとんどなくメドレーの様に流れてゆくので、シングル・カットされた楽曲はシングル・ミックスされているものも多いのです。前回に取り上げた「TAKE IT AWAY」もシングル・ミックスでしたし、シングル「EBONY AND IVORY」のB面曲「RAINCLOUDS」と、12インチ盤の「EBONY AND IVORY」のポール・ソロ・ヴァージョンと、シングル「TAKE IT AWAY」のB面曲「I'LL GIVE YOU A RING」はアルバム未収録でした。

アルバム「TUG OF WAR」は、当初はウイングスの8作目のアルバムとして構想されて、1980年8月にデモ・レコーディングが行われていて、ソレを聴いたサー・ジョージ・マーティンが選曲した楽曲を同年10月には「第7期ウイングス」でリハーサルを行っています。デモ音源は2015年にリリースされたアルバム「TUG OF WAR」とアルバム「PIPES OF PEACE」のボーナス・オーディオで聴けますし、ウイングスでのリハーサルもブートレグで聴けるのですが、其のウイングスによるリハーサル音源が酷い出来栄えなのです。まるで其の辺のガレージ・バンドがガチャガチャやったみたいな粗い演奏で、コレを聴いたからこそ、サー・ジョージ・マーティンは「ウイングスではなくソロで」とか「ポールより下手な連中」とか云い出したんじゃないでしょうか。勿論、ポールが辿って来た「ウイングスの歴史」もマーティンは「ダメだ、こりゃ」と思いながら聴いてきたわけですが、トドメを刺したのは其のアルバム「TUG OF WAR」に向けての「第7期ウイングスでのリハーサル音源」だったと考えられます。ド素人のファンが聴いても酷いのですから、プロ中のプロであるサー・ジョージ・マーティンがダメ出しをするのは当然です。

そうしてサー・ジョージ・マーティンがプロデュースしてジェフ・エメリックがエンジニアを務めたアルバム「TUG OF WAR」は、鉄壁な「大人のアルバム」として作り上げられています。アルバムは勿論の事、先行シングル「EBONY AND IVORY」も、第2弾シングル・カットの「TAKE IT AWAY」も売れました。ソコで、ポールは第3弾シングル・カットの「TUG OF WAR / GET IT」を1982年9月6日にリリースしています。戦争を綱引きに例えた反戦歌である此の表題曲は、ジョンの「IMAGINE」と比較されたりもしますが、ジョンの死によってポールは「ジョンならどうする?」を考えて曲を書くようになったのです。アルバムでは冒頭で、綱引きのSEから始まって最後は次の「TAKE IT AWAY」と繋がっていますが、シングルではSEなしで最後も被らないミックスになっています。演奏はオーケストラ以外はほとんどポール単独で、デニー・レインとエリック・スチュワートがギターで参加しています。コーラスはリンダとエリックで、そちらの綱引きではエリックが勝ったわけです。B面の「GET IT」はカール・パーキンスとの共演で、ドラムスなしのロカビリー・ナンバーで、こちらもシングル向けのミックスです。此のシングルは両面共にアルバムに入っているので、全英・全米共に53位と低迷しています。「THE 7‘’ SINGLES BOX」では35枚目で、英国盤のピクチャー・スリーヴで復刻されています。

(小島イコ)

posted by 栗 at 23:00| FAB4 | 更新情報をチェックする