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2024年03月24日

「ナイアガラ考」#106「EACH TIME VOX」「EACH TIME 40th Anniversary Edition」(上)



コレを書いているのは2024年3月20日で、ウチにも「EACH TIME VOX」が届いたので、早速聴いています。某「レコード・コレクターズ」誌のインチキ特集の様に「音源を聴いていない状態で書いている」のではなく、あたくしは単なるド素人の大瀧師匠ファンですが、キチンと聴いて書いています。大瀧師匠がプロデュースして大滝詠一さんが歌ったアルバム「EACH TIME」は、生前の大滝詠一さんの最後のオリジナル・アルバムで、今年で発売40周年を迎えたので、CD3枚組+LP2枚組+BDからなる「EACH TIME VOX」と、CD2枚組と、LP12インチ+7インチの3形態でのリリースです。今回は通常盤のCD2枚組はVOXのCD1とCD2と同内容の様ですが、単体のLPは1984年のオリジナル・ミックス及び曲順全9曲の12インチ盤に「フィヨルドの少女 / Bachelor Girl」の7インチ盤で、VOXのLPはCD1の「40th Anniversary Version」を2枚組にしたので、内容は全く違います。

そもそもアルバム「EACH TIME」は、リイシューされる度に内容が変わってしまった「未完成アルバム」です。簡単に云えば、1984年3月21日に最初にリリースされた時には全9曲入りで、後に全11曲入りになって、リイシューされる度に曲順とミックスが変わっています。10年前の2014年3月21日にリリースされた30周年記念盤は、2013年12月30日に亡くなった大瀧師匠が最後に自らリマスターした、正に「遺作」となってしまった作品でしたが、大瀧師匠はオリジナルがリリースされた1984年当時から「遺作」と云う表現を使っていて、事実として其の後は二度とアルバムは制作しなかったのです。そんなわけで、今回の「EACH TIME VOX」も、これまでと全く違った内容となりました。が、しかし、大瀧師匠は既に此の世にはいないわけで、聴いていて疑問の連続です。

まずは、CD1は「40th Anniversary Version」ですが、従来の全9曲または全11曲より増えて、全13曲入りになっていて、曲順もこれまでとは全く違っています。注目の内容は、1「SHUFFLE OFF」、2「夏のペーパーバック」、3「Bachelor Girl」、4「マルチスコープ」、5「木の葉のスケッチ」、6「恋のナックルボール」、7「銀色のジェット」、8「1969年のドラッグレース」、9「ガラス壜の中の船」、10「ペパーミント・ブルー」、11「魔法の瞳」、12「レイクサイド ストーリー」、13「フィヨルドの少女」となっております。新たに加わった「SHUFFLE OFF」は、確か渋谷陽一さんのラジオ番組で一度だけオンエアされたインストゥルメンタル曲で、と云うか、大瀧師匠が歌メロを作れなかった未完成楽曲です。ソレがいきなり本編の最初に収録されているのですから、もう此の時点で不安がよぎります。「マルチスコープ」は、これまではボーナス・トラックとして収録されていたNHKの番組のテーマ曲ですが、無理矢理にロング・ヴァージョンにして本編に加わったカタチです。例えコレを大瀧師匠が制作していたとしても、アルバム「EACH TIME」の本編に入れるのは「違う」でしょう。

そして、他の11曲も、全てがこれまでのミックスとは違っています。例えば「Bachelor Girl」や「木の葉のスケッチ」はアウトロが長くエンディングまでフルで完奏しているし、「恋のナックルボール」は最後に大瀧師匠の呟きが途中まで入っているし、「ペパーミント・ブルー」や「魔法の瞳」は前奏が付いているし、「レイクサイド ストーリー」はフェイドアウトせずに大エンディングになっているし、「フィヨルドの少女」はギターとヴォーカルのテイク違いだったりして、一聴しただけで違いが分かる新たなるリミックスで、此れまでよりもイントロやアウトロが長くSEも異なるヴァージョンで収録されております。「フィヨルドの少女」でよく分かる様にダビングした楽器のフレーズまで違う別テイクを加えた楽曲もあって、つまりは大瀧師匠によるアレンジまで変更してしまう領域へ踏み込んでしまったのです。

新たなる曲順は、ほぼレコーディング順にしてあるのだそうですが、「マルチスコープ」がボーナス・トラックではなく本編に加わった事で、全曲「作詞・松本隆 / 作曲・大瀧詠一」と云うコンセプトさえも崩してしまったのはいただけません。1984年のオリジナル・ミックスは、BDと別売りのLPには収録されていますが、CDには収録されていません。今回の「40th Anniversary Version」が、大瀧師匠が不在での新たなるリミックスであるのは、もはや疑い様がないのですが、どうやったって変えられないのが大滝詠一さんの歌です。それだけは、絶対に変えようがないのですが、ヴォーカル・テイク違いもあるので、厄介な事をしてくれましたね。そして、CD2に入っている「井上大輔ラジオトーク」が、圧倒的に愉快痛快です。大瀧師匠のラジオ・トークは本当に良いので、今後は「インチキ・リミックス」よりもそっちをリリースして欲しいもんですなあ。(つづく)

(小島イコ)

posted by 栗 at 23:00| ONDO | 更新情報をチェックする