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2024年05月02日

「ポールの道」#358「THE 7‘’ SINGLES BOX」#34「TAKE IT AWAY / I'LL GIVE YOU A RING」

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1982年4月にリリースしたポール・マッカートニーのソロ名義では3作目のアルバム「TUG OF WAR」は、先行シングル「EBONY AND IVORY」と共に全英首位!全米首位!と特大ヒットになりました。レコーディングが1年以上も掛かったのは、此の時のポールが下手なものは絶対に出せなかったからです。其の理由は、盟友・ジョン・レノンの悲劇的な死だったとしか云えません。ビートルズが解散しても、ポールは常にジョンを意識して音楽活動をしていたのですから、其の喪失感は想像を絶する程に大きく、しかも世間は「ジョンの死後にポールはどうするのか?」と厳しい目で見ていました。殺されて神様になったジョンと比較されるのですから、プレッシャーは重すぎたでしょう。しかし、追い込まれた時にこそ本領を発揮するポールは、サー・ジョージ・マーティンとジェフ・エメリックと云うビートルズ時代の鉄壁なプロデューサーとエンジニアを起用して、超豪華絢爛なミュージシャンたちをゲストに迎えて、ほぼ完璧なアルバム「TUG OF WAR」を世に問うたのでした。そこに、ポール・マッカートニーと云う名の化け物の真価があるのです。

スティーヴィー・ワンダーとデュエットした「EBONY AND IVORY」の特大ヒットにつづいて、ポールが第2弾シングル・カットしたのが「TAKE IT AWAY / I'LL GIVE YOU A RING」で、1982年6月21日に7インチ盤を、同年7月5日に12インチ盤をパーロフォンからリリースしています。日本では12インチ・シングル盤のみのリリースでした。A面の「TAKE IT AWAY」のレコーディング・メンバーは、ポール・マッカートニー(リード&バッキング・ヴォーカル、ベース、アコースティック・ギター、ピアノ)、リンダ・マッカートニー(バッキング・ヴォーカル)、エリック・スチュワート(エレクトリック・ギター、バッキング・ヴォーカル)、リンゴ・スター(ドラムス)、スティーヴ・ガット(ドラムス)、ジョージ・マーティン(エレクトリック・ピアノ)です。サー・ジョージ・マーティンが演奏にも加わって、ドラムスがリンゴ(スティーヴ・ガットとのダブル・ドラムス)と、当時は盛んに「ビートリー」と云われていました。つまりは「ビートルズ風」だから「ビートリー」なのですが、エンジニアのジェフ・エメリックも加えて「役者が揃った」のですから、そうなりますわなあ。更に云えば、ポールは「WANDERLUST」の間奏でジョージ・ハリスンにギターを弾いてもらう心算だったらしく、それじゃあ、もう「ビートルズ」になってしまったでしょう。

個人的には此の「TAKE IT AWAY」がアルバム「TUG OF WAR」で最も好きな曲なのですが、ソレは「ビートリー」なだけではなく、10ccのエリック・スチュワートがガッツリと参加しているからです。終盤のコーラスを聴くと、これぞ正に「ビートルズ+10cc」になっていて、ゾクゾクします。エリックは結果的には、ここからポールの4作のアルバムに継続して参加する事となります。元々アルバム「TUG OF WAR」は2枚組でのリリースを考えていたので、次作アルバム「PIPES OF PEACE」に回されたマイケル・ジャクソンとの共作共演曲なども既にレコーディングは終了していたのです。故に、双方のアルバムにデニー・レインが参加しているのは、まだポールと喧嘩別れする前の1980年12月から1981年2月までのレコーディング楽曲が混じっているからなのです。実質的にはアルバム「TUG OF WAR」からは、ポールの相方はデニー・レインからエリック・スチュワートに交代していたわけです。ソレはサー・ジョージ・マーティンが「ポールより下手なデニー・レイン」を切って「ポールと同等に演奏出来るレベルのエリック・スチュワート」を選んだとも云えます。

元々はリンゴの為に書いたと云うシングル「TAKE IT AWAY」は、全米10位・全英15位とまずまずのヒットとなっています。B面の「I'LL GIVE YOU A RING」はアルバム未収録曲で、後にアルバム「TUG OF WAR」の「アーカイヴ・コレクション」で初CD化されて、レコーディング・メンバーは、ポール・マッカートニー(ヴォーカル、エレクトリック・ギター、ベース、ピアノ、ドラムス)、トニー・コー(クラリネット)、リンダ・マッカートニー(バッキング・ヴォーカル)、エリック・スチュワート(バッキング・ヴォーカル)で、ほとんどが1974年頃のポールのワンマン・レコーディングにオーバーダビングしています。ポールがまだ10代の頃に書いたと云う此の曲では、既にデニー・レインの名前は消えていて、エリック・スチュワートが加わっています。10ccと云えばゴドレイ&クレームが在籍していた時代がやはり良いのですけれど、エリック・スチュワートが参加しただけでポールの曲が「10cc風」になってしまう(逆にエリックの代わりにデニー・レインが入るとウイングス風になる)のですから、面白いのです。「TAKE IT AWAY」はイントロがアルバムでは「TUG OF WAR」のエンディングと被っていたのですが、シングルでは被らない別ミックスです。12インチ盤には、アルバムから「DRESS ME UP AS A ROBBER」が加わっています。「THE 7‘’ SINGLES BOX」には34枚目で、英国盤のピクチャー・スリーヴで復刻されています。

(小島イコ)

posted by 栗 at 23:00| FAB4 | 更新情報をチェックする