さて、箱の「EACH TIME VOX」は、CD1が「EACH TIME 40th Anniversary Edition」全13曲で、全てがこれまでとは異なる「40th Anniversary Version」と云う名の、どうにもこうにも煮え切らないリミックス音源集となっていて、ソレは通常盤でも同内容なので、今後はソレがアルバム「EACH TIME」の基本とされるのかが不安です。大瀧師匠は音源の管理にも厳しい人だったので、なんちゃってリミックスを作ろうと思えば、素材は山程残されているわけですが、本当に「EACH TIME VOX」まで到達したのですから、もうこんな事は止めて欲しいです。ココまで来ると、次はビートルズみたいに新曲とか云い出しそうですし、実際に「HAPPY ENDING」や「夢で逢えたら」などではそうした「疑似・大滝詠一音源」が作られていて、聴く度にとても悲しい気持ちにさせられているのです。CD2は「井上大輔ラジオトーク」で、コレは面白かったけれど、また「ラジオ番組を商品化するとは何事だ」と云われそうです。後は「EACH TIME Special Edit」と「恋のナックルボール(1st Recording Version)」と「Cider ’83」が収録されていますが、まあ、オマケですね。
CD3は「EACH TIME Sessions」で、アルバム「EACH TIME」のレコーディング・セッションを16曲収録しています。コレに関しては、完全なるマニア向けの音源で、一発録音の演奏に大滝詠一さんが鼻歌スキャットで歌メロを乗せている制作途中段階の音源集です。コレを聴くと、松本隆さんの詞が乗る前の段階なので、アルバム「EACH TIME」の暗く重い世界とは全く違って聴こえます。個人的には、大瀧師匠と松本隆さんのコラボレーションは、前作アルバムである「NIAGARA TRIANGLE Vol.2」での大滝サイドが到達点だったと思っているので、アルバム「EACH TIME」は一寸重すぎるんですよ。但し、此のセッション音源だけだと、大瀧師匠が云っていた「バケツ(「A LONG VACATION」2)」の音作りであった事が分かりますし、アルバム「EACH TIME」への違和感は「松本隆さんの重苦しく物語性が強い詞」と、珍しくソレに寄り添った「大滝詠一さんらしからぬ日本語に忠実な歌唱法」からくるものだと、改めて思いました。
確かに、スタジオでの大瀧師匠の肉声が聴けるのは嬉しいですし、「SHUFFLE OFF」と「オーロラに消えた恋」と「雪のツンドラ」に歌メロを付けようとしているのが、レアです。でもですね、此の3枚のCDは、繰り返し聴く様な代物ではございません。特にCD2とCD3は、一回聴いたらおしまいでいいでしょう。セッション音源は「ロンバケ」や「トライアングル2」の箱にも入っていましたが、もうね、完全に制作方法がブートレグなんですよ。色々と変えたらナイアガラーやファンは喜んで買うだろう、とバカにしている感じがして、全く喜べません。CD1に関しても、未完成のアルバム「EACH TIME」を、更に面倒な事にしてしまったとしか云えません。後は、アナログ盤がVOXと単品で別内容なのも、商魂逞しい近年のナイアガラとソニーらしいのです。ソニーは5月に出る櫻坂46の円盤も3枚組にして1万8千円に値上げしているし、ズバリ云って、あたくしは邦楽の新譜はナイアガラ関連と櫻坂46しか買わないので、どっちもソニーなので困ったちゃんなのですよ。
VOXの目玉は、やはりBDです。まずは映像で「EACH TIME THE MOVIE」(ちびまる子ちゃんも登場)と「ペパーミント・ブルー」が、新たに制作されて収録されていて、「ペパーミント・ブルー」と「フィヨルドの少女」と「EACH TIME TV-CM」は当時のものが収録されています。当時のフィルムはタイム表示がずっと出ていて観難いものの、ソレしか残っていないのでしょう。そして「5.1chサラウンド音源」で全12曲(「SHUFFLE OFF」以外)と、「EACH TIME 1984 Original Mix」がハイレゾリマスタリング音源で全9曲、「EACH TIME SINGLE VOX」がハイレゾリマスタリング音源で全9曲、「EACH TIME Singles + Rarities」がハイレゾリマスタリング音源で全9曲、「EACH TIME Karaoke」がハイレゾリマスタリング音源で全14曲、合計53曲が収録されています。
つまりは、1984年から何度もリイシューされる度に変更されてきたアルバム「EACH TIME」のほとんどのミックス違い音源が、今回のBDに収録されている事になりました。241分(4時間1分)も収録されていて、やはり、BDだけバラ売りしろと云われそうなある意味「無駄に豪華でマニアック」な内容です。箱としては2021年リリースの「ロンバケ」は、まあまあ良かったけれど、2022年リリースの「トライアングル2」は本編が箱のCDには入っていないダメダメVOXで、今回の「EACH TIME」も、またしても本編抜きのCDだけなら及第点以下で、BDで何とか好評価出来る様な代物です。紙モノのオマケも沢山付いていますが、一回眺めたらハイそれまでヨなので、CDとBDだけ抜き取って、デカイ箱は押し入れに収めておしまいです。アナログ盤もCD1と同内容なので、わざわざ出して聴かないでしょう。個人的には、CDは選書盤と20周年記念盤と30周年記念盤も持っているので、今回の怪しげな40周年記念盤CDは余り聴かないで、専らBDでゆったりと聴く事になりそうです。
(小島イコ)